貯金なし・配偶者なし・知識なし(でもオタク仲間あり)に、“明るい老後”はやってくるのか? 身内の介護や看取り、老後問題……介護資格をもつアラフォーのバンギャル2人が、介護業界にガチ取材し、老後を模索する体当たりルポ・エッセイ『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)より、一部を抜粋してご紹介します。
大先輩もおっしゃるように、老後を過ごす相手は血縁者のみにこだわる必要はないし、「価値観の近い人」と過ごすという選択肢は大いにアリ。ぶっちゃけ私はそうしたい。ただ具体的に実践するにはどうしたらいいのでしょう? 現在、女性4人でルームシェアをしているけれど、このまま老後まで行けるか? というと、いろいろ懸念もあるわけで……。
今回の登場人物
藤谷千明:バンギャル歴約四半世紀のフリーライターで介護資格持ち
蟹めんま:バンギャル歴20年以上の漫画家・イラストレーターで介護資格持ち
編集T:本書の編集担当で唯一の非バンギャル
同居人A・B・C:藤谷とルームシェア中のオタク仲間
アラフォー女性4人(オタク)の快適ルームシェア生活
藤谷:私は5年前から、都内の一軒家でアラフォー女性と4人暮らしをしています。ちなみに全員オタク。この暮らしは大変快適です。家賃、光熱費、あるいは食費などは一人暮らしよりも複数人で折半したほうが負担は少ないですし、仕事が忙しい、体調が悪いなどの理由で家のことができないときも残りの3人で生活を回すことができます。そしてオタクが4人もいれば、漫画、アニメ、ゲーム、小説、舞台etc……家には楽しいエンタメがあふれています。人の推しを知るのは楽しい! それに、もともと「SNSを通じて知り合ったオタク友達」で、幼馴染とか大親友というわけでもなく、精神的にはほどほどの距離感であることが幸いしているのか、大きな揉め事もなく楽しくやっています。万人におすすめできる暮らし方かどうかはわかりませんが、私には向いていると思っています。そうでないと5年も続かないですよ。
編集T:私は今結婚しているけれど、女性のほうが長生きだし、いつかはひとりになるかもしれません。そうなったら気の合う友達と暮らせたらいいなぁ、と考えたりしますね。
藤谷:そうですなあ、ネットを眺めていても「老後は仲のいい友達と」という人は少なからずいるようです(実現させたいという気持ちの強さには、それぞれ差があるでしょうけど)。この快適極まりない暮らし、「できればあと10年はこのままでいた~い」と心の底から感じているものの、「“一生”は難しいかもな~」と感じているのも事実。他の同居人はどう考えているのかしら? というわけで、みんなに意見を求めてみました。ちなみに5年一緒に暮らしても敬語なのは通常営業です。これはオタクゆえか、「ほどほどの距離感」ゆえか……。
ルームシェアで老後も暮らせる? 同居人たちに聞いてみた
同居人A:全員が健康という前提で、60歳くらいまでなら行けるのでは。でもその後は難しいと思いますね。
藤谷:同世代でも、老いのスピードは平等ではないですしね。
同居人B:それもあるけど、まず“親の介護”というライフイベントが発生するでしょ。私は一人っ子なので、その時点で今のようなルームシェアを続けることができるのでしょうか……と。実家は東京から離れているので。
藤谷:例えば、介護休業は最大93日間取得することができるけれど、それで実家とこっち、あるいは職場を、行ったり来たりするのもなかなか大変かもしれない……。
同居人C:さっき「老いのスピードは平等ではない」と藤谷さんもおっしゃっていましたけど、今の私たちの生活って「自分の面倒は自分でみる」という前提で成立しているじゃないですか。たまに調子が悪い人がいたらサポートすることはあっても、「ずっと」というわけではないでしょう。
藤谷:それは本当にそう。
同居人C:親の介護、体調の変化、環境の変化など……なんらかの要因でその前提がなくなってしまった場合、残りの人員がそれを補う義務はないじゃないですか。仮に補えたとしても、その結果歪みや不満が出てしまう可能性が予想できます。そういう負担を「ルームシェア」というライトな人間関係の人たちに背負わせるのはフェアではないし、それが私自身の精神的負担になってしまうと思うんです。
同居人A:私はフリーランスだから、将来もらえる年金は会社員より少ないんですよね。これからどんどんカットされるかもしれないし。そんな状況で他のみんなと足並みを揃えるのは厳しいかも……。
藤谷:ウッ、耳が痛い! 今は肉体的にも経済的にも自立できているけれど、年金を筆頭に「年をとって動けなくなったとき」の補助は、社会保障のある会社員とフリーランスだと違うこともあるんですよね……。
