免許取得の必要がなく、子どもからお年寄りまで気軽に利用できるのが自転車です。とはいえ、その"気軽さ"が想像もしていない危険や損害を招くとしたら? 今年から埼玉県や京都府でも自転車保険への加入が義務化されました。今回は、自転車を取り巻く現状から自転車保険について考えます。
ルールを守らないと場合によっては5万円の罰金も
2015年6月に「自転車運転者講習制度」が施行されたのをご存じでしょうか。自転車乗車中に危険行為(14類型)をして、3年以内に2回以上違反や事故を繰り返した場合、都道府県公安委員会の命令を受けてから3カ月以内に自転車運転者講習を受講しなければいけません。この命令に従わなかった場合、5万円以下の罰金が科せられます。
危険行為(14類型)
・信号無視
・通行禁止違反
・歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反)
・通行区分違反
・路側帯通行時の歩行者の通行妨害
・遮断踏切立入り
・交差点安全進行義務違反等
・交差点優先車妨害等
・環状交差点安全進行義務違反等
・指定場所一時不停止等
・歩道通行時の通行方法違反
・制動装置(ブレーキ)不良自転車運転
・酒酔い運転
・安全運転義務違反
ついつい歩行者に近い感覚で運転をしてしまいがちな自転車ですが、道路交通法上、自転車は「軽車両」となります。つまり、自動車を運転するときと同じように、道路標識などの交通ルールに従う義務があります。
自転車運転者講習制度は14歳以上が対象となりますが、ルールは急に身につくものではありません。自分自身が自動車を運転するときと同様の注意を払うことはもちろんですが、お子さんにも小さい頃からしっかりと交通ルールを伝えておく必要がありますね。
自転車だからといって安心できない高額賠償
事故を起こしてしまった場合の賠償も、自転車だからといって軽くみることはできません。
ケース1
賠償金額9,521万円(2013年・神戸地方裁判所)
男子小学生が運転する自転車が坂道を下り、歩行中の女性(当時62歳)と衝突。女性は意識不明となった。
ケース2
賠償金額9,266万円(2008年・東京地方裁判所)
男子高校生が運転する自転車が車道を斜め横断し、対向車線を自転車で走っていた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性会社員には言語機能喪失などの重大な障害が残った。
ケース3
賠償金額4,746万円(2014年・東京地方裁判所)
46歳の男性が運転する自転車が赤信号を無視して交差点に入り、横断歩道を歩行中の女性(当時75歳)と衝突。女性は死亡した。
自転車事故というと、転んですりむいたり、自転車に傷がついたりといった軽微なイメージがあるかもしれません。しかし実際には、私たちの想像を超える大きな被害を生んでしまったケースがこれまでにもいくつもあり、被害の大きさによっては数千万円、場合によっては1億円近い賠償を命じられることがあります。
事故の被害に遭った場合はもちろんですが、加害者になってしまった場合も、気軽な乗り物だったはずの自転車で人生を大きく狂わすことになりかねません。そこで近年、いくつかの自治体がこの問題を解消するべく動き始めています。
埼玉県や京都府も! 自転車保険義務化の自治体増加へ
自転車には自動車のような自賠責保険がないため、無保険で交通事故を起こしてしまった場合、賠償金が払えず、被害者加害者双方に大きな負担となってしまいます。
兵庫県では全国に先駆けて、2015年に自転車損害賠償保険等への加入を義務化しました。同様に、被害者救済と加害者の経済的軽減を図るため、自転車保険への加入を義務化する自治体が少しずつ増えてきています。
加入が義務化されている自治体
2015年10月 兵庫県
2016年2月 滋賀県
2016年7月 大阪府
2017年10月 鹿児島
2017年10月 名古屋市
2018年4月 京都府
2018年4月 埼玉県
2018年4月 金沢市
※2018年4月現在 筆者調べ
義務化とまではいかないまでも、保険への加入を努力義務としている自治体も増えてきています。また、県府外・市外から義務化されている自治体へ自転車を乗り入れた場合も、加入が義務づけられることがあるので、お住まいの地域が義務化の対象外だからといって無関心でいるわけにはいかなくなってきています。
私たちにとって身近な乗り物である自転車。だからこそ、まずは"知ること"で避けられる危険や損害はしっかりと避けたいものです。「自転車保険」を1つのきっかけとして、日頃の安心・安全を見直してみてはいかがでしょうか。
次回は、より具体的な「自転車保険」の仕組みについてお伝えします。
筆者プロフィール: 長谷部敦子
ラーゴムデザイン代表 長谷部敦子 ファイナンシャルプランナー、マスターライフオーガナイザー、メンタルオーガナイザー。父親の看取り介護、自身の結婚を通して、「心」と「お金」の整え方を知ることの必要性を感じ、学びを深める。2012年・2014年の出産を経て、2015年に「しなやかな生き方をデザインする」をコンセプトに起業。家計・起業・扶養などに関わるお金の悩みや、働きたい女性のメンタルについての相談・講師業を中心に活動。働く母の目線で、日々のくらしを快適にする仕組みづくりについての執筆も行っている。「生き方デザイン.com」