悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、プロ書評家の印南敦史さんに選書していただきます。
■今回のお悩み
「やってもやっても仕事が終わらず、連日残業続きです。効率的に仕事できるコツを教えてください」(34歳会社員/IT関連技術職)
「次から次へと仕事がたまっていき、どれだけやっても一向に終わらない……」
そんな悩みをお持ちの方は、決して少なくないはず。でも現実問題として、残業続きの毎日が続けば、いつかは体が悲鳴をあげてしまっても不思議はありません。ただ、やっぱりそれでは本末転倒。やがては、「なんのために働いているのか」という問題に行き着いてしまうことになります。
とはいえ、それでも残業できるならまだいいと考えることもできるでしょう。なぜなら昨今は「残業禁止」を謳う企業も増えているのですから。しかしそうなると、「やらなきゃいけないのにできない」という悪循環に陥ってしまうことにもなりかねません。
だとすれば必然的に求められるのは、仕事の「効率化」を検証してみることではないでしょうか? 仕事に対する考え方はもちろんのこと、具体的な仕事の進め方までの全プロセスを見なおし、従来とは異なる方法を実践してみる。そうすることで、仕事を効率化することができるはずだからです。
そこで、「効率化」をさまざま角度から検証している3冊の書籍をご紹介したいと思います。
『頭と仕事をシンプルにする思考整理 50のアイデア』(サイモン・タイラー著、斉藤裕一訳、CCCメディアハウス)のテーマは「シンプル」。著者自身の言葉を借りるなら、「キャリアと仕事、人生を『シンプル』にするための方法をまとめたハンドブック」ということになります。
著者はビジネスコーチ、モチベーションスピーカーとして「シンプル」に関する頭の使い方やさまざまな手法を伝授し、多くのリーダーや事業オーナー、起業家を手助けしているという人物。そのような立場と経験を軸として書かれた本書においては、「シンプルにいこう」という合い言葉を重視しているわけです。その言葉自体にはライトな印象もありますが、実はとても大切なことであるとも言えます。
ユニークなのは、「シンプルにいく」ための考え方や効果的なやり方などを、「シンプルノート」としている点。「ベストな状態か」「自分の『常態』をリセットする」「活力を高める」など、自分自身をシンプルな状態に保つための方法を、50のシンプルで読みやすいエッセイとしてまとめているのです。
ひとつひとつの項目が独立しているため、初めから順に読むのではなく、好きなところから読むことが可能(むしろ著者は、そういう読み方を望んでいます)。そして書かれていることを実践していけば、自分の考えが落ち着き、それまで困難に思えていた状況に余裕を持って向き合えるようになっていくというわけです。
日々の仕事に追われていると、必然的に状況は煩雑化し、頭のなかも複雑に絡み合ってしまうものです。しかし著者のいうように「シンプル」であることの重要性を理解し、そうあることを意識できるようになれば、それは成功への突破口になるでしょう。本来なら必要のないことに縛られ、結果的に効率が悪くなってしまうという悪循環から、無理なく抜け出すことができるかもしれないということです。
ところで効率化を意識しようという場合、決して無視できないのが「集中力」ではないでしょうか? その証拠に、「集中力なくして効率化はありえない」というような考え方はいたるところで耳にしますし、いまさら強調するまでもない「常識」として扱われることすらあります。
しかし、そんな現代の「集中力信仰」に異議を唱えているのが、『集中力はいらない』(森博嗣著、SB新書)の著者。たしかに集中力は大事だけれども、全面的にそれを押し通すのは違うと主張するのです。
子どものとき、大人から「やりなさい」と言われたものにはどうも集中できなかった……。そんな経験は誰にでもあると思います。一方、自分がやりたいこと、考えたいことには自然と集中できていたはず。それは大人にしても同じで、「集中しなさい」と言われたとおりにすると、結果的に「集中できない」状態になってしまうということです。
つまり「集中」は押しつけられるようなものではなく、頭脳の働き方にも向き不向きがあって当然だという考え方。だから、違うタイプの人間がいるということを、まずは知るべき。そして、それ以上に重要なのは、「むしろ集中しないことにより、機械にはできない人間本来の能力を発揮することもできる」という事実。そこに、本書の核心があるのです。
ベースになっているのは、小説家であり、工学博士である著者の経験です。とだけ聞くと「特別な人だから」と思えるかもしれません。が、読み進めていくうちに決してそうではない、すなわち、誰に対しても言えることだということが理解できるはずです。
「なるほど、その2冊の言わんとすることはなんとなくわかった。でも、その考え方を自分のものにするためには、ある程度の時間が必要だろう。ただ実際のところ、より速く結果を出したいんだ」
ここまでお読みになって、そう感じている方もいらっしゃるかもしれませんし、それはそれで納得できる話ではあります。精神論も大切ですが、まずは目の前に積まれた仕事の山をなんとかしなければならないわけですから。
そこで最後に、結果に結びつきそうな実践的な書籍をご紹介しておきましょう。『5倍速で結果を出す スピード×ダンドリ仕事術』(岡田充弘著、明日香出版社)がそれ。
著者は日系大企業勤務、外資系コンサルティング会社勤務、企業再生、複数の連続起業などさまざまなキャリアを積み重ねてきたという人物。「スピード」×「ダンドリ」をテーマに掲げた本書においては、そのなかで培ってきた「本当に役に立つ技」だけを伝えているのです。
ダンドリについての基本的な考え方にはじまり、ゴールイメージの描き方、「10秒即断術」、仕事をミニマルにすることの効能、PDCAに関する独自の考え方、根回し術、パラレルワークのコツなどのアイデアを凝縮。きわめて具体的なアプローチが貫かれているため、できることから実践していけば、着実に効率化を図ることができそうです。
考え方も具体的な方法も、それぞれがユニーク。もし、これらのなかから自分のやり方にフィットしたメソッドを見つけ出すことができれば、効率的に仕事を進めることができるようになるかもしれません。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。