あなたは文系? 理系? 高校時代に選ぶ方が多いこの二択。しかし文系だけれど社会に出てからIT業界に携わる「文系IT社員」という働き方もある。文系とIT、一見相反するように見えるが、顧客とエンジニアの橋渡しをしながら課題を解決する彼らの仕事とは……?
この連載では、AIと金融工学を活用したWebプラットフォームを開発・運営するMILIZEに所属する著者による、実体験をベースにした「文系IT社員の日常」を紹介する。
<前回までのあらすじ>
IT企業「mirai diagram」に勤める文系IT社員の三浦とデータサイエンティストの大野は、都内で23店舗展開しているスーパー「フレッシュネス」の役員・早坂氏からの依頼で、肉の需要予測について過去データの分析を行っている。需要予測の予想的中率が高い店舗責任者・佐々木氏の助言に基づく「加工肉の消費者物価指数(CPI全国月次)」をデータに取り込むことで、大幅に予測精度が上がることが判明した。今回、報告をするために早坂氏と3回目のオンライン面談を行う。
これまでの話はこちら。
三浦・大野「早坂様、本日も宜しくお願いします」
早坂「肉の需要予測の件、何やら良い話が聞けそうとのことで楽しみにしていました」
三浦「そうなんですよ。早速、大野から説明させて頂きますね」
大野「今回は、予測精度の高い佐々木様が参考にしているという『加工肉の消費者物価指数(CPI全国月次)』を取り込み、再度機械学習を行いました。その結果、全体的な予測精度の向上に繋げることができました。まずは豚ももの売上に関するチャートをご覧ください」
そう言うと、大野はチャートを表示した画面を共有する。
大野「青色のチャートが実際の値、オレンジ色のチャートが前回の予測値、緑色のチャートが今回の予測値です。ご覧の通り、今回の予測値の方が格段に実際の値に近づいています」
早坂「おお、かなり実際の値に近づいていますね。こうしてチャートで見ると一目瞭然ですね」
大野「はい、『加工肉の消費者物価指数(CPI全国月次)』のデータを取り込むことで、かなり効果があることが分かりました。続いてこちらは豚肉ロースのチャートです」
大野「こちらも全体的に予測精度が改善しまして、特に12月24日、25日の予測は高い精度で予測できるようになりました。クリスマスは豪華なディナーを楽しむ家族も多いかと思いますが、その動きに対応しています」
大野「他にもチャートは色々あります。こちらは……」
大野はそう言うと他のチャートについても説明を行った。
早坂「良いですね。全体的にこのレベルの精度であれば十分かと思います。これなら毎回売上予測をしている各店舗の責任者の負担も減りそうですね」
早坂氏はとても嬉しそうだった。
早坂「今回ご提案頂いたチャート、後程データで共有してもらえますか?」
三浦「もちろんです。使用したモデルも含め、資料にまとめた上で送りますね」
早坂「ありがとうございます。役員も含め社内で情報共有して、御社と取引するかどうか判断させて頂きたいと思います」
三浦「かしこまりました」
早坂「個人的に、短期間でここまで予測精度を上げてもらえたのは大変素晴らしいと思っています。その辺りも役員陣にアピールしますね」
そう言うと早坂様はにっこり微笑んだ。
三浦「嬉しいお言葉、ありがとうございます! 是非とも宜しくお願い致します」
こうして3回目のオンライン会議は終了した。提案したチャートは早々に資料にまとめ、早坂様に送信した。
それから1週間後……。
早坂様から電話が入った。役員陣からもGOサインをもらえ、肉の売上予測について本格的に取り組んで良いという許可がもらえたので見積書を作成して欲しいとの内容だ。その後、作成した見積書は無事フレッシュネス様の社内稟議を通過し成約に至り、本予測ツールを使って各店舗の肉の需要予測を本格的に行った。
こうしてフレッシュネス様の肉の需要予測の案件は無事に終了した。案件は終わったが、この話には少し続きもある。
それから数ヶ月後、「肉の需要予測の業務が軽減されました」とフレッシュネス練馬店の佐々木様からお礼のメールを頂いた。その際、練馬店に遊びに来ないかとのお誘いを受け、大野と二人で行ってきたのだ。
現場で生き生きと働く佐々木様を見て、目がハートになる大野。3人で食事にも行ったのだが、佐々木様と大野は共通の趣味であるサイクリングの話で盛り上がり、連絡先を交換していた。大野の物語はまだまだ続きそうである……。
※『文系IT社員の日常』は今回で終了となります。ご愛読をありがとうございました。