悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自己中心的な上司に悩む方へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「自己中心的な上司に悩んでいます」(51歳男性/販売・サービス関連)
自己中心的な人は、どんなところにもいるものです。
多くの場合、彼らは自分を「正しい」と信じ込んでおり、譲歩するという発想を持っていません。それどころか、必要以上に威圧的であったりもします。そのため、周囲の人は必然的にストレスを感じてしまうことになるわけです。
ただでさえそうなのですから、上司がそのタイプだったとしたら、たしかに部下は大変そうです。ましてや、そんな上司を"変える"ことは現実問題として困難。
残念ながら、それは事実なのです。
といっても、「だから諦めろ」と言いたいわけではありません。
できることが限られているなら、「せめて気持ちを楽に持てる状態にしよう」と言いたいのです。
現実を現実として受け入れた上で、自分の精神状態を少しでも穏やかに保つことを優先するべきだということ。上司に振り回されて疲れてしまうのでは意味がありませんし、パフォーマンスにも影響しますからね。
そこで今回は、ストレスから解放されるために役立ちそうな3冊をピックアップしてみました。
「理不尽」をうまく乗りこなす
『ストレス革命 〜悩まない人の生き方』(Testosterone 著、きずな出版)の著者は、筋トレと正しい栄養学の知識を日本に普及させることをライフワークとしている人物。その一方、パワフルな口調を武器に、多くのベストセラーを生み出してもいます。
著者は2019年の『ストレスゼロの生き方』で、「やめる」「捨てる」「逃げる」「受け入れる」「貫く」「決める」のキーワードに沿ってストレスゼロで生きる方法を提言していました。
ところが続編である本書においては、「やめない」「捨てない」「逃げない」「受け入れない」「貫かない」「決めない」「筋トレしない」というアプローチを試みています。
自分の主観に対して批判的意見をぶつけ、感情や主観に流されることなくもごととを判断する「クリティカルシンキング(批判的思考)」を取り入れているわけです。
さて、今回のお悩みの根底にあるのは、自己中心的な上司に対する理不尽さだと思われますが、そのことについて著者は、「あえて理不尽を受け入れるのを、やめない」べきだと主張しています。
理不尽な目にあってしまったら、自分には非がないからと堂々と開き直ってしまえばいいだろうか? 否、理不尽にあうたびに抵抗していてはあなたの人生に無駄な争いが無限に生まれてしまう。生きていれば理不尽なことは絶対に避けられないのだから、理不尽を受け入れるのをやめるのではなく、理不尽をいなす術を身につけなければならない。(30ページより)
もちろん大前提は、理不尽を間に受けないこと。そのうえで、理不尽に上手に対応する術を持つべきだという考え方です。
具体的には、理不尽な目にあってもじっと耐え、相手の望む言葉を吐き、相手をうまく手のひらで転がし、一刻も早く理不尽な状況から抜け出すことが最善の策だというのです。
理不尽なことをしている相手には自覚がないので、そんな人に理不尽だと指摘したり悪い態度をとるという行為は火に油を注ぐようなもの。だからこそ理不尽な目にあったときには、「理不尽を理不尽と気づけない人なんだなぁ。お気の毒になぁ」とでも思ってあしらえばいいということ。
この世には理不尽が多すぎるから、理不尽な目にあうたびに拒否反応を起こしていては前に進むことができない。理不尽は航海における荒波みたいなもんだ。正面からぶつかるのではなく、うまく乗りこなせ。(31ページより)
この主張には、強い説得力があるように思います。
「嫌い」という思考から抜け出す
ところで今回のご相談の背後には、上司のことを「嫌い」だという感情も少なからずあるのではないでしょうか?
