滞在時間が長い自宅やオフィスだけでなく、電車の中、買物中、旅行先など、いつ、どこにいても大地震に遭遇する可能性はある。万一の時にパニックにならないように、日頃から「今、大地震が起きたら危険な場所は?」「どうやって身を守る?」「どこから逃げる?」と、避難のシミュレーションをする習慣をつけたいもの。

災害レスキューナースとして国内外で活躍する辻直美さんに、さまざまな環境下での避難方法についてアドバイスをいただいたので参考にしてほしい。

駅や電車ではあわてず駅員に従う

●乗車中

車内で立っている場合は、身を低くして、手すりにつかまり、足を踏ん張って衝撃で倒れないようにします。つり革は切れる可能性があります。ロングシートに座っている場合は、将棋倒しになった乗客に圧迫される可能性があるので要注意。前かがみになって姿勢を低くし、頭部をカバンなどで守ります。

揺れがおさまった後はあわてて逃げようとせず、駅員の指示に従います。特に地下鉄は、閉鎖性の高さから急いで逃げ出したくなる人も多いと思います。しかし、実は普通のビルの中にいるより安全です。乗客が自分勝手に動く方がよほど危険です。駅員に従うことも防災のひとつと理解して、指示を待ちましょう。

ただ、地震で電車が止まった場合、1時間程度は車内で待たされる可能性が高いです。乗車前にトイレに行っておく、飲み物とお菓子を常に持ち歩くといったことを習慣化しておくと、万一の時も安心です。

●駅構内

駅構内では、発車案内板の落下、自動販売機の倒壊、出口に人々が殺到するなどの危険が考えられます。駅を利用する際には、どの辺なら物が少ないか、利用者が少ない出口はどこか等、それとなくチェックする習慣をつけましょう。「トラップを避けながらいかに脱出するか」と、なかばゲーム感覚で取り組むと、けっこう楽しく避難ルートを探せると思います。

  • 一般的に、電車は震度5程度で緊急停止装置が作動する。急ブレーキがかかるこの時が最も危険なので、手近な手すりなどにしっかりつかまるようにしたい。駅構内では、頭上の発車案内板も落下する可能性が高いので要注意だ。

買い物中に被災した場合は陳列棚から即離れる

●百貨店・スーパーマーケット・ホームセンター

買物中に被災した場合も、駅や電車内の場合と同じく、店員の指示に従うことが大切です。百貨店の場合は、通路の真ん中に逃げてください。それから、手持ちのカバンなどを頭の上にかざし、とにかく頭を守ること。腕が一本折れても生きていけますが、頭をケガしたら命にかかわります。

スーパーマーケットの場合は、買い物カゴをかぶって頭を守ります。そして、体をかがめて陳列棚から離れます。カゴの中の未精算品を放り出して頭にかぶる、これは正直、勇気がいりますが、生命を守るためです。ためらわずに実行しましょう。この時、少し頭から浮かせてかぶることで、物がぶつかった場合の頭部への衝撃をやわらげます。

また、スーパーマーケットに限らず、買い物中に地震に遭遇した時は、とにかく陳列棚から離れるようにしてください。倒れたり、物が落ちてきたら圧死しかねません。以前、ホームセンターで買い物していた時に震度3の地震が起こったことがあります。私が「逃げろ!」と言っても誰も動きませんでした。「危ない」と声を出して、横にいた知らない人の手をとって逃げました。

その後、映画のセットみたいに陳列棚が崩れました。人は、想定外の出来事が起こると固まります。だから、百貨店、スーパーマーケット、ホームセンターなどで大地震が起きて陳列棚が倒壊する様子や、避難ルートを1回はイメージしてみる。それだけでも、いざという時にフリーズする確率は下がるはずです。

●地下街

一般的に、地下は地震自体には強く設計されています。あわてて地上に出ようとせず、壁や柱のそばで揺れがおさまるのを待ちます。ただし、火災や水害のリスクもあります。揺れがおさまったら地上に脱出しましょう。地下街は60メートルごとに非常口が設置されています。人が殺到している場所は避け、できるだけ人が少ない非常口を目指します。

普段、地下街を利用する際に、人があまり通らない「穴場の非常口」を見つけておくのがポイント。避難する時は壁伝いに移動しますが、いきなり地上に飛び出るのはNGです。落ち着いて危険はないかを確かめた上で、地上に出るようにしてください。

  • ホームセンターは商品を天井近くまで陳列してあることが多く、また、当たったら大ケガになりかねない商品も少なくない。利用する際は、どう避難するかシミュレーションしておきたい。

どんな場所で被災しても、最後は己の判断力と脚力が鍵

●旅行先

旅行先で被災した場合、ホテルなどに泊まっているなら、スタッフの指示に従います。交通機関が復旧すれば、帰宅しましょう。問題はなかなか復旧しない場合です。復旧するまでその土地で生活するのか、歩いてでも帰るのかを自分で決めなければなりません。ちなみに、私は旅行先や出張先では常に「ここで被災したらどうするか」と、考えるようにしています。

「しばらくはこの街に滞在して、落ち着いてきたら○○辺りまで歩いて移動して、交通機関が動いているところに来たら乗車して……」という感じ。自転車が手に入れば、それで帰る手もあります。しかし、どんな時でも頼りにできるのは自分の足です。いざという時に「徒歩で帰れる人」であるように、日頃から意識して歩くようにしています。

●屋外にいる時

屋外にいる時は、駅員や店員のような指示を出してくれる人がいません。自分で自分に指示を出して行動するのです。街中を歩いている時に地震が起こったなら、まずカバンなどで頭を守ります。なるべく道の端にはいかず、物が倒れたり、落ちたりしてこない場所へ避難しましょう。建物は倒壊の危険や、中から人がどっと出てくる可能性があります。近づいたり、中に入ったりしない方がいいでしょう。

ただ、避難場所がみつかりにくいビル街の場合は、安全そうな新しいビルに避難するという意見もあります。正直、私も正解はわかりません。阪神・淡路大震災の時、当時私が住んでいた耐震性の高い家は崩れました。阪神高速道路や多くのビルが予想もしていなかった姿で倒壊しました。どんなに対策をしても、100%の安全はないのです。

だから、日頃から自分で観察して、考え、自分なりのベストを選びとる習慣が必要です。あなた自身の生命を守るために、ぜひ「ここで大地震にあったらどう避難するか」を常に自分自身で考えるようにしてください。

  • 人は、自分が経験したことが無いことについては、「そんな事態が起こるわけない」と思いがちだ。万一の時、後悔することが無いように、さまざまなリスクを考えて、しっかり備えておきたい。