DVを繰り返す夫から逃げるように子どもを連れて家を出て、現在別居中。夫は離婚に同意したものの、子どもとの面会を強く要求している。けれど会わせたくない……。
このように、夫のDVが原因で離婚する場合、または離婚した場合、子どもとの面会を拒否したいと思う人は多いでしょう。では、実際に拒否することは可能なのでしょうか。また、面会について当事者間の話し合いで決着がつかないときは、どうしたらいいのでしょうか。
今回は、離婚について話し合う過程で大きな争点となることの多い「面会交流」に関して詳しく解説します。
「面会交流」とは?
夫婦は離婚すると大抵の場合は別居し、その子どもは夫婦どちらかが養育・監護することになります。面会交流とは、監護しない側の親が子どもとの面会を行うことです。2011年、民法第766条に明文化されました。
離婚前・未婚の場合でも認められている
面会交流が問題になるケースは、離婚調停中や離婚後のことが多いです。しかし、離婚前に別居している場合や、未婚で子どもを認知している場合でも、子どもとの面会交流を請求することができます。
面会交流は親だけのためのものではない
一般的に面会交流の請求は、子どもと別居して暮らす側の親が行います。そのため面会交流は、子どもと一緒に住めない親がその子どもに会うために行使する権利のように思われています。
しかし、実際はそれだけのためのものではありません。子どもが健全に発育するためには両親の協力が不可欠であるため、子どもにとっては別居している親との交流も重要であると考えられています。両親が離婚しても一緒に食事をしたりプレゼントをもらったりするなど、親の愛情を実感することは子ども自身の人格形成に良い影響を与えます。つまり面会交流は、子どもの利益を第一に考えた、子どものためのものであると言えます。
面会交流はどのように決まるの?
面会交流については、まず子どもの両親で話し合うことになります。この話し合いにおいて、決めたほうがいい内容を以下にまとめます。
1. 会う回数と時間
「月に1回、1回あたり5時間」のように、面会の頻度と会う時間を決めます。会う頻度や1回あたりの実施時間は、子どもの年齢、子どもや両親の生活状況、両親の意向などに応じて個別に検討していくのが通常で、一定の決まりがあるわけではありません。
例えば、子どもがまだ1、2歳の場合に、子どもの身体にかかる負担や付き添う親の都合なども考慮し、「まずは月1回、1回あたり3時間ほど面会交流を実施する」と決めたとしましょう。その後、子どもの成長とともに実施頻度や時間を増やしたり、長期休みには宿泊をともなう面会を実施したり、という取り決めがされるケースもあります。
2. 面会方法と子どもの受け渡し方法
面会方法とは、例えば「子どもとの面会に子どもと同居している親が付き添うか否か」などの部分を指します。両親が子どもとの面会を実施するうえで協力体制をとれる場合は、初めは面会方法や子どもの受け渡し方法については大まかに決めておく程度で、詳細は都度連絡を取り合って決めていくということも考えられます。しかし、両親においてそのような関係を築けない場合には、あらかじめこれらの事項も明確に決めておく必要があるでしょう。
3. 面会できなかった場合の取り決め
子どもは、乳幼児期は特に、急な体調不良が起こることも少なくありません。そのため、約束していた日に面会を実施できなくなるということもありえます。そのような場合は、「同じ月のうちに面会の機会を再度設ける」や「翌月に1回多く面会を実施する」などのルールを決めておくと後のトラブルを避けることができます。
4. その他
毎月の決められた面会交流に加え、例えば「保育園や学校の行事への参加はどうするか」「長期休暇は通常と異なる面会交流を実施するか」「面会時の費用負担をどうするか」なども話し合っておくといいでしょう。
特に保育園などの行事については、子どもと同居する親が事前にその行事の日程を相手方に伝える必要もあり、協力体制が欠かせません。子どものためにどうすべきか、という視点での話し合いが必要になります。
話し合いがまとまらないときは、調停申し立て
上記事項について話し合いがまとまらない場合は、面会交流調停を申し立てるのがよいでしょう。離婚調停も行われている場合は、離婚調停と面会交流調停が並行して進むことになります。面会交流をめぐる争いが子どもに影響を及ぼすほど激しい場合などには、家庭裁判所調査官による調査が実施され、当事者双方に調整的な働きかけが行われたり、子どもの生活状況や心情ないし意向などの把握が行われたりすることがあります。
そして、調停の中でも話し合いがまとまらない場合には、「審判」という形で結論が出ます。つまり、最終的には裁判所に判断をゆだねることになります。
面会交流を拒否することはできる?
