悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「年上の人の指導は気を使う」と悩んでいる人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「自分より年上の人を指導しなければならないことが多く、とても気を使います」(35歳男性/販売・サービス関連)

  • 年下の部下に悩んでいませんか?


「年上の部下がいるんだけどさぁ、すぐに『俺はこう考える』みたいな持論をぶつけてくるからやりにくくてね」

いつだったか、知人からそんな話を聞いたことがあります。なんでも、なかなか言うことを聞いてくれないのだとか。なにかとそんな主張をされたのでは、たしかにやりにくいだろうなと思います。

もちろん、その"年上部下"にその人なりの持論や価値観があるのは当然です。それどころか根底には、「俺のほうが年上なのに」という悔しさのようなものも少なからずあることでしょう。

だからこそ、必要以上に大きく出てしまうのかもしれませんね。

とはいえ“年下上司”からすれば、非常に厄介なことではあります。気を遣うなといっても、それは無理な話ですからね。いばる必要はないにせよ、上司である以上は指示したり、注意したりすることも必要でしょうし。

でも現実的に、そんな思いを持って悩んでいる方は多いのでしょう。組織が組織である以上、避けられない問題でもあるのですけれど。

部下の「モチベーションの源泉」を意識する

『「年上の部下」をもったら読む本』(濱田秀彦 著、きずな出版)の著者も、かつて年上の部下を持って苦労した経験があるのだそうです。大学卒業後に住宅リフォーム会社に就職し、27際にして最年少支店長となったから。部下は6名で、大半は年上だったというのです。

  • 『「年上の部下」をもったら読む本』(濱田秀彦 著、きずな出版)

部下指導の仕方もわからないまま管理職となり、しかも部下は年上ばかりということで、なにもかもひとりでやることになってしまったというのですから苦労も多かったに違いありません。

しかし、根底にそうした経験があるからこそ、本書に説得力が生まれたのだろうと思います。

年上の部下の難しさは、彼らにプライドがあることから生まれます。
これまで、学生時代や就職してからも年上の人が上の立場であった場合がほとんどで、年下から指図をされるようなことはめったになかったはずです。そんな人生を過ごした人が、年下の上司に命令されるような状況に置かれれば、違和感をもつのは当然です。
(「はじめに」より)

もちろん人間的に優れていて、仕事ができる年上部下だっているはずです。とはいえ残念ながら、そういう人ばかりではないのもまた事実。なかでも最大の問題は、年上部下はモチベーションが低い傾向にあるということ。それが上司のやりづらさにつながるわけです。

では、どうすればいいのでしょうか? この問いに答えるにあたって、著者はまず、現代のビジネスパーソンのモチベーションの源泉を挙げています。

(1)自分の仕事には価値があるという実感
(2)自分は職場で価値がある存在であるという実感
(3)自分は成長しているという実感
(51ページより)

この3つが揃えば、モチベーションは上がるということで、それは年上の部下にとっても同様。自分の仕事に価値があると感じることができれば、自分の仕事に誇りを持つことができ、モチベーションは上がるわけです。

ただし「自分の仕事の価値」を実感してもらうには、材料が必要。年上の部下の仕事が、どこでどう役に立ち、誰がどう喜んでいるのかをフィードバックすることが大切だということです。

たとえば、そういう情報が得られる場所に本人を行かせるなど、具体的な「体験」をしてもらうことが、結果的には大きな意味を持つのではないでしょうか。

また「価値がある存在」であることを実感してもらうためには、なにかにつけて「○○さん(年上部下)のおかげです」と声をかけることも大切。「成長の実感」に関しても、個別面談などの際に「いまもなお、スキルのレベルを上げている姿には頭が下がります」というように伝えることも重要だといいます。

「仕事の価値」「職場での価値」「成長」というすべては、管理職の言動によって実感してもらえるわけです。

気持ちよく働くために敬語を使う

ところで年上の部下と接する場合、必ずといっていいほど直面する壁のひとつが「ことば」ではないでしょうか? 敬語で話すべきかもしれないけれど、どこかよそよそしい気もする。かといって、友だち口調では軽すぎるかもしれないなど、どうしても悩んでしまうことになるものです。

『どんな年上部下でも一緒に働きたくなる上司のルール』(浜村友和 著、青春出版社)の著者にもそうした過去があるようです。大学卒業後、大手ドラッグストアに勤め、20代半ばで店長となったばかりのころ、ことば使いに迷ったというのです。

