悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、社会人の勉強を助けるビジネス書です。
■今回のお悩み
「日々の業務に追われてなかなか自分の勉強ができず焦っています。勉強モードにしたいです」(34歳女性/クリエイティブ関連)
「いま勉強しておかないと、大人になってから『勉強しておけばよかったな』って後悔することになるよ。いましかできない勉強があるんだから。大人になったら、勉強したいと思っても、なかなかできるものじゃないんだよ」
小学生のころ、親からそんなことを言われた記憶があります。ぶっちゃけ、子どもにはなかなか実感しづらいことでもあったのですが、いま振り返ってみれば、納得できる気もします。その一方、反論もあるのですけれど。
たしかに、子どものころにしかできない勉強はあるでしょう。ですから、それはしっかりやっておいたほうがいい。そういう意味では、当時の親の主張にもうなずくことができるのです。
ただし、だからといって「大人になったら勉強できない」のかといえば、必ずしもそうではない気がするんですよね。大人になっても、その時々において勉強はできるはずだから。あるいは、すべき勉強が必ずあるから。
だから、やはりそれはするべきなのです。日常に追われてなかなか勉強できないという悩みも、理解はできます。でもやってみれば、「意外なほど困難ではなかった」ということにもなるのではないでしょうか?
そんな思いがあるので、今回は勉強に関する3冊をご紹介しようと思います。
「勉強とはなにか」哲学者の提案
まずは「勉強とはなにか」という根源的なところからスタートしたいのですが、そこでお勧めしたいのが、『勉強の哲学 来たるべきバカのために』(千葉 雅也著、文藝春秋)。
気鋭の哲学者が、勉強の原理と実践について踏み込んだ著作。 「勉強が気になっているすべての人」に向けて書かれているのだそうです。
興味深いのは、「深く勉強する」とはどういうことなのかについての考え方。これは、本書の根幹をなすものでもあります。
深くは勉強しないというのは、周りに合わせて動く生き方です。
状況にうまく「乗れる」、つまり、ノリのいい生き方です。
それは、周りに対して共感的な生き方であるとも言える。
逆に、「深く」勉強することは、流れのなかで立ち止まることであり、それは言ってみれば、「ノリが悪くなる」ことなのです。
深く勉強するというのは、ノリが悪くなることである。
(「はじめに」より)
つまり本書において著者は、これまでにくらべてノリが悪くなってしまう段階を通過し、そこから「新しいノリ」に変化するという、時間のかかる「深い」勉強の方法を提案しようとしているのです。
だとすれば、そのベクトルは、周りに合わせて動く生き方とは正反対になるはず。つまり、「ノリのいい生き方」ができなくなるということなのでしょう。
そう考えると不安にもなりますが、その先にこそ「来たるべきバカ」に変身する可能性が開けているというのです。ここでは、そこに至るまでの道のりが示されているということ。
単純にバカなノリ。みんなでワイワイやれる。これが第一段階。
いったん、昔の自分がいなくなるという試練を通過する、これが、第二段階。
しかしその先で、来たるべきバカに変身する。第三段階。
(「はじめに」より)
いわば集団的・共同的なノリをスタートラインとして、そこから分離するようなノリへと話が進められていくわけです。著者はそれを「自己目的的なノリ」と呼んでいますが、そこに到達したとき、勉強に対する考え方は確実に変化するように思います。
スーパーエリートが教える勉強の"やり方"
さて、勉強に対する心構えやマインドを再確認したところで、次は「勉強法」に焦点を当てた2冊を取り上げてみましょう。
最初は、『ノルウェー出身のスーパーエリートが世界で学んで選び抜いた王道の勉強法』(オラヴ・シーヴェ著、片山奈緒美訳、TAC出版)。
本書について特筆すべきは、著者自身のたどってきたプロセスです。もともとは目立つこともなく、成績も平均的な学生だったのだといいます。しかし中学校で成績のよい生徒に囲まれることになり、あることに気づいたそうなのです。
それは、「勉強には"やり方"がある」ということ。そこで目的意識を持って成績を上げる努力をした結果、高校では好成績を収めることに。その後はノルウェー経済大学、カリフォルニア大学バークレー校に進み、オックスフォード大学で経営学修士号を取得したというのです。
そんな著者は本書において、成績や学習効果を左右するのは「知能の高さ」「勉強時間」「もともと持っている知識」「精神面」「勉強法」の組み合わせだと主張しています。
どれかひとつだけで勉強がうまくいくことはなく、すべての要素が互いに影響を与え合ってこそよい結果が出せるということ。
建物の構造にたとえるなら、知能やすでに持っている知識は建物を支える土台となるものです。これらは変更することはできません。知能は生まれついてのものであり、すでに得た知識は過去の経験に基づくものだからです。けれども、他にも大切な要素があります。効果的に学習する、力を最大限に発揮する、正しく考えるの3つです。(「はじめに」より)
そこで本書では、全体を「効果的に学習するには」「力を最大限に発揮するには」「正しく考えるには」という3つのパートに分け、それぞれについて解説しているわけです。
よい成績をとることができれば、いろいろな意味でチャンスが広がると著者は言います。しかもそれだけではなく、当然ながら自信がつき、満足感も得られるはず。その結果、勉強がさらに楽しくなり、意欲がますます高まるというプラスのサイクルが生まれるというのです。
そして勉強のテクニックは、人生のさまざまな場面でも活用できるそうです。やるべきことに適切な優先順位をつけ、効率的に仕事や勉強に取り組み、どんなときでも正しく考えることができれば、仕事でもプライベートでも成功できるという考え方です。
東大医学部で司法試験合格! 勉強オタクの勉強法
2018年現在、東京大学の医学部に在学しており、4年生のときには司法試験にも合格した実績を持っているのが、『東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっている シンプルな勉強法』(河野 玄斗、KADOKAWA)の著者。テレビや雑誌などでも活躍しているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
こうした華々しい経歴は、「選ばれた人」というようなイメージに結びつくかもしれません。事実メディアでは、「天才」「神脳」などと紹介されるため、「頭のつくりが違う」などと思われることが多いのだとか。しかし著者自身は、明確な根拠とともにそれらをはっきりと否定しています。
僕にはみなさんが想像されるような、常人離れした記憶力や特殊能力はありません。ただひたすらに、勉強の仕方がうまいのです。(「はじめに」より)
つまり自身の「勉強における成功」は、すべて自分が持つ「勉強の方法論」に従った結果にすぎないということ。そういう意味で天才ではなく、だからその勉強法は、誰にでも使える"超強力"なものだというのです。
最大のポイントは、著者が「勉強の鍵は要領のよさにある」と断言している点。「勉強しているように見えないのに、どうして成績がいいんだろう?」と思わせる人がいるものですが、そういうタイプはシンプルに要領がよく、勉強の仕方がうまいだけだということです。
つまり効率を突き詰めて勉強すれば、誰でもそのように思われる側になれるという考え方。そうした考え方に基づき、本書では著者が考える勉強の意義に始まり、モチベーションの高め方、独自のメソッドである「逆算勉強法、点数を底上げするためのテクニックなどが紹介されているわけです。
「勉強が大好きな勉強オタク」だと自称しているだけに、ひとつひとつの考え方や方法論は説得力に満ちています。しかも、すぐに応用できそうなことばかりなので、勉強法のレベルを高めたい人には効果的。
おそらく勉強に必要なのは、「意思」「考え方」「テクニック」。それらをバランスよく駆使していけば、心地よく、そして効果的に勉強していくことができるのではないでしょうか。そういう意味でも、この3冊をぜひ参考にしていただきたいと思います。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。