悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、急な残業に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「急な残業がある」(42歳男性/IT関連技術職)
20代のころに勤めていた会社の上司から教わり、いまでも役に立っていることのひとつが、「なにが起こるかわからない」という考え方です。
「もう大丈夫だと思ってても、仕事ってなにが起こるかわからないものなんだよ。だから、なにがあっても対応できるようにしておかなくてはいけない」
上司はことあるごとにそう繰り返していたのです。若かりし当時は「どうして、そこにばっかりこだわるのかなあ?」くらいの反抗心もあったのですが、そののち「本当にそのとおりだな」と実感する機会が何度も訪れました。予想外の事態に対応できたのも、あの上司の指導あってこそだったと感謝しています。
ところで今回のご相談にも、その考え方が通じる部分があるように思います。
急な残業は嫌なものですが、組織内で仕事をしている以上は"あって当然"でもあるのではないでしょうか? 仕事は必ずしも予定通りに進むとは限らないからです。まさしく、「なにが起こるかわからない」のです。
それでも残業したくないなら会社を辞め、残業しなくて済むような仕事を探すしかないかもしれません。長年フリーランスとしてやってきた立場からいうと、実質的にはフリーランスこそ急な仕事だらけなのですけれど。
それはともかく、会社に所属していて残業を避けられないのだとしたら、不満を言っても時間の無駄です。本当にすべきことは、その仕事を少しでも早く終えて帰宅することであるはずです。
逆にいえば、状況に左右されることなく、効率よく仕事をこなせるスキルを身につけておけば、急な残業を頼まれたときにもストレスを感じなくて済むのではないでしょうか?
やらなければならないのなら、悲観的にならず前を向き、効率を重視してその仕事を終わらせるべきなのです。「なにが起こるかわからない」のが仕事なのですから。
「面倒な仕事」の原因を分析する
『「すぐやる人」になれば仕事はすべてうまくいく』(金児 昭 著、あさ出版)の著者は、38年間(本書執筆当時)にわたって経理・財務の実務の仕事現場仕事を続けてきたという「たたき上げの経理マン」。
上司から教えられ、自身でも納得した上で築いてきたモットー(日常生活における努力の目標としてのことば)は次の3つだそうです。
(1)正確さ(アキュラシー=accuracy)
(2)迅速さ(スピード=speed)
(3)誠実さ(インテグリティ=integrity)
(「はじめに」より)
この3つを心に据え、日々、目の前にあるひとつひとつの仕事を「すぐにやる」ことを心がけてきたというのです。
とはいえどんな仕事でもサクサクとこなしていけるようなタイプでもなく、「ちょっと面倒くさいな」と思うこともあったとか。でも、そんなときには「しめた!」と思うようにしているのだそうです。分析の材料がひとつ増えたのだと。
分析などというと難しそうですが、早い話が「なぜ、その仕事を面倒だと感じるのか」と、自分の気持ちを分解していくこと。すると、次のような原因が見えてくるといいます。
(1)ほかに何かやりたいことがあるから
(2)やりたくないことに時間を取られるのが嫌だから
(3)自分がやらなくてもよいと思うから
(4)やっても無駄だとわかっているから
(5)単調な仕事でとっつきにくいから
(6)気分が乗らないから
(7)自分が不得意なことだから
(8)やっても誰も評価してくれないから
(9)やっても楽しくないから
(10)やっても誰も喜んでくれないから
(21ページより)
このように分析していくと、なんとなく気持ちが楽になるというわけです。そこまで到達したら、次にすべきは楽になった気持ちをより前向きに変えること。
面倒くさくてやりたくないことでも、いつかは必ずやらなければならないはず。そこで著者はそんなとき、誰もいないところで「いつかは必ずやらなければいけない!」と声に出して叫んでみるのだそう。それを繰り返していると、面倒だと感じていた仕事に対して責任感のようなものが生まれてくるというのです。
もしかしたら、著者と同じように声に出すのには勇気が必要かもしれません。そんな人は、心のなかで叫んでみてはいかがでしょうか? それだけでも効果はありそうです。
「なにをやめるか」決める
