悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、ヒステリックな上司との付き合い方に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「ヒステリックな上司との付き合い方がわかりません」(46歳男性/販売・サービス関連)
「ヒステリックな人」は、どこの世界にもいるもの。ただでさえ感情的な人とのコミュニケーションは疲れるのに、ましてや相手が上司となると、さらに厄介なことになりそうです。
では彼らはなぜヒステリックになるのでしょうか?
端的にいえば、自分の意見が相手に伝わらない、もしくは要望が通らないなど、「自分の思いどおりにならない」から感情を爆発させてしまうということなのではないかと思います。
裏を返せば、「感情的、ヒステリックになれば相手は譲歩してくれるだろう」というような勝手な思いが心のどこかにあるのかもしれません。
しかし、いずれにしても幼児的なので、真に受けても虚しさを感じることになるだけ。ですから礼儀やエチケットを踏まえたうえで、そこから先は「そこそこにつきあう」ほうがよさそうです。
「直属の上司なんだから、それは難しい」と感じられるかもしれませんが、気持ちを少し変えてみるだけで、接し方やつきあいかたのコツがわかってくるはずです。
ポイントは、「そういう人だから」と受け止めること。とはいっても、相手を下に見るという意味ではありません。「そういう人」であるのだとしたら、肯定も否定もせず、その"事実"だけを受け止め、「どう接すれば、よりよくなるか」をそのつど考えていくべきだという発想です。
僕も昔、似たようなやり方によって「話の通じない上司」をやり過ごした経験があるので、なおさらそう感じます。
さて、ビジネス書の著者は、どんな回答を投げかけてくれるでしょうか?
キレやすい上司が持っている思想
ひどい上司は"(1)性格に問題がある「イヤな上司」""(2)能力に問題がある「ダメ上司」""(3)姿勢に問題がある「バカ上司」"の3タイプに分類でき、それぞれに対して対応を変える必要があると主張するのは、『バカ上司の取扱説明書』(古川裕倫 著、SB新書)の著者。
今回のご相談にある上司の場合は(1)に当たるのでしょうが、ともあれ注目すべきは本書において、さまざまなひどい上司についての"問題点と対策"が明らかにされている点です。
たとえば「キレやすい上司」への対策については、次のような記述があります。
キレやすい上司には、「後輩は先輩に対して礼儀正しく、先輩を立てて当然。先輩は多少威張っていられる」という時代遅れの思想が働いてしまっています。(47ページより)
もちろん礼儀は不可欠ですが、自身が若いころにパワハラのようなことをされて育ってきただけに、今度は部下に対して同じようなことをしてしまいがちだというわけです。
ただしそういうタイプは、「上司と部下」「先輩と後輩」など昔ながらの美意識が高い人でもあるもの。そのため、不本意な部分もあるでしょうが、もしキレられたくないなら、あえて「謙虚な後輩」を演じることも有効だといいます。
また、自分としては考えたくないことかもしれませんが、しょっちゅうキレられるという以上は、「いくら言っても理解しない」「同じミスを繰り返す」「自分で調べず、つまらないことをすぐに尋ねる」など、なにかまずいことが継続して起きているという可能性もあり得ます。
キレられるほうも嫌でしょうが、本当はキレるほうだって疲れるのです。その疲れを乗り越えてまでキレるのには、やはりそれなりの理由があるのではないかと考えてみることです。(49ページより)
上司だけを非難するのではなく、謙虚な姿勢を持つことも部下には必要だということです。
しかし考えようによっては、そういう上司は"いい上司"の部類なのかもしれません。"ヒステリックな上司"の場合、上記のような「キレやすい上司」が持ち合わせている思想のようなものすら欠けていることもあるのですから。
仕事はできるが性格的に困った上司とは
とはいえ、どんな上司であったとしても、部下である以上はなんとかうまくやっていかなければなりません。そこで、どうするべきかを考えるにあたっては、『困った上司ダメな上司とどうつきあうか』(小林 正博 著、PHP研究所)内の「ダメな上司・困った上司とウマクやるコツ」が参考になりそうです。
