本来、大人の嗜好品であるはずのタバコだが、最近では人目につかない場所で、肩身を狭くして吸うことが多くなってしまった。このご時勢ではそれも仕方がないだろう。でも、本音を言うとちょっと切ないし、なんだか味気ないのも事実である。

とはいえ、グチグチ言っていても始まらない。むしろこんな時代だからこそ、これまで以上に充実した喫煙タイムを設けたい。たとえば、高品質な葉巻を贅沢に味わってみたり……。

そんなポジティブ志向で始まった連載「Barで”最高の一服”を」、第二回目の舞台は渋谷にあるシガーバー「Bar Rudies」を訪問し、店のオリジナル葉巻で”最高の一服”を味わってみた。

■若者たちも集まる渋谷の憩いの場

渋谷駅からほど近い道玄坂の一角に店を構えるシガーバー「Bar Rudies」。カウンター席が9つに4人がけのソファー席が1つの隠れ家的なバーで、葉巻をこよなく愛する常連たちが足繁く通う憩いの場となっている。渋谷という立地上、若者やベンチャーの社長、個人事業主などといった客も少なくないそうだ。

ゆとりのある大人が好む嗜好品、といったイメージの強い葉巻だが、日本ではまだまだ愛好家は少ない。しかし、Bar Rudies店長の清水淳一さんはちょっとずつ変化の兆しを感じているようだ。

「うちにいらっしゃるお客様の年齢層は比較的若くて、30代前半くらいが多いですね。大学生のお客様も少なくないですよ。今はタバコを吸わない若者が増えたと言われていますが、むしろ、コロナ禍くらいから葉巻を吸う人は増えたように思います」

コロナ禍の蔓延と改正健康増進の施行は、ぴたりとタイミングが重なっている。清水さん曰く、これが喫煙事情に微妙な変化を与える契機にもなったのだという。

「『もうタバコを吸える場所がないので、これを機に禁煙して、お酒を飲むときだけ葉巻を吸うようにしている』という話をよく耳にするようになりました。完全にタバコを辞めてしまうのは辛いけど、喫煙スペースを探すのも面倒くさい。そんな喫煙者たちが、シガーバーで葉巻を楽しむようになっている気がします」

しかし、タバコから葉巻へすんなり移行できるものなのだろうか。味わいは葉巻のほうがずっとビターなイメージがあるし、葉巻の場合は煙を肺に入れないので、喫煙の意味合いに根本的な違いがあるような気もする。

「ここで葉巻デビューをするという人も多いのですが、感想はまちまちですね。味の美味しさに感動したという人もいれば、よくわからないという人もいます。でも、タバコを吸って間もない人は、マルボロとラッキーストライクの違いもわからないですよね? 葉巻もそれと同じで、時間をかけていろいろ吸っていくことで味の違いがわかるようになって、自分の好みも出てきます」

■カクテルはもちろん、カフェオレやケーキとも好相性!

Bar Rudiesはキューバやニカラグア、エクアドルなど、中南米産の葉巻をメインに幅広い種類を取り揃える。この日は清水さんのオススメに従い、店のオリジナル葉巻「オリジナルシガー(梅)」をセレクト。ドリンクも「この葉巻に合うものを出してほしい」とオーダーし、完全に清水さんに委ねることにした。

葉巻を購入すると、さっそく清水さんが丁寧にカットして吸い口を作ってくれる。その仕草も渋くてまるでドラマのようだ。

続いて、バーナーでじっくりと着火。

「葉巻は微妙に湿度を含んでいるので、ゆっくり炙らないと火が点かないんですよ。また、吸いながら火を点けると中が炭化してしまうので、味が辛くなりやすいんです。火も、赤い部分が葉巻に触れないようにしています。あまり高温で火を点けると、葉っぱが燃えすぎてしまうので」

火を点けてもらった葉巻をゆっくり吸ってみると……これは美味しい。紙巻きタバコよりも重厚で苦味が効いているが、葉っぱのふくよかな香りと甘みのようなものも感じることができる。そして何より、吸い終わったあとの余韻が長い。

「うちのオリジナル葉巻はニカラグア産ですが、『キューバ産の葉巻に寄せている』という特徴があります。葉巻は基本的にキューバ産が良いとされていて、やはりキューバ産の葉巻は複雑さや苦味が美味しいんです。

もちろんニカラグア産もいいのですが、ウチの葉巻はニカラグア産特有のスパイシー感やミネラル感を抑えることで、キューバっぽい味わいを目指しました。キューバ産だと価格も高価になりがちですが、ウチのオリジナル葉巻なら、キューバ産のような味わいを比較的リーズナブルにお楽しみいただけます」

続いて季節限定のカクテル「柿のブランデージンジャー」も到着。生の柿ソースとフランス産のブランデー、ジンジャエールから作ったショートカクテルだ。ジンジャエールの辛みとブランデーのまろやかな甘み、そして柿の甘みと清涼感が絶妙に混ざり合っていてかなり美味しい。スッキリした甘みと刺激は葉巻のビターな味わいとも相性抜群だ。

続いて清水さんが出してくれたのが、かぼちゃのチーズケーキとアイスカフェオレだ。「実は、葉巻は甘いものとすごくよく合うんですよ」とのことだが、それは初耳である。

実際に葉巻と一緒に味わってみると、これが驚くほど好相性。葉巻のロースト感がカフェオレのミルクのコクやコーヒーの風味と見事にペアリングされている。かぼちゃのチーズケーキの濃厚な甘みやほのかな酸味とも抜群にマッチしている。

「葉巻はソフトドリンクとの相性もいいんですよ。うちでもいろんなソフトドリンクを扱っていますが、たとえばココアやロイヤルミルクティー、コーラなんかにも合います。葉巻は口の中に余韻が長く残るので、飲み物や食べ物を美味しく感じさせてくれるという魅力もあるんです。あとは焼き肉にも合いますよ。肉の脂や焼き肉のタレの油との相性がいいんです」

最後にお酒をもう一杯。甘くなった口の中を「ジャックローズ」という林檎とブランデーのカクテルで整え直す。フレッシュな酸味と甘みで、先ほどのブランデージンジャーとはまた別種の味わいだが、こちらも不思議と葉巻とマッチする。葉巻にはない「酸味」という要素が、逆に葉巻のポテンシャルをまた一層引き出しているイメージである。

葉巻も短くなったところで、清水さんに改めて葉巻の魅力を聞いてみると……

「葉巻のいいところは、“時間を有意義に使える”ということだと思います。葉巻を味わおうと思えば1時間は時間を取らないといけませんし、そこに葉巻が贅沢品と呼ばれる由縁があります。時間に余裕を持って、ゆっくりと煙を楽しむ。この『時間を使う贅沢さ』こそが葉巻の醍醐味なんじゃないかと思っています」

人目を忍び、せかせかとタバコを吸う。そんな光景が日常的になった今だからこそ、葉巻の魅力はさらに輝きを増すのかもしれない。最高の一服、ごちそうさまでした。