  • 『どんな年上部下でも一緒に働きたくなる上司のルール』(浜村友和 著、青春出版社)

敬語を使っていたら「店長なのにおかしい」と指摘され、友だちことばに変えてみたら年上部下に反発され……と、うまく行かないことが続いたそう。しかし、そうした経験を重ねてきた結果、敬語を使うことに落ち着いたといいます。

敬語を使う意味は、二つあります。
一つは、人生の先輩に対する経緯を示すこと。
もう一つは、部下にも、年下の上司に敬語を使ってもらうためです。
年上とは言え、部下から友達口調で話しかけられるのは、やりづらいこともあります。他のスタッフに対する示しもあります。でも「年下とはいえ、私は上司です。私には敬語を使ってください」というのはなかなか言いづらいですよね。(72ページより)

こう主張する著者は、友だち口調を使ってあまりいい思いをしなかったことから、話し方を敬語に変えたのだそうです。すると、年上の部下からも敬語を使ってもらえるようになったそうなのですが、そこにはポイントがあるのだとも記しています。

自分の敬語に対して、年上の部下が友達口調を使ってきても、決して困った顔も、逆にヘラヘラした顔もしないことです。
じっと部下の目を見て、ワンクッションおいてから、相手を尊重する「敬意」の気持ちと、上司としての「責任感」を込めて、敬語で返事をしましょう。(73ページより)

著者の経験上、そうすれば次第に部下が「そうだよね……あ、そうですよね」というように、ことば使いを変えてくれることが多いのだといいます。

些細なことであるとはいえ、上司と部下がお互いに気持ちよく働くためには、決して見逃すことのできないポイントであるといえそうです。

年上部下から愛される上司の条件

いずれにしても年上部下と接する場合には、「謙虚な姿勢」が重要な意味を持つことは間違いなさそう。『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(前川孝雄 著、ダイヤモンド社)の著者も、その点を強調しています。

  • 『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(前川孝雄 著、ダイヤモンド社)(浜村友和 著、青春出版社)

「年上部下から愛される上司の条件」のひとつとして、この点をクローズアップしているのです。年下上司ほど、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を肝に銘じておく必要があるのだと。

いくら相手が年上だったとしても、自分が上司である以上、仕事ではリーダーシップを発揮しなければなりません。したがって、部下がミスをしたなら注意をすることも必要となってくるわけです。

そして組織目的を果たす仕事のうえでは、毅然と振る舞わなければならないこともあるでしょう。

とはいえ、くれぐれもことば使いはていねいにすべき。「上から目線」にならないように気をくばることが、年上部下のモチベーションを高めるために大きな意味を持つ「最低限のマナー」だということです。

ちなみにこの点を含め、著者が考える「年上部下から愛される上司の条件」は以下のとおり。

(1)年長者の共感を呼ぶ「情熱ビジョン」
(2)年長者を立てる「謙虚な姿勢」
(3)年長者の幸せを願う愛他主義
(4)年長者の未踏のキャリア設計パートナー
(5)年長者が役に立つ実感演出
(6)年長者の力を活かす組織デザイン
(106~118ページより抜粋)

詳細については本書を確認していただきたいと思いますが、どうあれ年下上司がやらなければならないことは多いようです。とはいえ、年下部下とのつきあいは「人間力」を高めるチャンスであるともいいます。

人の上に立つリーダーには、「『思い』を実現していくために、多様化する顧客、社会、取引先などのステークホルダー、そして、今いる多様な従業員一人ひとりを育て活かす『思いやり』で、組織の力を最大化する、これからのリーダーシップ」が求められるのです。(120ページより)

著者はその定語を「Feelリーダーシップ」と呼んでいるそうですが、たしかにさまざまな面において配慮が必要になる年上部下に対しては、特に「Feelリーダーシップ」が必要とされるのかもしれません。

そして、なによりも重要なのは、「年上部下という厄介な存在を抱え込んでしまった」と思うのか、それとも「自分の人間力を発揮させる大きなチャンス」と捉えるべきか。

言うまでもなく、後者が重要な意味を持つことになるわけです。


つまり、重要なのは「伝え方」だということ。それは、今回ご紹介した3冊に共通したメッセージであるともいえそうです。