同居人C:制度を利用してヘルパーさんなどの第三者に来てもらうこともできるけど、それも同居人全員から同意をとらないといけないですし。そういう話し合いも、気力や体力があってこそ成立するものだと思っています。
藤谷:そこを事前に丁寧に話し合う選択肢もあるとはいえ、それをやると「ほどほどの距離感」の関係性ではいられなくなる気がします。
同居人C:ですよね。それは「家族」と変わらない。
同居人B:それに、今の住んでいる賃貸物件は古い一軒家じゃないですか。今ですら修理が必要なことも多いのに、身体の自由が利かなくなってからも一軒家のメンテナンスをし続けるのは、かなり大変だと思います。対策として、介護付きの高齢者住宅みたいなプロによるケアがある程度手配されている環境ならば実現可能性はあるかもしれませんが、それは果たして「ルームシェア」と呼んでいいものなんでしょうかね。
藤谷:みんな、マジレスの極みをありがとう~。揃いも揃って、基本的には「今の生活を続けるのは難しい」という判断となりました。まあ、似た者同士だからこそ5年一緒に暮らせているのかもしれませんが(ここで実感してどうする)。
老後は「やっぱり家族」なのか!? 理想の老後と「親の老い」問題
藤谷:現在のルームシェアの関係性は、「いつでも解消できる」からこその気軽さや配慮があって、それが精神的な快適さにつながっているのも事実です。なので、今の生活は「老後にみんなで助け合う」という暮らしとは少し異なるのかな、と。それに、今の制度だと、老いなどによって自立できなくなった場合、最初に(そして最後に)頼るのは家族……となりますな、どうしても。
編集T:う~ん、老後は「やっぱり家族」になってしまうのは、どうしてなんでしょう?
藤谷:現実問題、入院などの手続きに関しては「ルームシェアの同居人=他人」よりも血縁・戸籍でつながっている家族のほうが何倍もスムーズなので。例えば以前、私たちと同じようにルームシェアをしている友人が、病気で倒れて緊急手術をすることになったのですが、遠方に住んでいる両親が即座に病院に行くことができず、ルームシェアの同居人では手術同意書にサインができないため、手続きに手間取ったという話を聞いたことがありました。そのときに病院側から「同性パートナーシップ制度などを利用していれば」と言われたそうですが、単なるルームシェアにそれは適用できません。友人同士でもパートナーシップ制度が利用できる自治体もありますが、ごく少数のはず。道はまだまだ険しそうです。
でも、取材を通して血縁・家族以外で構成された老後の暮らしを手探りで作り続けている人たちが現実にいることはすごく心強いです。もちろん私たちが老後を過ごす未来には、社会状況は変わっていると思うけれど、「自分はどんな暮らしをしたいのか、そのためにはどうしたらいいのか」を考えることが大事なのかもしれませんね。
蟹:それにしても、ルームシェアメンバーの皆さん、かなり冷静に状況をみていらっしゃいますね。
藤谷:全員わりとリアリスト。そこが我々の長所です。反対に夢がないのが短所ですが(笑)。
編集T:藤谷さんたちのルームシェアは「つかず離れず」がポイントですけど、病気になったり寝たきりになってしまったときは、「つかず」の関係性の継続は難しいのかもしれません。
藤谷:まあ、家族だったらそのコストを問答無用で押し付けていいのかっていうと、それも違いますけど。例えば、早い段階で地域包括支援センターに相談し、信頼できるケアマネジャーと連携できるようにするとか、制度をもとに対策は思いつくものの、数十年後同じ制度が使えるかどうかはわからないですし。これは政治の話になりますが。
蟹:制度、残っててほしいですね……!!
藤谷:前例が少ないからこそ面白いことも多いとは思います。しばらくは今の生活を続けたいですし、何らかの変化があったら発信していきたいものです。
--進む超高齢化社会、老後資金に2千万円と言われ、キラキラ元気な老人がもてはやされる一方で、高齢者を狙う詐欺やカルトにハマる事例も……次回は「高齢ドライバーはみんな免許返納すべき?」について考えます。
『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)
著者:藤谷千明・蟹めんま 監修:LIFULL 介護
「老後はオタク仲間で一緒に住もうぜ!」から楽しく始まった企画のさなか、当事者として直面することになった身内の介護・看取り・老後問題。漠然とした不安だらけの世の中で、オタク女子に“明るい老後”はやってくるのか。オタク・ネットワークとユーモア、そして「趣味から得た養分」を手に、戦略を考えてみた! 老人ホーム・介護施設検索サービス大手の「LIFULL 介護」が監修し、解説も充実。Amazonで好評発売中です。