最近の文房具界では、ノート術である「バレットジャーナル」や勉強術「スタディプランナー」、あるいは「女子」向け文房具が注目されている。だが、その陰で静かに盛り上がっている文房具があることをご存じだろうか。

それは、介護の現場に向けた文房具だ。

なぜ、介護現場で文房具が求められるのか

今の日本では高齢化により要介護者が増加しており、将来的には介護業界が人材不足に陥ると予測されている。そして実は、介護や看護の世界は文房具との関係が強い。

介護業界では、書類仕事が多いわりに電子化が進んでいない施設が多く、紙をよく使う。また、介護・看護の世界に入るための勉強でも筆記用具などの文具需要が大きい。

実際、私に対する介護・看護業界からの取材依頼は多いのだが、これも文房具への需要を反映しているといえるだろう。したがって、文房具業界にとって、介護・看護の世界の人々は重要なクライアントになるのだ。

もちろん、文房具業界もそのことに気づいている。具体例を見てみよう。

介護・看護業界向けの文房具

オフィス用品に強いプラス(PLUS)社は、介護市場向け文具の新ブランド「たすけあ」を2019年2月に立ち上げ、いち早く介護職へアプローチしている。

  • 介護文具のブランド「たすけあ」

同じくPLUSのファイル・バインダー「Pasty smart(パスティ スマート)」、老舗文具メーカー・ゼブラのボールペン「ライトライト」「タプリ ホールドクリップ」も、介護業界に注目して開発された面がある。

「パスティ スマート」はもともと、女子高生をターゲットにしたクリアファイル「パスティ」だった。クリアファイルは売り場で目立つように濃い色のバリエーションが多いのだが、パスティは女子高生に訴求するべく、珍しいパステルカラーを採用したのである。

それが、なぜか病院関係者に人気が出た。PLUSが聞き取り調査をすると、病院の内装はパステルカラーが多いので、色合いが合うためだとわかった。このことを知ったPLUSが、パスティをビジネスパーソン向けにしたパスティ スマートを作ったというわけだ。

ペン先にライトを搭載したゼブラの「ライトライト」は、暗い病院内でも明かりなしで筆記でき、看護師さんにうってつけだ。また、同じくゼブラの「タプリ ホールドクリップ」のクリップには、胸ポケットから落ちにくいギザギザがついているが、これも患者さんを支える際に前傾姿勢になるなど、一般的な企業のビジネスパーソンとは違う動きが多い介護士さんや看護師さんたちの役に立つ。

女性が多い介護・看護業界

文房具業界では「女子文具」がブームだが、このような介護・看護職向け文具もまた、業界が取り組むべき分野に違いない。介護・看護職には女性が多いからだ(たとえば、介護業界で働く人の7割から9割は女性である(※厚労省「社会保障審議会(介護給付費分科会)資料」より)。

彼女たちは介護・看護の現場で役立った文房具を日常的に愛用するだろうし、逆に、日常的に使っている便利な、あるいは素敵な文房具を介護・看護の現場で使うことになるだろう。

企業として利益の面はもちろんのこと、今後ますます介護・看護に対する社会的な要請が拡大することを考えても、文房具業界はここにもっと力を入れるべきだと私は思うのだ。