東京の街を見渡せば、喫茶店や図書館、公園や神社仏閣など働く人たちがぼーっとひと息つける“おサボりスポット”はけっこうある。喫煙者にとっては喫煙所も大切なスポットだ。

禁煙・分煙化が進むなか、逆に新鮮な業態として席で終日喫煙できることをウリにした喫煙喫茶などもあり、葉巻を気軽に楽しめるシガーバーもひと昔前より随分身近になった気がする。

コロナ禍のアウトドアブームなども背景に、一部の若者にも密かな愛好者がいるとも聞く葉巻。今回は1998年にオープンした老舗シガーバー「ル・コネスール六本木店」店長の斉藤大輔さんに、シガーバーや葉巻の魅力などをうかがった。

■葉巻とラム酒をペアで楽しめる

「気兼ねなく葉巻を吸える環境って、実はなかなか難しいんですよね。煙がモクモクで真っ白みたいな店内の状態は、やはり良くないですし、かといって自分が吸っている葉巻の煙が空気清浄機ですぐ吸い取られてしまうのも味気ないので。席の余裕やスペースの確保しつつ、換気のバランスなどを工夫しています」

都内で展開する『ル・コネスール』の中でも、六本木店は最も隠れ家的な、シガーバーらしい雰囲気を味わえるお店。つくりも重厚でラウンジ感が漂い、カリブ海を代表するラム酒を合わせて葉巻を楽しめる。

「仕事終わりに30分から1時間ほど滞在してご帰宅される方や、他のお店でごはんなどを召し上がった後に1人で来られる方が多いです。接待などでご利用になる方もいらっしゃいますが、どちらかというと、そうした集まりが解散した後に1人でご利用されることが多い店舗かと思います」

六本木の店舗は常連客の比率的高いそうだが、ビギナーまで優しく手ほどきしてくれる。高輪店と六本木店には年間契約で、客の私物の葉巻を保管する「シガーロッカー」があるのも特徴だ。

「年齢層は30代後半から60代ぐらいまでの男性が8割以上という印象です。おひとり様、おふたり様のご利用が多いです。ただ、どちらかというと渋谷店のほうが初めて葉巻を吸われるような20代のお客様は多いんですが、六本木店にもご新規のお客様は決して珍しくないです」

■それぞれが思い思いにくつろぐ大人のオアシス

「シガーバーの楽しみ方は人それぞれですが、やはり、時間の使い方という部分で自分だけの時間を自由に楽しめる点は大きな魅力で、“時間を買う”という感覚は大きいと思います。お仕事終わりに葉巻でオンとオフを切り替えるようなかたちでご利用されるお客様も多く、接客面でもお客様ご自身の時間を尊重する姿勢を大切にしています。一般的なサイズの葉巻は吸い終わるのに1時間ほどかかるので」

1本の葉巻を介することで1人になれるシガーバーは、常に何かに忙しなく追われている今の時代、ハマる人にはかなりハマる貴重なサードプレイスだ。誰かと一緒に利用しても、各々が違和感のない適度な距離感でリラックスして過ごせしやすい空間でもある。

「普段1時間で3杯飲むところを、少し時間をかけて楽しめるお酒で1本の葉巻を楽しむかたちなら、実はお支払いの金額が極端に高くなるわけではないのかなと。葉巻は決して安くないことは確かですが、あくまでひとつの嗜好品ですし、そこまで恐縮して畏まるようなものではないと思います。もし、その日のご予算をおっしゃっていただければ、お酒の組み合わせなどもいろいろご提案できます」

六本木店ではロングフィラーとショートフィラーという大きく2つのカテゴリの葉巻を取り扱う。

ロングフィラーは、葉巻商品として味わいはもちろん、見た目の美しさなども追求した最上級品。職人のハンドメイドで高い品質を実現している。ショートフィラーはロングフィラーをつくる過程で出た、ロングフィラーを巻くにはそうした小さい葉を機械で巻いたもの。

