民法では、『夫婦別産制』という原則があります。これは、簡単に言うと、結婚している間に夫が得た財産は夫のもの、妻が得た財産は妻のもの、という原則です。たとえば、夫が働き、その働きを支えるために妻が結婚を機に仕事を辞め、専業主婦をしていたという家庭があったとして、夫が給料の中から、必要最低限のお金を妻に渡していたとします。そして、その夫婦が離婚することになったとします。

そうなった場合に、「夫名義の財産は夫のもの、妻名義の財産は妻のもの」という原則によれば、夫名義の財産が、妻名義の財産を大きく上回るなどといった、大きな経済的格差が生じる可能性があります。離婚にあたり、このような経済的格差を調整しようという制度が、財産分与の制度です。ここでは、財産分与でよく問題となる例をピックアップして、わかりやすく解説していきます。

財産分与とは?

財産分与とは、夫婦が結婚しているあいだに協力して築いた財産を、離婚の際、または離婚後に、夫婦のそれぞれに分けることです。預貯金や不動産などの財産の名義が、たとえ夫婦のどちらか一方になっている場合でも、その財産が結婚しているあいだに得られたものなら、原則として共有の財産と認められ、財産分与の対象になります。

財産分与をどのようにするかは、夫婦で話し合い(協議)をすることによって自由に決められます。もし協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てることもできます。もっとも、通常は、夫婦関係調整調停(離婚調停)の中で、財産分与についても話し合うことが多いといえます。

財産分与の対象となるもの・ならないもの

Q「親から相続した財産も分与の対象になるの? 」
A「固有財産として、分与の対象になりません」

財産分与の対象となるのは、夫婦の共同生活中に夫婦で形成した財産です。したがって、夫婦の一方が、その親の相続で承継した財産以外にも、夫婦の一方が、婚姻前から有していた財産も分与の対象となりません。財産分与の対象となる財産としては、夫婦共同生活中に形成された以下のものが例として挙げられます。

  • 現金
  • 預貯金
  • 土地や建物などの不動産
  • 株式などの有価証券
  • ゴルフ会員権
  • 生命保険、個人年金
  • 美術品や宝飾品
  • 結婚してから購入した家財道具
  • 自動車

など

夫婦の一方が働いて得た給料についても、当然、財産分与の対象となります。近い将来に退職金を受け取ることが確実である場合には、その退職金も財産分与の対象になり得ます。

財産分与の割合

Q「夫の不貞が原因で離婚することになった。分与割合を8:2くらいにできない? 」
A「5:5が原則です」

まず、財産分与の割合は、原則として5:5です。たとえば、夫が外で仕事をし、妻が、専業主婦をしているという家庭があったとして、夫婦が婚姻中に築いた財産を5:5で分与することが原則となるのは、「夫が仕事をでき、そこで、給料を得ることができたのは、妻が家事や育児を行ったからであり、夫婦がそれぞれ役割を分担したことによる」と考えられるからです。

そして、財産分与に、慰謝料的要素を考慮することを認めた裁判例もありますが、原則的な分与割合は、5:5です。配偶者の不貞が原因で離婚することになったなどの事情がある場合には、財産分与請求としてでなく、慰謝料請求を検討するとよいでしょう。

財産分与の請求可能期間

Q「財産分与はもめそうだから、先に離婚してしまって、あとでゆっくり財産分与の話をすることはできるの?」
A「慎重に検討を。結論を出す前に弁護士に相談することをお勧めします」

離婚の話し合いの中で財産分与についても取り決めをするのが通常です。ただし、事情により、離婚を先行させたほうがよい場合もあるかもしれません。これについては、財産分与を請求する立場か、請求される立場か、どのような分与対象財産があるのか、離婚事件についての見通し等さまざまな要素をもとに専門的な判断が求められます。

弁護士へ相談することをお勧めします。なお、1点、明確なことがあります。それは、法律により、財産分与請求権は、離婚後2年で消滅すると定められているということです。ですので、調停・審判は離婚時から2年以内に行う必要がありますし、離婚訴訟に附帯して財産分与の申立をする際もその期間制限の適用があります。

子どもに関する財産は分与の対象になるのか

Q「子どものための学資保険は財産分与の対象になるの?」
A「学資保険は財産分与の対象になります」

学資保険などの保険金請求権は財産分与の対象になります。評価額は、別居時の解約返戻金相当額となります。保険証書をもとに、保険会社に問い合わせをすれば、ある時点での解約返戻金額を回答してもらえます。

もっとも、学資保険は、夫婦が、子が小さいころから、将来必要な学費にあてるため、などの目的をもってこつこつ保険料を支払ってきたものです。

財産分与の際に解約して現金化する、というのではなく、引き続き、一方が保険料を払いながら、学資保険を維持し、将来的に子の学費に充当するということも多く、離婚時の話し合いにおいて、夫婦において、学資保険を分与の対象から外そうと合意することもあります。

子どもが、小さいころから、親戚からもらったお年玉を自分名義の口座に貯金していた場合、そのようなお金は、子の財産として、分与対象財産から外してよいといえるでしょう。

負債の財産分与

Q「婚姻期間中に、夫名義で借りた借金についても分与されて、妻が半分払わなければならなくなるの?」
A「債務のみがある場合なのか、ほかに婚姻中に形成された財産があるのかなどにより考え方は違ってくる可能性があります」

ここでは、負債の財産分与について考えます。負債が、夫婦共同生活の中で生じたものであるときには、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額を計算して、それを分割するのが通常です。

たとえば、プラスの財産が500万円あって、マイナスの財産が300万円ある場合は、その差である200万円を分割するということになります。では、婚姻中に形成されたプラスの財産がまったくなく、マイナスの財産のみがある場合には、マイナスの財産が半分にされ、妻は、負債の財産分与を受けることになるのでしょうか?

これについて、必ずしも一義的に決まっているわけではありませんが、マイナスの財産のみの財産分与は認められないという考え方があり、訴訟などにおいてもそのような運用がされることがあります。

まとめ

離婚時の財産分与に関しては、ここに取り上げた以外にも、「どの時点を基準に評価するのか」「不動産の財産分与について、不動産にローンがある場合はどのように分与されるのか」「財産分与の対象として、相互にどのような財産があるか開示しあったものの、相手が、すべての財産を開示せず、隠匿していると疑われる場合に、何かとれる方法はないか」など数多くの難しい問題があります。

それらに関しては、書籍、ネット情報などさまざまな解説がありますが、ひとつひとつの問題が非常に難しく、専門的な判断を要し、また、その対象となる金額も比較的高額となり、離婚後の生活に与える影響も少なからずあるといえるため、期間の制限があることも考えると、なるべく早い段階で、弁護士に相談し、的確な助言を得るのが有益でしょう。

執筆者プロフィール : 弁護士 高橋 麻理(たかはし まり)

第二東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて勤務。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援離婚問題に真摯に取り組んでいる。