相続の手続きを進めるためには、まず初めに相続すべき財産が何なのかを明らかにしなくてはなりません。相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産があり、マイナスがプラスを上回る場合には、相続を放棄することも検討ができます。ここでは、相続財産に当てはまるのはどんなものか、および相続放棄のメリットとデメリットについて、解説していきます。

相続財産とは?

相続財産とは、故人が有していたほとんどの財産です。現金や預貯金、土地や家などの不動産、株式などの有価証券、宝石・貴金属類、自動車、家財、さらにはゴルフ会員権や著作権、損害賠償請求権なども、相続財産に含まれます。

相続財産はプラスの財産ばかりではなく、マイナスの財産もあります。借金や買掛金、小切手、未払いの税金や家賃・医療費、連帯保証債務なども、いずれも相続財産です。住宅ローンも相続財産に含まれますが、住宅ローンの場合には、死亡時にローン残高を保険でまかなう、団体信用生命保険に加入していることがほとんどですので、あまり問題にはなりません。

これらは相続財産?

故人にまつわる財産でありながら、相続財産に当てはまらないものも、いくつかあります。それは、生命保険、仏壇・仏具、死亡退職金(一部の場合を除く)、香典などです。

生命保険

生命保険は、「受取人に固有の財産」とされています。したがって、故人が受取人になったものは相続財産に含まれますが、故人以外の人が受取人になっている場合には、相続財産とはなりません。

ただし、受取人が相続人の誰かである場合には、他の相続人との不公平を解消するため、特別受益制度によって相続の割合が調整されることがあります。また、相続人が受け取った生命保険金は、税法上は「みなし相続財産」とされ、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を超えるものには課税されます。 仏壇・仏具

仏壇や仏具、お墓などの先祖を祀るための財産は、民法で「祭祀財産」(さいしざいさん)と規定されます。相続財産には含まれず、どんなに高価なものであっても、原則として相続税もかかりません。

死亡退職金

死亡退職金も、生命保険と同様に「受取人に固有の財産」とされ、受取人の規定がなければ相続財産となる可能性が高く、受取人が遺族の誰かと規定されている場合には、原則相続財産にはなりません。特別受益とみなし相続財産が適用されるのも、生命保険と同様です。

香典

香典や弔慰金は、故人の死後に発生するものですから、相続財産ではありません。相続税もかかりません。

相続放棄とは?

相続放棄とは、文字通り、自分の法定相続分を一切放棄することです。マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合には、相続放棄した方がいいこともあります。

相続放棄の手続きは、故人の住所地を管轄する家庭裁判所で、相続の開始があったことを知ってから、3カ月以内にしなくてはなりません。また、一度手続きをすると、原則としてもう取り消すことはできません。

相続放棄のメリットデメリット

相続放棄には、メリットとデメリットの両方があります。

第一のメリットは、マイナスの財産を相続しなくてすむことです。また、面倒な遺産分割手続きに関わらなくてすむことや、場合によっては、特定の相続人に相続財産を集中させられることも、メリットだと言えます。

デメリットは、相続放棄をすると、プラスの財産も受け取れなくなることです。相続人の全員が相続放棄した場合、仮に思い出の品やなつかしい生家など、財産の一部を残したかったとしても、それは認められることはなく、国が選任する相続財産管理人がすべてを清算・売却します。

相続放棄を考える場合には、まずプラスの財産とマイナスの財産の双方をよく調べた上で、本当にメリットがデメリットを上回るのか、3ヶ月の期限のあいだに慎重に検討しましょう。


執筆者プロフィール : 弁護士 松村 茉里(まつむら まり)

第二東京弁護士会所属。京都大学法学部卒業。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に相続分野を取り扱う。交渉・調停・遺言作成等幅広い相続案件に従事しており、セミナー活動・執筆活動も行っている。NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員、「家族で話すHAPPY相続」を執筆。事業承継スペシャリストの資格も有する。