あなたは文系? 理系? 高校時代に選ぶ方が多いこの二択。しかし文系だけれど社会に出てからIT業界に携わる「文系IT社員」という働き方もある。文系とIT、一見相反するように見えるが、顧客とエンジニアの橋渡しをしながら課題を解決する彼らの仕事とは……?

この連載では、AIと金融工学を活用したWebプラットフォームを開発・運営するMILIZEに所属する著者による、実体験をベースにした「文系IT社員の日常」を紹介する。

<前回までのあらすじ>
IT企業「mirai diagram」に勤める文系IT社員の三浦とデータサイエンティストの大野は、都内で23店舗展開しているスーパー「フレッシュネス」の役員・早坂氏からの依頼で、肉の需要予測について過去データの分析を行う。より予測精度を向上させるため、肉の需要予測の予想的中率が高い店舗責任者・佐々木氏との面談を実施した。その結果、「加工肉の消費者物価指数(CPI全国月次)」という指標を知ることができた。

これまでの話はこちら

佐々木様との面談以降、一週間が経過した。

大野はあの日以来、人が変わったようにプログラミングに熱中している。「加工肉の消費者物価指数(CPI全国月次)」という絶好の指標を教えてもらったことだけではない気もするが……。

三浦「そろそろ一週間が経過したけど、予測の方はどんな感じ?」

大野「よく来たね、ワトソン君。これを見てくれたまえ」

かなり上機嫌の様子のようだ。大野はチャートをPC上に表示した。

  • 青=実際の売上の値、オレンジ=予測値(前回)、緑=予測値(CPI使用)

大野「加工肉の消費者物価指数(CPI全国月次)を取り込んで再度機械学習させてみたよ。これは豚もものチャートなんだけど、ご覧の通り、CPIを使用するかしないかでその差は歴然としているよ」

三浦「確かにすごい……前回の予測に比べて実際の値に大分近くなったね。CPIの効果は大きいな」

大野「そうだろ。念のために他のチャートについても見てくれたまえ」

そう言うと、大野は次に豚肉ロースのチャートをPC上に表示した。

こちらも予測精度が上がっているのは明らかだ。

三浦「他の商品についても予測精度は上がると考えて良いんだよね?」

大野「もちろん。消費者物価指数は日本全体の傾向が分かる指標だからね。当然、フレッシュネス様のお客様も指標の対象に含まれるよ。あとは12月24日、25日の予測が大幅に改善できたんだ。ここも我ながらナイスだと思う」

三浦「さすがだね。ところで今回の機械学習はどんなモデルを使ったんだ?」

大野「今回は"回帰木"を使って分析したよ」

三浦「回帰木……? これはどんなモデルなの?」

大野「回帰木は数値の予測、つまり回帰モデルを作成する際に使うモデルなんだ。図を使って説明するよ」

大野「こちらがCPIを用いて機械学習する前の図ね」

  • CPIを用いて機械学習する"前"の図

大野「それで、こちらがCPIを用いて機械学習した後の図だ」

  • CPIを用いて機械学習した"後"の図

三浦「数字が全然変わってるね。この数字の変化によって分類がより正確に行われるため、予測精度が上がるわけか」

大野「そうそう。それが今回の結果に繋がったわけなのよ」

三浦「この精度ならお客様も納得してもらえそうだな。もちろん佐々木様もね」

大野の気持ちを探るべく、少しかまをかけてみた。

大野「あ、やっぱそう思うよね。だよね。これは佐々木様も喜んでくれるよね。フフフ」

大野ははにかみながらそう答えた。実に分かりやすい。

三浦「間違いない。早速先方にアポイントを打診しておくよ」

大野「オッケー、頼んだよ。一応もう少し予測精度を高められないか頑張ってみるよ。今日は徹夜かな。現実世界は悪くないかもしれない。でもこの予測精度は嫌いだ」

なぜか唐突に某有名アニメのセリフを言い出した。やはり大野の気合がいつもと違う。よく分からんけど。

話を終えると三浦は早坂氏に電話をかけた。