面会交流が子どもの成長と福祉に必要であると考えられているのは先に述べた通りです。そのため、子どもと同居する側の親が、別居して暮らす側の親への嫌悪感のみで「面会交流は認めない」と主張することは、基本的に認められていません。
したがって、子どもと同居する親が調停の場で「子どもと相手方とを会わせたくない! 」と明確な理由もなく面会を拒否すれば、調停委員からそのような主張は通らないという旨の説明をされます。それでもなお拒否し続けて審判となれば、結局、面会交流を認めるという判断が下される可能性が高くなるでしょう。
しかし、子どもにとって不利益になる特別な事由があれば、面会交流を拒否・制限することができます。調停で話し合いが整わなかった場合に、審判において面会を拒否する主張が考慮される可能性があるということです。以下にその特別な事由の例をまとめます。
1. 子どもへの虐待
子どもへの虐待は、子どもの利益に反する行為として裁判所も重く受け止めます。配偶者のみならず子どもに対しても虐待していた事実があり、将来もその危険性がある場合は、面会を拒否することができます。
ただし、このケースでは虐待の事実を証明することが必要です。暴力を受けたときの写真や病院の診断書、児童相談所や警察に相談した記録などは重要な証拠となります。
2. 子どもの拒絶
子どもは、幼い頃は同居している親の影響を受けやすいでしょう。また、幼い子どもにとって「自分の意思がどういうところにあるか」を考えることは難しく、それを表現することを期待するのも困難です。それゆえに、ある程度の年齢になって初めて、その子どもの意思が重要な考慮要素となってきます。
審判の判断例などを見ると、その年齢については個人差もあり、明確な基準はありません。しかし、11、12歳くらいの子どもが面会について強く拒絶している場合は、その意思が考慮要素のひとつとしてしっかりと尊重されることが考えられます。
3. 子どもが連れ去られる危険性
面会交流の際、相手方に子どもを連れ去られる可能性もないとは言えません。その危険性が高い場合でも、実態がないと最初から面会を完全に拒否することは難しいかもしれません。弁護士などの第三者を立ち会わせる、建物内で会うなどの条件を付けて、連れ去りの危険性を排除した上で面会交流を行う方法を検討してみるとよいでしょう。
取り決めた面会交流を拒否するとどうなるの?
離婚調停や審判で取り決めた面会交流について、「やはり子どもが嫌がっている」「夫が決めたことを守らない」などという理由で拒否することはできるのでしょうか?
定められた面会日に子どもを行かせないという手段は、事実上可能です。
しかし、相手方が面会交流の拒否について家庭裁判所への申し立てを行い、これが認められれば、裁判所より制裁金を科せられることになります。1回あたり5万円程度(個別事情により金額は前後します)で、未払いを続けると給与や財産を差し押さえる強制的な回収が行われます。
理由があって面会交流を拒否したい場合は、再度調停を申し立てて正式な手続きを取り、条件を変更しましょう。
まとめ
面会交流には、離婚を話し合っている夫婦間の感情のもつれ、または離婚した夫婦間の相互不信の感情などがそのまま持ち込まれがちです。「相手と子どもを会わせたくない」「子どもが風邪を引いて面会できないと言っているが、自分と会わせたくないための嘘なのではないか? 自分には会う権利があるのに不当に侵害されている! 」などのように、感情的な対立が激しく現れることも多いように感じます。
本当に難しいことではあるのですが、面会交流に関しては離婚の問題と分けて考えてみることが重要になります。両親が子どものために協力し合える関係を少しずつ築いていきましょう。感情的になってしまい冷静な判断ができないかもしれないという場合には、当事者のみで話し合わずに、専門家である弁護士に一度ご相談ください。
執筆者プロフィール : 弁護士 高橋 麻理(たかはし まり)
第二東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて勤務。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援や離婚問題に真摯に取り組んでいる。