私は昔、文房具を扱う雑貨店で働いていたことがあるのだが、そこでしばしば目にしたのがいわゆる「カスタマーハラスメント」だ。
最近注目されているこの言葉は、客から従業員へのハラスメントのことを指している。具体的には、恫喝や理不尽なクレーム、過剰な要求などが挙げられることが多く、クレーム対策の本が出版されたり、メディアで特集が組まれたりするくらいに話題になっている。
しかし、その陰に隠れて見落とされがちなのが、主に女性店員に対する迷惑行為だ。
ナンパ目的の来店からストーカー行為まで
接客をしていたころの私が見聞きしただけでも、身体に触れられる、店員用の出口で待ち伏せされる、商品とは関係のない雑談を長時間(1時間以上)続けられる、強引なナンパなどの迷惑行為があった。狭い私の周囲だけでも相当数があったし、参考までにインターネットで意見を集めたところ、被害に遭ったことがあるという声はとても多かったので、日本全国では無数に起こっているのではないだろうか。
行為の対象となった店員はほぼ全員が女性だった。私が勤務していた店は扱う商品の単価が比較的安く(つまり入店しやすく)、店員は女性が多かったから、こういう行為のターゲット探しにはぴったりだったのもしれない。
なぜ女性店員への迷惑行為は表に出にくいのか?
言うまでもなくこういった行為もカスタマーハラスメントの一種だが、冒頭に書いたように、あまり問題にされにくい傾向があるように思う。
というのも、大声でどなったり土下座を強要したりといった行為に比べると目立ちにくいからだ。上司に相談しても耐えるように言われることが多いし、「それも仕事のうち」と言われる場合さえあるかもしれない。
だが、耐えるべきではない。仕事上必要がなく、かつ不快な行為は明らかにハラスメントである。我慢せず、声をあげよう。
ところが、問題がひとつある。対策が少ないのだ。
少ないハラスメント対策
接客業の世界では客からのクレーム対策はよく知られ、具体的な対応方法が立てられているケースが多いように思う。「この場合はこうする」といった指針が記されたマニュアルが店員に共有されているのだ。
しかしカスタマーハラスメント、とくに今回記したような女性へのセクハラやナンパ、つきまとい、ストーカー行為に対する対策はあまりないようだ。話題に上らなかったり、会社の上層部がそもそも問題だと認識していなかったりするためだと思われる。だから、店員は個々人単位で対策を編み出さざるを得ないし、耐えられずに退社してしまったケースを見たこともある。
そこで私は、女性店員へのハラスメントへの5つの対策を提案したい。いずれも、接客をしていたときの私がハラスメント対策として実行し、効果があったものだ。
女性店員へのハラスメント対策
1.左手の薬指に指輪をつける
これは非常に効果が大きい。ナンパ目的の来店者のターゲットから、高確率で外れることができるからだ。
2.個人的な連絡先を教えない/受け取らない
相手に「距離感」を誤解させるリスクがある。教えないだけではなく、SNSのIDなどを渡されても受け取らないことも大切(拒んでも強引に連絡先を置いていく場合も意外と多いが、そのときは日時を記録した上、保管しておく。理由は後述)。在庫などについて連絡する必要がある場合は、店の代表の番号を使うこと。
3.フルネームを不用意に教えない
個人情報を知られないためにスタッフが本名を名乗らないサロンの存在が話題になったが、たしかにフルネームを教えることにはリスクがある。SNSの検索などで、住んでいる地域や生活パターンなどの個人情報を知られてしまい、付きまといやストーカー行為へ発展するリスクがあるからだ。
4.問題のある来店者は記録をとる
ハラスメントの傾向があるなど問題がある来店者については、来店日時と迷惑行動の内容を記録しておこう。
理由は2つある。ひとつは、来店しやすい日時など行動パターンが分かればシフト変更によって逃れることができるため。もうひとつはより重要で、致命的な問題が発生してから証拠を集め始めても手遅れである場合が多いからだ。
たとえば、繰り返される迷惑行動によって店員のストレスが限界に達し、店頭に立てなくなってしまった場合(このようなケースはよく見聞きする)。上司や会社に訴えるべきだが、どのような行為がどのくらいの頻度で行われたのか、具体的な情報がないと会社は動きにくい。だが記録があれば、会社としても動きやすい。
5.情報を共有する
迷惑行動が目立つ客が来店しても、店員側にできることは非常に少ない。店への出入りを拒むことはよほどの場合でなければ難しいため、実質的には、バックヤードなどへ一時的に逃げるしかない。その場合には他の店員の助けがいるため、リスクのある客の情報は共有しておくべきだ。
また、迷惑行為を働く客は、特定の店員に固執して嫌がらせやストーカー的行為を行う場合もあるが、複数の店員に嫌がらせを行っている場合も多い。この観点からも情報共有は効果的だ。迷惑行為を繰り返す客に対しては、会社側が出入り禁止措置に踏み切ることもあるからだ。
以上は、多くの女性店員が実行し、効果をあげている対策だ。ぜひ参考にしてほしい。
迷惑行為に慣れてはいけない
最後にもうひとつ、とても重要なことを付け加えておこう。それは「迷惑行為に慣れてはいけない」ということだ。
接客業の世界では、迷惑行為を笑顔であしらってこそプロである、という認識が今も少なくない。一見もっともだが、言い換えれば「理不尽なハラスメントにも耐えろ」と言っているに過ぎない。そんな必要はまったくない。
繰り返しになるが、仕事の上で必要がなく、不快な行為はハラスメントだ。理不尽に耐えるプロになってはいけない。