リビング、寝室、書斎……と、用途別に部屋を分けられるような物件と違い、多くの1人暮らしの人が住んでいるのは1Kやワンルームだ。居室がひとつしかないため、ベッドも本棚もテレビも1部屋に集まることになり、地震の際のリスクも当然高くなる。ものが多い空間でも安全・安心に暮らすには、どのような防災対策をすればいいのか。

  • 地震に強い部屋作り〜震度7から睡眠中の命を守るコツは? /辻直美・国際災害レスキューナース

災害レスキューナースとして国内外で活躍する辻直美さんにそのポイントをうかがった。

床面によって変わる家具・家電の防災対策

部屋を防災仕様にするには、一般的に次のような点に気をつけて家具、家電をレイアウトします。

1.ベッドの頭と足もとには、倒れてくる可能性がある背の高い家具は置かない。

2.ベッドは大きな柱がある方に頭が来るように置く。

3.速やかに避難できるように、玄関への経路にはものを置かない。

4.揺れが収まるまで待避できる、ものがない安全なスペースを作る。

でも、1人暮らしの場合は部屋の広さや間取りから、「そんなの無理」という人も少なくないと思います。そのため、物が飛ばない、落ちない、倒れない、移動しないための対策を徹底することで、地震に強い部屋を実現します。

●床面

居室内の家具の対策は床面によっても変わってきますので、まずはチェックしてください。 フローリングはなんでも滑って移動してしまうため、底面に「滑り止めシート」や「耐震ジェル」が必須です。滑り止め付きのラグ(じゅうたん)、畳の場合はそれ自体が滑り止めの役割を果たすので、耐震ジェル等は要りません。

ただし、どんな床面でも、タンスや本棚の下には「転倒防止板」を敷いてください。 フローリングと違い、ラグや畳には割れ物が落ちても壊れにくいという特徴もあります。しかも、万一いろいろ壊れて散乱した場合、ラグならそのまま丸めて捨てることも可能です(※自治体により異なります)。滑り止めが付いたものに限りますが、ラグも防災グッズのひとつとして活用してはいかがでしょうか。

  • 散らかった部屋はそれだけで地震の際のリスクが増す。特に1人暮らしの社会人は、忙しくて自分の持ち物を把握しきれず、無駄にものを買いがちだ。断捨離してものを減らすのも、部屋を防災仕様にする大事なポイントだ。

家具は天井か床面との隙間を無くすことで固定する

部屋にいる時、最も無防備で危険なのが就寝中です。そのため、寝ている時の命を守ることが居室の防災対策のひとつの目標。特に背の高い家具は、倒れた時に大ケガをするだけでなく、避難経路を塞がれる可能性もあります。徹底した対策が必要です。

●本棚・タンス

背が高いタイプなら、天井までの隙間を段ボールや本でぎっちり埋めることで固定します。天井までの距離が結構あるなら、L字金具やベルトなどの転倒防止グッズを活用してもいいでしょう。今はビスを使わないグッズもありますから、賃貸の人も使いやすいと思います。

さらに、タンスの場合は「開き戸ロック」「引き出しロック」を付けて、中のものが飛び出すのを防止。本棚は本の下に滑り止めシートを敷き、「角が当たったら痛いな」というハードカバー本などは下の段、「当たっても死ぬことはないだろう」という文庫本などは上の段に置くことで重心を下にします。

●カラーボックス・引き出し型収納ケース

カラーボックスを重ねて使う場合は、横と後ろを必ず連結金具で固定してください。下段に重いものを入れ、重心を下にすることも転倒防止に有効です。

1段ずつ売っているプラスチック製の引き出し型収納ボックスは、便利なだけについ買い足して重ね置きしている人が少なくないと思います。私も使用していますが、上段と下段の間には滑り止めシートをはさみ、背面からガムテープでがっちり固定しています。

●ベッド

地震の時、就寝中のベッドから放り出されてけがをした人もいますから、ベッド自体の防災対策も必須です。たとえば、ベッド下に収納ケースを入れ、ケースとベッドの隙間を本などでぎちぎちに埋めて固定するという手があります。フローリングの場合、収納ケースの下には必ず滑り止めシートを敷いてください。

●机

フローリングの場合、重量がある机には、足に滑り止めを貼って移動しないようにしておきます。机の上に文房具、リモコンなどが出ている人は、この機会に引き出しや棚の中に片付けましょう。地震の時は、外に出ているものはなんでも飛んできますから、ボールペン1本でも大ケガにつながりかねません。収納場所が無いなら、100均で売っているプラスチックケースの底面と内側に滑り止めシートを貼り、その中にまとめてしまえばOKです。

実は、部屋を防災仕様にするというのは、部屋の中のものを整理し、片付けることでもあります。ものの置き場所が決まると自然にそこに戻す習慣が付きますから、「どこに置いたっけ?」と探し回ることもなくなり、普段の生活もしやすくなります。

  • 本棚やタンスは、天井までの空間を箱状のもので隙間なくぎっちり埋める。それにより、突っ張り棒と同じ原理で固定できる(辻さん自宅)。

家電はテレビやパソコンだけでなく照明にも注意!

地震の時には、テレビのような重量のある家電でも飛んできます。しかも、家電は壊れた場合の経済的な影響が小さくない上に、コードの断線、配線の損傷などで火災に発展する可能性もあります。万一のことが起こってから後悔しないように、できるだけの対策をしておきましょう。

●テレビ・パソコン

テレビやデスクトップ型パソコンは下に耐震ジェルを貼って固定します。ノートパソコンの場合は、滑り止めシートを一緒に持ち歩き、使用時は下に敷き、移動時は緩衝材としてパソコンをくるむと便利です。

●照明

ペンダントタイプの照明は、地震の揺れで吊り下げコードが切れて、落下してくることが少なくありません。可能であれば、据え付けタイプに変えた方がいいでしょう。 「賃貸だから変えられない」という場合は、吊り下げコードの長さをできるだけ短く調整し、天井に近づけた形で設置します。万一落ちた時のために、シェードの素材を割れないシリコンに変えたり、飛散防止スプレーをかけたりしておくのがベター。

蛍光灯や電球も、飛散防止処理が施されているものがあります。火災のことを考えるとLEDが望ましいですが、実は蛍光灯と違い、LEDは使用できる場所や照明器具の条件が細かいです。従来の照明器具を使いたい場合は、交換前にメーカーに問い合わせた方が安全です。

  • 滑り止めシートや耐震ジェルは100均のものでOK。ただし、耐震ジェルにも耐用年数があるので、定期的に交換が必要だ。