『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(理央 周 著、日本実業出版社)は、「毎日残業で、タクシー帰りもしばしば。もっと早く家に帰りたい」「仕事に追われ、自分の時間がとれない」というような思いを抱き、そんな現状を変えたいと思っている人のために書かれたのだそうです。
トヨタ系列の日系企業から外資系企業まで多くの企業に勤めてきた著者は、速く仕事をこなすための重要なポイントは「捨てる」ことだと主張しています。言いかえれば、「なにをやめて、なにをやるか」を決めるべきだということ。
「なにをやめて、なにをやるか」を考えて時間を使うことが、現状を変えるための最短ルートとなるのです。したがって時間を有効に使うには「やるべきことを明確にする」ことから始めなければなりません。(「『なにをやめるか』を決めるだけで『仕事の速い人』になれるーーはじめに」より)
たとえば仕事の速い人とそうでない人との違いとして、著者は「段取り」のスキルを挙げています。いうまでもなく段取りとは、順番や手順のこと。
段取りをつけるために一番重要なのは、最初に全体を見渡し、そのうえで今の仕事の最適化を考えることです。段取りこそが仕事のスピードと質を左右します。
旅行するとき、目的地があるからこそ効率的なルートと移動手段を検討できるのと同様に、ビジネスでも全体像を把握できて初めて、効率的に仕事ができます。(52ページより)
さらにいえば、「全体像=完成形」を把握することも重要。全体像とは、「いつまでに、なにを、どうすればよいか」という大きなゴール。そのゴールに到達するために、「いつまでに、なにを、どうすれば一番よいか」という小さなゴールを考えると、段取りもうまくいくということです。
この「大きなゴール(全体)」と「小さなゴール(部分)」の最適化が、段取りのカギになってくれるわけです。たしかにそれを重視すれば、残業時間を短縮できるかもしれません。
行動の「タイミング」を意識する
ゴールを把握する上で避けることができないのが時間の使い方。しかも、よい機会を手に入れるためには、「どのタイミングで行動するか」が重要だと主張しているのは『忙しい忙しいと言うわりに成果の出ないあなたのための タイミング仕事術』(坂本敦子 著、日本経済新聞出版)の著者。
「Time(タイム)」は、「時、時間」という意味ですが、「Timing(タイミング)」は、「時間調整」という意味合いをもっています。
また、「Chance(チャンス)という言葉が「偶然もたらされた機会・好機」をあらわすのに対し、「Timing(タイミング)」は「好機の選択。潮時(時機)を選ぶこと」という意味があります。「はじめに」より)
タイミングは「主体的につかみとるものであり、それが仕事に大きな影響を与えるということです。だとすれば残業を効率的にこなすためにも、タイミングを意識すべきでしょう。
「タイム」という「時間の流れ」に注目することは確かに有効ですが、ここで発想を変えてみましょう。
時間を「流れ」ではなく、「タイミングの積み重ねである」ととらえるのです。
よって、成功の秘訣を単なる「時間管理」ではなく、「行動するタイミング」にあると考え、「タイミング」にフォーカスして時間を使うという発想です。(20ページより)
「どのタイミングで行動するか」を主軸にすることで、仕事や業績、さらには人生までもがよい方向に流れ始めるのだと著者。そうすれば、残業を効率的に進める際にも大きな効果を期待できるというわけです。
具体的にいえば、自分がとる行動の効果が最も高くなる"ベスト・タイミング"をつかんで行動すれば、生産性も向上し、成果も上がるということ。
そこで、なにからやったらいいのか優先順位に迷うときはそれぞれの行動について次の点を考えてみるべきだといいます。
・このタイミングで行動すると、どのような効果があるか
・このタイミングで行動しないと、どのようなリスクが発生するか
(24ページより)
自分がとる行動のタイミングによって生じる効果とリスクの大きさを比較すれば、なにから優先して着手したらいいかが見えてくるのです。
残業を効率的にこなして早く帰宅するために、意識しておきたいポイントであるとも言えるのではないでしょうか?
もちろん残業は嫌なものですが、やらなければならない以上は気持ちを切り替え、効率的に終わらせたいところ。それが実現できれば、達成感を味わうこともできることでしょう。