悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、モチベーションが下がり、仕事での自分の存在意義について悩んでいる方へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「毎日の仕事をこなしているだけで自分の存在意義が分かりません」(52歳男性/技能工・運輸・設備関連)

  • 仕事で自分の存在意義が分からない


早いもので、この連載も今回で100回目となります。正直にいえば、毎週、毎回3冊ずつビジネス書をご紹介するというペースは決して楽なものではありませんでした。とはいえ、もし多少なりともお役になっているのであれば、やはりそれは光栄なこと。今後も、微力ながら努力を続けていきたいと考えています。

ということで第100回目は、「モチベーション」に関連するお悩みですね。過去にもたびたび取り上げてきたテーマですが、つまりはそれだけ普遍的な悩みなのだろうと推測できます。

「やる気が出ない」「達成感がない」、今回のように「自分の存在意義がわからない」など、仕事を続けていくうえでは、そういった壁に幾度となく直面するものだということ。

しかもそれは誰かに助けてもらえるようなものではなく、自分自身で解決しなければならない問題でもあります。

だからこそ、ビジネス書をはじめとする書籍のなかからヒントを探し出したり、それをどう活用すべきかを考えることが必要となるのでしょう。これからご紹介する3冊のいずれかが、なにかのきっかけになればいいのですが。

"当たり前"の初心を忘れない

今回のご相談を拝見し、まず最初に強くお勧めしたいと感じたのが、『出版人の生き方70講―愚直に志高き職業人であれ』(田口信義 著、民事法研究会)です。

タイトルは出版関係者向けという印象を与えますが、決してそうではありません。「生涯現役」「生涯一編集者」をモットーとして仕事に情熱を傾けてきた著者が、仕事との向き合い方、働くことの意味、職業人としてあるべき姿、そして人生についての考え方を綴った書籍なのです。

刊行は2009年なので少し時間が経っていますが、非常に普遍的な内容であるだけに、まったく色あせた印象はありません。それどころか、ひとつひとつのメッセージから著者の誠実な人柄を感じ取ることができるはず。

たとえば「常に向上心をもつ」という項目には、次のような記述があります。

「向上心」こそすべての物事に通じる大切な意義があるように思います。つまり、日々向上心をもって物事に取り組むことが成功の鍵であるということです。そして、そのような意識で仕事に取り組むことで、仕事に対するプロ意識が生まれます。プロとして生きていくためには、その道その道で厳しさは常につきまとうわけであり、成功するかしないかは、向上心にかかっているといっても過言ではありません。皆さんも、今日より明日、明日より明後日という向上心の気持をもって日々の仕事に取り組んでいただければ、未来は明るいものになると思います。(61ページより)

  • 『出版人の生き方70講―愚直に志高き職業人であれ』(田口信義 著、民事法研究会)

また、「日々の積み重ねの大切さ」というページにはこう書かれています。

私達も日々の積み重ねの中で生きています。単調ですが、一日一日をしっかりと積み重ねていくことで、様々な悩み、苦しみ、葛藤を乗り越えて社会人として成長し、仕事の能力も向上していくのです。こうした一面単調とも思える人生であっても、毎日多くの人に支えられていることを意識して、日々仕事をしていくことが大事であると思います。(35ページより)

きわめて真っ当な主張であるため、ある程度のキャリアをお持ちの方であれば、「そんなの当たり前じゃないか」と感じられるかもしれません。しかし、そんな「当たり前なこと」ほど、実績やキャリアを身につけるに従って忘れてしまいがち。

しかもキャリアのある方は、仕事そのものには慣れているもの。それだけに余計、新鮮味ややりがいを失ってしまうこともあるのではないでしょうか? それは誰についても言えることでもあるので、本書を参考にして初心に返ってみるのもいいのではないかと思います。

