社会人になると仕事が大変で壁にぶつかったり、悩んだり、つらいことも多いかもしれませんが、その分、楽しみもありますよね。その1つがお給料であり、そして学生アルバイトではもらえなかったボーナスだと思います。

社会人になった人は、頑張った自分にどんなご褒美を買いますか? 時計、服といったモノや旅行や美味しいものを食べるのもいいですね。では、いくらご褒美にまわして、いくら貯金するのが妥当なのか? 難しいところです。

こんな私たちの消費に関する意思決定についても様々な研究がなされており、行動経済学でもおもしろい傾向が指摘されています。

  • お金の使い方をどう判断していますか?

年収1,000万という絶対水準

収入が増えると消費も増えると考えるのが一般的で分かりやすい考え方です。年収の多い人が高級住宅街に住み、高級車に乗っている、そんなイメージを多くの人が抱いていると思います。

一定の収入がないと買えないものもありますし、家や車など維持費もかかるため、収入が少なくなると、手放さなければならないということも。よって収入の額と消費額に関係性があることは分かりやすいです。

「年収1,000万円以上稼いで、あの車に乗りたい」という場合の1,000万円は明確で具体的な数字であり、絶対水準といいます。

他人や過去と比較する相対的な水準

ただ、そういった考え方に対して「相対所得仮説」という仮説があります。それによると、私達の消費行動は収入のみに依存せず、相対的な所得水準、つまり、他人の所得や過去の自分と比較して消費をする傾向があるという考え方です。

例えば、お給料が下がっても、日本全体が不況で周囲がみんな「給料が減って大変だ」という状況だと、「自分だけじゃない」という相対的な見方が加わり、お給料が減っているにも関わらず、今まで通りお金を使うことにそれほど抵抗を感じないといった具合です。 「年収がいくら」とか、「昨年より幾ら減った」という絶対的な水準のみならず、「他の人と比べて」という相対的な水準を意識していますよね。

また、「過去の自分の最高所得」との比較をする傾向も指摘されています。例えば「今年はボーナスが多かったからたくさん買い物をしよう」ではなく、「3年前の夏のボーナスが最も多かったが、今回はそれを上回った」という時に消費が増える傾向にあるということです。

これも「今年のボーナスの額」という絶対的な水準のみならず、3年前の最高額との相対的な水準が意識されています。消費を決める要素は様々で、個人差もあると思いますが、他人と比較して消費するということに、うなずける人も多いと思います。

幸福感も他人との比較でアップ

消費行動は買う、食べる、遊ぶなど、人の幸福度合いにも通ずるものであるため、相対所得仮説を用いて、人が感じる幸福感についての研究も数多く行われています。それらによると、大学卒といった学歴や、同年齢、同地域といった一定のグループ内で自分の所得水準が平均よりも高いと、幸福と感じる割合が高くなるという指摘もあります。

20代で年収450万円の人が、「20代の平均給与は400万円で昨年から2%増えました」という調査情報に触れると、仕事がきつくて辞めたかったのに幸福感が少し高まる。こうした心情は分かります。

逆に、豊かな生活ができる十分な所得があったとしても、同年代などの平均よりも低いと幸福度にマイナスの影響が出るわけです。そしてさらに、私たちは他人の所得を高く見積もる傾向があることも指摘されています。

同窓会などで「みんな仕事を頑張っていて、年収は500万円ぐらいありそうだな。自分は450万円だけど」と勝手に高く見積もり、幸福度が減少している。なんだか少し残念ですよね。

自分の価値観を強調する

相対所得仮説を通して、私達が他人と比較しながらお金を使っている傾向があり、そしてそれは幸福度にも影響していることが分かりました。社会において周りの人と協調しながら仕事をし、生活をしていくことはとっても大切です。

でも、協調することと比較することは違います。自分の人生は自分のものです。自分の価値観をしっかり「強調」して、日々生活していきたいですね。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。