今年7月、私は上海に行った。コクヨが上海で開く文房具の博覧会「コクヨハク上海」を見学するためだ。コクヨハクは日本では毎年開かれ、新商品や限定品を販売するため多くの文房具ファンを集めているが、その上海版である。
もちろん、せっかく上海に来たのだからコクヨハク上海の見学だけで終わってはもったいない。中国の文房具事情をこの目で見たい気持ちもあった。成長著しい経済大国・中国の人々は、どのような文房具をどのように使っているのだろうか?
若い女性であふれるコクヨハク
コクヨハク上海の会場は、日本でいう百貨店の一階にあるイベントスペースのような場所だった。大きな百貨店の一角だと聞いていたので会場を見つけられるか不安だったのだが、まったくの杞憂だった。ものすごい数の人々が集まっていたからである。
とにかく、凄まじい人の数だ。多くの来場者を予想したためか入場には整理券が必要だったのだが、午前11時半に到着した私が受け取った整理券は1200番台だった。聞くと、深夜2時台にはファンが並んでいたというから驚きである。いわゆる「徹夜組」ではないか(現場となった百貨店はホテルも入っているため24時間出入りが可能)。早い者勝ちの限定品も売られていたらしいが、私が到着したころには影も形もなかった。
しかしそれ以上に驚いたのは、押し合いへし合いしている人々のほとんどが若い女性であることだ。少女と言うべきか、10代前半の女性が大半だったように思う。彼女たちはコクヨの文房具を買うために列を作り、長時間待っていたのだった。
中国の少女たちが日本の文房具に夢中になっている様子は、非常に新鮮だった。もちろんアジアで日本の文房具が人気であることは知っていたが、ここまでとは……。
パッケージにはあえて日本語を追加
会場にあるほとんどの商品は日本でも売られているものを中国向けに手直ししたものだったが、驚いたのは、しばしばパッケージに日本語が含まれていることだった。はじめは日本向けのパッケージをそのまま中国に持ち込んだのかと思ったが、よくみると違う。中国モデルのパッケージに、わざわざ日本語を入れているのだ。
いったいなぜ? 現地のコクヨの方に話を伺うと、「そのほうが中国のお客さんに喜ばれるから」という、意外な答えが返ってきた。
アジア、とくに「親日的」と言われる台湾で日本文化が好意的に受け止められていることは知っていたが、私は日本との政治的な摩擦がしばしば報道される中国は少し状況が違うのではないかと思っていた。ところが、百聞は一見に如かずと言うべきか、私の目の前では日本語が散りばめられたパッケージの文房具に、中国の若い女の子たちが文字通り群がっているのである。
「日本」が増えた上海の街
実は、私が上海に行くのはこれが二回目。前に訪れたのは上海万博があった2010年である。9年ぶりの上海を歩いていて気が付いたのは、2010年と比べて、日本関連のものが著しく増えていることだ。街には「ユニクロ」や「サイゼリヤ」など日本発祥の店舗が目に付くし、コンビニには日本製のお菓子が並んでいる。そしてパッケージにはやはり日本語だ。
文房具についても同じことが言える。上海の文房具店はどこも日本の文房具だらけだったし、単に商品を仕入れるだけではなく、展示する什器まで日本から仕入れているケースが少なくない。もちろんそういう什器には日本語が書いてある。私が監修した文房具が、私の写真入りの什器で販売されていたことにも驚いた。
私は、中国における日本のイメージが、私たち日本人が想像するよりもはるかに肯定的なことを知った。
だが、驚きはこれだけにとどまらない。コクヨがセッティングしてくれた文房具についての国際会議に出席した私は、「文房具」を巡る日本―アジア間のカルチャーギャップの存在を知ることになるのだ。
(続く)