日本の書籍とは違う考え方を学べるのが翻訳書の魅力のひとつ。それはビジネス書だけに限らない。「日本人と同じアイデアの本を翻訳しても意味がありません」と語るのは、かんき出版の編集者、朝海寛氏だ。
ビジネス書や自己啓発書で数々のベストセラーを手掛けた同氏が新たに送り出したのは、なんと呼吸法に関する本。呼吸法をテーマにした書籍を翻訳した理由、そして同氏が考える翻訳書の魅力に、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大が迫る。
口は食べるためのもの、鼻は呼吸するためのもの
今回、紹介する書籍は、『トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法』 (パトリック・マキューン 著/桜田直美 訳)。ロシア人医師・故コンスタンティン・ビューテイコ氏の呼吸法を基に著者が開発した独自メソッド「酸素アドバンテージ・プログラム」を通して呼吸に関する正しい知識と、正しい呼吸法を紹介する書籍。世界最大の医療サイトを設立者であるジョゼフ・マーコーラ医師からも絶賛を受けているという。
さて、呼吸を通して健康になるための方法について解説されている本書だが、朝海氏はあえて"ビジネス書"としておすすめしたいという。その理由は、呼吸法には集中力を高める効果があること。そして、昨今の疲弊した日本のビジネスパーソンには生活習慣の改善が必要だという同氏の考えからだという。
この本の原題は"THE OXYGEN ADVANTEGE"。酸素と体の関係が具体的に説明されている。それは冒頭の「人間は何も食べなくても数週間は生きられる。しかし呼吸を止めると、わずか数分で死んでしまう」という一節からもあきらかだろう。だが一方で本書は「深呼吸は体に悪い」と説いている。なぜなら、体に酸素を取り込みすぎると酸素の使い方が不適切になるからだという。逆に言えば、二酸化炭素の使い方を解説しているともいえる。
酸素を上手に利用できる体を作るために、本書では「鼻呼吸」を推奨している。方法は簡単で、口からの呼吸をやめ、鼻から呼吸することを体に覚えさせるだけ。特別な食事メニューを用意したり、決まった飲み物を飲み続ける必要もない。たったこれだけで疲れない心と体ができ、その効果は睡眠の質の改善やダイエット、お肌のハリ、果ては歯並びにまで及ぶという。
「定点で情報を追う」ことで良し悪しが判断できる
呼吸のようなインナーメッセージを重視し、自信をコントロールしようという発想は、東洋的な考えに基づくものといえるだろう。近年は東洋思想が再注目されており、数々の書籍が発売されている。しかし、ただトレンドに合わせた本を出すだけでは手に取ってもらうことはできない。
多くのベストセラー書籍を編集した朝海氏。ご本人は「運が良かっただけ」と謙遜するが、そこには翻訳書を選ぶ基準があるはずだ。
同氏は自身の選択を振り返り、「まずは著者のアイデアが面白いこと。そのアイデアが珍しくないものであったら、表現の仕方が面白いこと。そしてアイデアが科学で裏打ちされていること。このような本を厳選しています。そういう本でなくては、説得力が生まれないのです」と語る。同氏が売れる本を引き寄せる理由は、こういった本を探り当てる感性と、それを支える長年の経験を持っているからなのだろう。
では、朝海氏はどうやってその能力を養ってきたのだろうか。同氏は「定点で情報を追う」ことの重要性を説く。その本が面白いかどうかを判断するには、その本を面白いと思える準備をしておかなくてはならない。そのために定点、つまりしっかりした基準を確立しておく必要があるのだという。
この定点観測の考え方は、出版に限らず、あらゆるマーケティングにも適用できる話といえそうだ。今回取り上げた『トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法』と既存の健康本を見比べると、朝海氏がどのような点に"違い"を感じたのかがわかるかもしれない。
トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法
世界最大の医療サイト(Mercola.com)設立者
ジョゼフ・マーコーラ医師絶賛!
コンスタンティン・ビューテイコ医師に学び、「オリンピックの金メダリスト」をはじめとする5000人以上の人生を変えた呼吸法とは!?
パトリック・マキューン 著/桜田直美 訳
定価:1,620円(税込)
発行年月:2017年10月16日