必ずしもショートフィラー=マシンメイドではなく、ショートフィラーでも手作りのものがあるそうだが、たばこ葉の状態は1枚1枚すべて同じわけではなく、高い品質の葉巻は機械化で大量生産することが難しいという。

「たばこの葉には日の当たりやすい位置にある葉はスパイシー感が強いなどの特徴があり、銘柄によってレシピのように束ねて巻く葉の割合は異なります。使う葉を臨機応変にピックアップする必要がありますし、巻き方の面では微妙な力の入れ方などの匙加減が大事。職人さんの手で均一に巻かれたものは味の深みが違います。もちろん、好みの問題はありますが葉巻の価格は質と基本的に比例していて、同じ銘柄、1ボックス25本入りの葉巻でも厳密には誤差の範囲として個体差があるんです」

■葉巻を嗜む上でのマナーは?

喫煙時間は葉巻の長さに、煙量やボリューム感は太さに基本は比例しているという。葉巻といえばキューバだが、今回は40分ほどで吸い終わる少し短めの「ダビドフ」というドミニカ産の葉巻を選んでみた。

「ドミニカ産は他の産地のものより上品で柔らかく、初めての方でも吸いやすい葉巻が多いため、葉巻デビューの一本としておすすめすることも多いです。基本的に葉巻は肺に入れず、ふかして歯茎など口の中の粘膜からニコチンを吸収します」

吸い口をカットして渡すのが基本スタイルだそうだが、希望すれば着火までお願いすることなどもできる。

お酒とおつまみに葉巻が加わり、その掛け合わせでそれぞれ単体では味わえなかった隠れたテイストを経験できることもシガーバーの大きな魅力。葉巻の刺激を和らげる効果があるため、「茶色いお酒(蒸留酒)」と「甘いお酒」がおすすめだという。

「アルコール度数40%以上のお酒で、“強さを合わせる”というイメージが蒸留酒です。ウイスキー、ブランデーやラムなどのお酒をストレートやロックで味わうのが定番になります。『甘いお酒』はニャックやラム、甘口のウイスキーやデザートワインなどのほか、コーヒーリキュールなども合わせやすいです。チョコレートなどで甘さを補うのもいいと思います」

コーラなどで割ったり、カクテルにしたりして飲まれることが多いラムだが、同店ではストレートやロックなどウイスキーのように楽しみたくなる高級ラムも多数取り揃える。グアテマラの「Ron Zacapa(ロン サカパ)」は知名度・人気ともにトップクラスのラム酒。フルーティーな甘さと少しスパイシーな風味が非常に上品だ。

ストレートなどの飲み方が苦手な人は、通年で提供されているモヒートもおすすめ。本場キューバのモヒートの甘さを意識しているそうで、日本で提供されるモヒートよりも甘く、非常に飲みやすい。

初めての利用でも、より気兼ねなくシガーバーの雰囲気を楽しむためのマナーやポイントなどはあるだろうか?

「怒りやイライラを表す演出とよく言われますが、ひとつは揉み消さないということ。紙巻たばこと違い、固く巻かれている葉巻は2〜3分放置すると自然に火が消えます。吸い途中で消えてしまったらマナー違反というわけでも特にないので、また普通に火をつけていただければOKです」

ある程度葉巻に慣れている人でも体調などによって具合悪くなることも稀にあるようなので、もし不調を感じたら無理して吸わないことも大切だ。

「また、灰を落とす際は紙巻たばこのように頻繁に指で叩いて灰を落とすと、灰皿の周りに灰が散らばりやすいので、葉巻は灰皿に軽く押しつけて折るように灰を落とすのもポイントです。2cmほど灰ができたら、規則的に灰を並べていくように意識すると、よりスマートですね」

ル・コネスールは、六本木店のほか、銀座本店、渋谷店、赤坂店、丸の内ホテル店、グランドプリンスホテル高輪店にも店舗がある。日本の住環境では敷居の高い葉巻だが、こうしたお店で楽しんでみては?