しかし『精神科医が教える ストレスフリー超大全 ―― 人生のあらゆる「悩み・不安・疲れ」をなくすためのリスト』(樺沢紫苑 著、ダイヤモンド社)の著者は、「嫌い」という感情に対しては「嫌い」という感情を返されるものだと指摘しています。
つまり、あなたが上司を「嫌い」と思えば思うほど、上司は非言語的なサインを無意識に察知し、あなたに対する態度をより冷たい、あるいは厳しいものにしていくのです。(68ページより)
今回の例で言えば、嫌いだと思えば思うほど、より自己中心的な態度を取られてしまうかもしれないということです。
では、どうしたらいいのか? そんな思考から抜け出す策として、著者は2つの方法を紹介しています。
まずひとつ目は、「普通」の評価を変えること。「嫌い」という感情を減らし、「普通」という基準を導入すれば、「嫌い」な人の数は激減するというのです。
顔も見たくないし、会いたくないし、話したくもない、本当に「大嫌い」という人は、たまに現れるかもしれませんが、それ以外は「普通」でいいのではないかという提案です。(69ページより)
そしてもうひとつの提案は、悪口を言わず、「いいところ」を探すこと。
悪口を言うことで、ストレス発散をしているように感じますが、実は逆の効果をもたらします。(中略)。結局、その人をより嫌いになってしまうのです。嫌いのスパイラルで、人間関係が泥沼の状態に陥るだけです。(70ページより)
悪口を言わないだけでも、人間関係は変わるものだと著者。たしかに、どんな人にも短所があれば、長所もあります。人より劣った部分があれば、人より優れた部分もあるものです。そこで著者が勧めているのは、大嫌いな人の「長所」を7つ書き出すこと。
私たちは、嫌いな人を「見たくもない」と思っているので、嫌いな人を積極的に観察していないのです。あるいは、あなたが「短所」と思っているところの裏返しが、「長所」かもしれません。(70〜71ページより)
そう考えて観察してみれば、自己中心的な上司の中にも長所を発見できるかもしれません。
嫌いな人がいる自分を受け入れる
そもそも「嫌い」という感情を持つことは、気持ちのいいものではありません。したがって、嫌いな相手がいる自分に対し、ときには不快感を感じることもあり得るでしょう。
しかし『嫌いな人がいる人へ 自分を知って生きやすくなるメントレ』(古山有則 著、KADOKAWA)の著者は、「嫌いな人がいる自分を責めないでください」と主張しています。
嫌いな人がいない人はいません。皆、誰かしら嫌いな人がいます。嫌いな人はいますが、自分の口からわざわざ「私は嫌いな人がいます」と言う人はいません。
周りの人に嫌いな人がいることを知らないので、嫌いな人がいる自分を責めてしまうのです。 「なんで私はあの人のことを嫌いなんだろう。私がおかしいのかな」と。
「誰しも嫌いな人がいる」この事実を受け入れましょう。(175ページより)
そして同じように大切なのは、「自分が誰かの嫌いな人になる可能性がある」という事実を受け入れること。
嫌いな人がいるということは、裏を返せば、自分自身が誰かにとっての嫌いな人になるということでもあります。たったひとりにさえ嫌われないことなど、まずありえないわけです。
「すべての人を好きにならなくてはいけない」とどこかで思っていた著者は、このように考えたら心が軽くなったそうです。
嫌いだからといって、相手を否定していることにはなりません。
嫌いな食べ物のような位置づけです。たとえば、トマトが嫌いな人がいます。その人はトマトが嫌いでも、トマトを否定することはしないと思います。ただ、自分は食べないだけです。トマトを食べる人を軽蔑したりはしません。
嫌いになってしまうのは、価値観が合わないだけです。(176ページより)
価値観が合わないだけだと考えれば、自己中心的な人のことも「ああいう人だから」と受け流すことができるはずだということ。それだけで、だいぶ気分は楽になるのではないかと思います。
今回は、自己中心的な上司を「理不尽なことばかりいう"嫌いな人"」と位置づけて考えてみましたが、こうして距離を置いて捉えてみると、見えにくかったことが見えてきて、その上司に対する抵抗感も形を変えていくのではないでしょうか?
考え方、捉え方次第で、気持ちは大きく変わるのです。