仕事の「適正」は真剣に打ち込んでこそ見える

ところで仕事をしていくと、いつかは「いまやっている仕事は、本当に自分がやりたい仕事なのだろうか?」という疑問に直面するものでもあります。

『「やりたい仕事」病』(榎本博明 著、日経プレミアシリーズ)がクローズアップしているのも、まさにその部分。仕事の適性については多くの人が悩むところですが、実際のところ、本当はどうなのかは考えたところで答えが出るような問題ではないわけです。

だから、ちょっと考えてもわからないときは、考えるのをやめ、勢いに任せるべきだと著者は主張しています。乱暴なようにも思えるかもしれませんが、「仕事に取り組むことで適性が引き出される面がある」ということを忘れるべきではないというのです。

適性というのは、素質と経験の相互作用のもとにつくられるものである。すでに決まっているものなのではなく、これからつくられていくといった面もあるのだ。自分の適性を狭くとらえることで、職選びの間口を狭めてしまい、自分に合った仕事に就く機会を逃してしまう。そんなケースも少なくない。(87~88ページ」より)

  • 『「やりたい仕事」病』(榎本博明 著、日経プレミアシリーズ)

ちなみに重要なポイントは、20代や30代ばかりでなく40代や50代以上でも、キャリアに関する悩みや迷いの筆頭には「適性」と「能力」が上がっているという事実。

仕事を長く経験していても、半数以上の人たちは自分の適性や能力がはっきりつかめず、悩んだり迷ったりしているというのです(労政時報第3489号 2001年4月27日)。

自分がどんな仕事に適性があるのか。自分にはいったいどんな能力があるのか。何十年も仕事をしている40代や50代の人たちにもよくわからないのだ。そんなわかりにくいものにとらわれていたら、決断が遅れ、いろんなチャンスを逃すばかりだろう。(88ページより)

適性をつくっていくのは、経験の積み重ね。だからこそ大切なのは、それを信じて、たまたま手にした仕事に全力を傾けること。つまり適性と言うのは考えて得られるものではなく、真剣に打ち込むことによって得られるものだということです。

ガンディーの名言から学ぶ

さて最後に、スティーブ・ジョブズに影響を与えたことでも知られるインドの偉大なリーダー、ガンディーのことばを厳選した『ガンディー 強く生きる言葉』(佐藤けんいち 編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)のなかから、今回のご相談とリンクしそうな名言を抜き出しておきたいと思います。

成長し続けるのが人生の法則だ。首尾一貫しているように見せるため、自分の独断的な信念に固執しようとする人は、誤った場所に自分を駆り立てていることになる。 (C23「成長とは変化し続けること」より)


行動だ。行動の結果ではない。行動そのものが重要だ。
正しいことをすることだ。それには自分の力が足りないかもしれない。時間が足りないかもしれない。いかなる結果も生まないかもしれない。
だがそれは、正しいことを止めていいことを意味しない。
自分の行動からいかなる結果が生まれるかは、それまで絶対にわからない。
だが、何もしなければ結果も生まれないことだけは確かだ。
(C27「行動しなければ結果は生まれない」より)


まずは目的を見つけること。
手段はあとからついてくる。
(C28「目的が決まれば手段は決まる」より)


君の信念が、君の考えになる。
君の考えが、君の言葉となる。
君の言葉が、君の行為になる。
君の行為が、君の習慣となる。
君の習慣が、君の価値観となる。
君の価値観が、君の運命となる。
未来は、君が今日何をするかにかかっているのだ。
(C33「未来は、君が今日何をするかにかかっている」より)


人は思想の産物だ。自分が考える内容そのものになっていく。

人はややもすると、自分がそうであると信じているものになってしまいがちだ。
「そんなこと自分にはできない」と自分に言い続けてみてごらん。結局できないまま終わってしまうかもしれないのだよ。
(C38「『自分にはできる』と言い聞かせる」より)

  • 『ガンディー 強く生きる言葉』(佐藤けんいち 編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

これらのことばは、今回のご相談と"直結"するものではないかもしれません。しかしそれでも、結びつく本質が隠れているようにも思えます。

いずれにせよ、これらに代表される181種のシンプルなメッセージが紹介されている本書は、なんらかの気づきを与えてくれる可能性がありそうです。