女性だけの国際文房具ミーティング
上海に出張した私は、コクヨがセッティングしてくれた文房具についてのミーティングに出席することになった。小規模だが、中国、シンガポール、マレーシア、ベトナム、香港、オーストラリアなどから文房具に詳しい「KOL」と呼ばれる人々(Key Opinion Leader:専門性が高いインフルエンサーのこと)を集め、世界の文房具の潮流について話し合うのだ。ちなみに、私が日本代表だったらしい。
上海の郊外に準備された会議室に着いた私がまず驚いたのは、出席者が「全員」女性だったことだ。皆若く、垢ぬけている。中には、専門をコスメから文房具に変えた、というKOLの方もいた。
念のため記すが、この会議は別に女性向け文房具について話し合うものではない。あくまでも文房具一般についての情報交換会なのだが、日本以外のアジアの国で文房具の専門家を探すと、ほとんどが若い女性になるのだ。
これは驚くべきことだ。日本では、文房具はどちらかというと男性の趣味だし、日本の文房具業界の圧倒的大多数は(他の業界もあまり変わらないと思うが)男性である。
なぜ、日本とアジアでここまでの違いがあるのだろうか?
「働く女」が当たり前のアジア
よく知られているように、「専業主婦」は日本以外の国では珍しいシステムだ。働く女性の存在は、欧米だけではなくアジアでも当たり前なのである。私は、この違いが、文房具文化の担い手の日本―アジア間の違いを生んだと考えている。
どの国でも、文房具の本来の役割は仕事のための実用品だったから、文房具趣味は働く人々を中心に広がっていた。そして日本では働き手は男性が多かったから、文房具は男性の趣味になったのではないだろうか。
だがアジアでは女性も当たり前に働くから、おそらく女性たちも文房具趣味を担うことができたのである。
文房具はアクセサリーの延長線上にある?
アジアでの文房具が、比較的「おしゃれな趣味」という扱いになっているのも、担い手が女性であることと関係があるかもしれない。メイクやファッションなど女性が外見を重視しなければならない傾向は日本もアジアも共通しているため、彼女たちは文房具にもデザイン性を求めたのである。
また、私はこの会議で、アジアでの文房具は日本でのアクセサリーやコスメに近い印象を受けた。アジアの文房具好きに女性が目立つのは、このためではないだろうか?
会議ではSNSに掲載するための文房具のおしゃれな写真の撮り方にかなりのウェイトが割かれたのだが、SNS重視の傾向といい、説明よりも雰囲気に重きを置いた写真の撮り方といい、まるでファッション業界に入ったような錯覚に襲われた。しかも、繰り返しになるが、KOLのひとりはもともとコスメを専門にしていたのである。
私は、「文房具」のとらえ方が日本とアジアでは大きく違うことを知った。