悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、組織のチームワークを向上させたい人のビジネス書です。
■今回のお悩み
「チームワークと報連相を確立させたい」(61歳男性/営業関連)
少し前、「ワンチーム」ということばが流行りました。ご存知のとおり、2019年のラグビーワールドカップで大躍進した日本代表を支えたワード。「2019ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞にも選ばれもしましたね。
たしかにワンチーム=一丸となることは、複数の人々が同じ目標や目的に向かって進もうという状況においては重要です。ただ、なかなか簡単なことではないのも事実。
本当の意味で一丸となるためには相応の時間が必要ですし、その過程においては、意見の相違などが原因で衝突することも決して少なくないからです。
ましてや年齢も性別もキャリアも異なる人たちが集まった"職場"となると、スポーツのチーム以上に難しいことが増えそう。チーム運営に関するご相談が後を絶たないのも、そんな理由があるからなのかもしれません。
また、ご相談者さんは61歳とのことなので、なおさら若手社員との間の溝は大きくなってしまうということも考えられます。
ところで、今回のご相談は「チームワークと報連相を確立させたい」というものです。しかし、チームワークと報連相の問題では要点が異なるため、両者を一緒に扱ってしまうと齟齬が生じてしまうような気もします。
そこで今回は、あえて「チームワーク」に焦点を絞って3冊をご紹介したいと思います。
開放的な職場の空気「オープネス」
『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(伊庭 正康 著、日本実業出版社)は、“目標達成”を成し遂げるためのチームづくりに関する具体的な方法を紹介したもの。
仕事という観点から、チームワークについて考えているわけです。
企業研修の講師である著者は、リクルートグループで営業職として10年間、管理職として11年間、「目標を達成する(させる)仕事」に携わってきたという人物。その経験が、本書には生かされているのです。
「チームマネジメント」についても一章分のスペースが割かれており、そのなかでは、部下が自主的に動ける環境をつくることの重要性も説かれています。キーワードになっているのは、「オープネス」という考え方。
オープネスとは、上司と部下、同僚同士が、お互いの意見や情報を自由に交換する、開放的な職場の空気のことをいいます。社員クチコミサイト「オープンワーク」の戦略担当ディレクターの北野唯我氏が執筆した『OPENNESS 職場の「空気」が結果を決める』(ダイヤモンド者)で注目された概念です(210ページより)
当然ながら、オープネスの高い職場は離職者も少なく、部下の成長も促進されやすいわけです。逆にオープネスが低い職場だと、部下が「指示を出されるまで動けない」「誰に聴いたらいいのかわからない」「自分でやろうと思っても、やり方がわからない」といった状態になり、受け身の判断が常態化してしまうことに。
ちなみに急速に浸透するリモートワークにおいては、「誰がなにをしているのか」が見えにくくなるため、オープネスが低くなりやすいのだとか。そこで著者は、「ナレッジマネジメント」を取り入れるべきだと主張しています。
ナレッジマネジメントとは、「誰が、どんなことに精通しているのか」を共有しておき、なにか疑問点や困ったことがあったときに、聞くべき相手や、データ、資料、企画等を共有することで、お互いのノウハウにアクセスしやすい環境をつくること。
・「誰に」聞けばいいのかを可視化するため、メンバーのプロフィールを共有する(今の担当業務、前職、特技、出身地などのパーソナル情報)
・プレゼンに成功した企画書、データや資料を共有フォルダに格納する(いちいち質問しなくても、ノウハウにアクセスできる)
(212ページより)
これらのことをするだけでも、メンバーが自ら質問をしたり、ヒントを探し、自分なりに先手を打つことができるようになるはず。すれ違いの多い“忙しい職場”ほど効果があるそうですが、つまりはこういう形でチームに一体感を生み出すことも可能なのです。これは、リモートワークの時代にこそ重要な視点だと言えるのではないでしょうか?
「リーダーとしての基軸」づくりをする
ご存知のとおり、今日、職場の様相は大きく変わってきています。
フラット化が進み、チーム化しました。柔軟さがより問われるようになりました。取り組む課題も、メンバーの特性も構成も違ってきました。系統を超えたプロジェクトチームも多く作られています。さらには時間が限られ、高い成果も求められています。本書は、このように変化しつつある職場やチームを担うリーダーやプレイングマネージャーのためのものです。(「まえがき」より)
『チームマネジメント』(古川久敬 著、日経文庫)の冒頭にはこう書かれています。では、チームの成果を上げるために、リーダーはどのような心構えを持ち、どのような準備をすればよいのでしょうか?