ここでは上司のタイプを2つに分け、うまくやるための5つの心がまえを明かしているからです。
まず最初はタイプ1「仕事はできないが性格はいい上司」。自分は仕事ができないと自覚しているのがこのタイプで、有能な部下に助けてもらいない、うまく利用したいという気持ちがあるのだといいます。
でも、ご相談にある「ヒステリックな上司」は、タイプ2「仕事はできるが性格的に困ったヤツ」のほうに分類されそうです。部下をあまり頼りにせず、ちょっとした言葉のあややミスを種に、揚げ足をとるようなタイプ。
仕事はできるのでやりにくい相手ではあるものの、基本的な対応のポイントとしては、次の7つが重要な意味を持つことになるそう。
(1)可能な限り担当範囲内の業務に集中すること
(2)上司の悪口は絶対に言わぬこと
(3)ケアレスミスやつまらぬ失敗で、つけ込むスキを与えないこと
(4)逆に上司の弱みを握ると立場が強くなるので、弱みを握る努力をすること
(5)自信があれば実力を見せつけ、上司にウカツなことはできないと思わせること
(6)知ったかぶりは絶対しない。口は災いの元と知ること
(7)挨拶をきちんとする。朝のおはようございます、帰る時のお先に失礼します、は絶対に実行すること
(154ページより)
著者によれば、これら7点が「仕事はできるが性格的になかなか曲者の上司」に対応するための基本的なポイント。いわばスキを見せず、こちらの切り札をチラつかせることでバランスを保つという考え方です。
個人的には、特に(1)(2)(3)(6)(7)は重要であるように思います。つまりは、人としての基本をわきまえるべきだということ。
つぶれない働き方をするために
『産業カウンセラーが教える 「つぶれない働き方」の教科書』(吉岡 俊介 著、彩図社)の著者は、シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタントとして、悩めるビジネスパーソンの相談に応じているという人物。
長年にわたって大手損害保険会社に勤めていたものの、社内のトラブルで理不尽な思いをしたこともあってうつ病に。結果的には、辞表を叩きつけるようにして47歳で早期退職したという経験の持ち主でもあります。
つまり現職のベースになっているのは、退職後のどん底から立ちなおった経験を伝え、当時の自分と同じような思いをしている人たちの力になりたいという思い。
本書においても、「つぶれない働き方をするためにはどうしたらよいのか」を記しているわけです。
たとえば今回のご相談に関しては、「いやな相手への対応方法」が役立ちそうです。いくつか紹介されているメソッドのなかから、「肯定的受け止め法(1)」と「感謝法」を抜き出してみましょう。
[肯定的受け止め法(1)]
否定的なことを言い続ける相手は、否定的な言葉をふんだんに持ち合わせています。
そして、これでもかと「否定のカード」を攻撃的に差し出してきます。それに対して、こちらも否定のカードをもって対抗すると、とめどもなく争いがエスカレートしていく危険があります。ここは否定ではなく「肯定のカード」を出して相手のトーンを下げるのです。
たとえば、相手の目を見ながら傾聴する姿勢をとる。ときには「軽く」頷く。
軽く頷くのがポイントです。深く頷いて「その通りですね」などとは言わない。相手の存在を肯定しているのであって、相手の主張を肯定しているわけではないということを示す程度にしておきましょう。(154~155ページより)[感謝法]
相手の主張には同意しないものの、相手が自分に言ってくれたことに感謝する方法。
「言ってくださって感謝します」「貴重なアドバイスをありがとうございます」、ときには「わざわざお気を遣っていただき恐縮です」というように、内容は肯定せずに、言ってくれたことには礼を述べる。
否定のカードをぶつけてくる相手は、まさか自分が感謝されるとは予想していません。 そこで「ありがとうございます」と言われてしまうと一瞬ひるみます。
これは相手のモードを少し切り替え、間を設けて冷静になってもらう効果があります。「いや、べつに気を遣っているわけではない」と言うかもしれませんが、その言葉を発することが相手の否定カードの連射を中断させるのです。(156ページより)
他にも「対象転換法」「沈黙法」など、シチュエーションに応じたさまざまな対処法が紹介されています。「ヒステリックな上司」への具体的な対処法について悩んでいるなら、参考にしてみる価値はありそうです。