この点については、まず「チームの課題」を見極めることが大切だと著者は主張しています。
リーダーは、なにかにつけて迷い、不安になり、そして悩むもの。しかし、それらはあらゆるリーダーに共通することなので、そうした状態に陥ったとしても自分のことを「だめなリーダー」「リーダーとして適性がない」などと卑下する必要はまったくないといいます。
大切なのは「基軸」。優れたリーダーは、迷ったり悩んだりしたら、改めて自分の「リーダーとしての基軸」に立ち戻り、気持ちや考え方を整理しなおし、次の判断と行動を起こすものだというのです。
したがって、チームの課題を見極めることが重要で、その作業は基軸づくりのスタートであり、ゴールでもあるそう。なお、基軸づくりの手順として、著者は次の7つを挙げています。
(1)リーダーとして、なぜこのチームを任せられているかを自らに問い自覚すること。
(2)どのようなチームを目指すか、どのようなチームにしたいかをはっきりさせること。
(3)自社や部門の経営目標や経営課題を適切に把握し、それらと関連づけた自チームの重要課題について明文化すること。
(4)自チームの課題について、安定実現のための課題と、次の創造や変革のための課題とに峻別し、整理すること。これについても明文化する。
(5)実現すべき課題の優先順位づけをすること。優先順位をつけ、ひとつずつ確実に実現していくためである。
(6)各メンバーに、何を、どのくらい期待するかを整理しておくこと。
(7)トップ、他部門、他部署との連携や協力のとり方について整理すること。
(44ページより)
たしかにこうした基軸を明確化しておけば、リーダーとしての役割を確実に果たすことができそうです。
後輩・部下に「任せる」技術を身につける
ところで、円滑なチームワークを確立させたいのであれば、上司がすべてを抱え込んでしまうのではなく、部下に任せることも重要です。そこで最後に、『任せる技術―わかっているようでわかっていないチームリーダーのきほん』(小倉 広 著、日本経済新聞出版)をご紹介したいと思います。
「いつまでたっても後輩・部下が育たない」
「自分自身のレベルアップができない」
「仕事が多すぎて、潰れてしまいそう」
「仕事の改善をしたいが、忙しすぎて考える時間がない」
「プライベートの時間がない」
これらの悩みは、仕事を「後輩・部下に任せる」ことができれば、すべて解決できるーー。本書の冒頭で、著者はそう断言しています。
後輩・部下に仕事を任せることは典型的なWIN・WINだ。先輩・上司は一段階上の仕事にシフト・アップできるし、後輩・部下は成長できる。それは十分に魅力あるチャレンジだ。(「まえがき」より)
それは「指示されなくても部下が動く」ということでもあるので、長い目で見れば円滑なチームワークにもつながっていくと考えられるわけです。
そうした考え方に基づく本書のなかで、著者は「できるようになってから」任せるのではなく、任せるから「できるようになる」のだと主張しています。
部下に仕事を任せる、ということは上司が本来の上司の仕事へとシフトチェンジすることを意味する。上司が「昨日」や「今日」の仕事に追われずに、「今日とは違う明日」をつくる仕事に集中するのだ。それは上司を成長させることになるだろう。(38ページより)
上司が成長しなければ、部下が成長することもないでしょう。目先に仕事に追われていた上司が、ゆったり構えて未来づくり、環境づくりに集中すれば、部下はよりよい環境のなかでのびのびと仕事をすることができるようになるはず。
つまり上司の成長が、部下の成長をさらに促すということ。本当の意味でのチームワークとは、そこまで広い視野で考えてこそ実現できるものであると言えるのではないでしょうか?
チームワークについて考えようとすると、無意識のうちにさまざまな"決まりごと"を意識してしまいがち。しかし、むしろ本当に大切なのは"視野の広さ"であるはず。そう考えれば気持ちも楽になりますし、よりよいチームワークを実現するためのアイデアを思い浮かべることもできるようになるのではないかと思います。