遺産相続の際、相続人の中に行方不明者がいたらどう対応すればよいのでしょうか?
複数の相続人がいる場合には、基本的に全員が参加して「遺産分割協議」を行い、財産を分け合う必要があります。相続人が一人でも欠けると遺産分割協議は無効になってしまいます。行方不明者がいても、無視して他の相続人だけで遺産分割協議を進めることはできません。
今回は、相続人の中に行方不明者がいる場合に必要な「不在者財産管理人」について、詳しく解説していきます。
行方不明者を抜きにした遺産分割協議は無効
相続が発生したとき、相続人の中に一人くらいは行方不明、音信不通になっているケースがあるものです。そんなとき、行方不明の相続人を無視して他の相続人だけで遺産分割協議をしてもよいのでしょうか?
答えはNOです。法律上、遺産分割協議には「法定相続人が全員参加しなければならない」と決まっているからです。たとえ行方不明者であっても、欠けていたらその遺産分割協議は無効になります。かといって行方不明者を捜しても見つからなければ、いつまでも遺産分割協議を進められず相続手続きをできなくなってしまいます。
相続人が行方不明なら「不在者財産管理人」を選任する
相続人の中に行方不明者がいる場合には相続手続きをしないで放置するしかないのでしょうか?
そのようなことはありません。法律は、きちんとこういったケースでの救済手段をもうけています。相続人の中に行方不明者がいる場合には、「不在者財産管理人」という人を選任することにより、遺産分割協議を進めることが可能です。
「不在者財産管理人」とは、所在不明な人の代わりにその人の財産を管理する人です。
相続人が行方不明の場合、選任された不在者財産管理人に行方不明者の財産全体を管理してもらいます。財産管理の一環として相続した遺産の管理もできるので、不在者財産管理人に遺産分割協議に参加してもらうことにより、有効に遺産を分け合うことができるのです。
不在者財産管理人の選任方法
不在者財産管理人は「家庭裁判所」で申し立てをすることによって、裁判所に選任してもらう必要があります。不在者財産管理人の選任申し立ては、行方不明者が最後に居住していた住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
以下のような書類を用意して、不在者財産管理人の選任申立書を提出しましょう。
必要書類
自分で作成する必要があります。裁判所のサイトにある書式を利用しましょう。
●財産目録
行方不明者の所有する不動産や現金、預貯金、株式などについて「財産目録」を作成して提出します。遺産相続する予定がある場合、行方不明者の法定相続割合をもとにして、どの程度の遺産を相続する見込みか記載しておきましょう。
●不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍附票
不在者の本籍地の役所で取得します。
●財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
不在者財産管理人の「候補者」を立てる場合、その人の住民票や戸籍附票を取得して提出しましょう。住民票は居住地の役所、戸籍附票は本籍地の役所で取得できます。
●行方不明になっている事実を証明する資料
行方不明者の住民票の除票や最後にやり取りしたときの記録、申立人や他の親族による陳述書など、行方不明になっていることがわかる資料を用意しましょう。
●行方不明者の財産や利害関係に関する資料
行方不明者が遺産の相続人となっていることを示す資料が必要です。被相続人の戸籍謄本や行方不明者の戸籍謄本、相続関係説明図、相続財産目録などを用意して提出しましょう。遺産とは別に行方不明者本人の預貯金や不動産などの財産があれば、そういったものについての資料(不動産の全部事項証明書や預貯金通帳の写しなど)も提出します。
不在者財産管理人選任にかかる費用
・収入印紙800円
・連絡用の郵便切手
申し立てをすると、裁判所で提出資料の確認が行われ、不在者財産管理人が必要と判断されたら不在者財産管理人選任の審判が行われます。審判で不在者財産管理人が決まったら、その人を交えて遺産分割協議を進めていくことが可能です。
不在者財産管理人の候補者は誰にすべき?
不在者財産管理人の選任を申し立てる際には、「候補者」を立てることができます。基本的に誰を候補に立ててもかまいません。ただし他の相続人を不在者財産管理人にすると利害関係が対立して遺産分割協議を進められなくなるので、相続人以外の人を選びましょう。
相続人でなければ親族でかまいませんが、親族同士だとどうしても「仲が良い悪い」などがあるものです。特定の相続人に近しい親族が不在者財産管理人になると、肩入れされて公平に遺産分割協議を進めにくくなる可能性もあります。
適任者が見当たらない場合、弁護士や司法書士などの専門家を候補者に立てると良いでしょう。専門家が財産管理を行い遺産分割協議に参加するなら、公正中立な立場で手続きを進められるので、他の相続人も納得しやすくなるものです。
ただ、候補者について家庭裁判所が不適格と判断した場合は、家庭裁判所が弁護士・司法書士などの専門家を選任することになります。
失踪宣告を申し立てられるケースもある
ここまで相続人が行方不明の場合の対処方法として不在者財産管理人の選任についてご説明してきましたが、行方不明の期間が一定以上になっていたら、失踪宣告を申し立てられる可能性もあります。
失踪宣告とは
失踪宣告とは、人が一定期間を超えて行方不明となっている場合において、死亡したとみなす制度です。 行方不明の状態があまりに長く続いていると親族などの利害関係人にいろいろな不都合が起こるので、いったん死亡したとみなすことが認められています。 失踪宣告が認められると、本人は死亡したのと同じ扱いになるので、遺産相続が発生します。
失踪宣告が認められる要件は、以下の通りです。
●普通失踪
本人が7年以上の間行方不明になっていたら、家庭裁判所で申し立てをして失踪宣告を出してもらえます。
●特別失踪
本人が戦地で行方不明になった場合、遭難した場合や沈没船に乗っていた場合など死の危険が高い状態で行方不明となった場合、その危険が止んだときから1年が経過すると失踪宣告を出してもらえます。
失踪宣告が出た後の対処方法
失踪宣告が出たら、行方不明の相続人は死亡したのと同じになるので、その人についても相続が発生します。そこで、行方不明者の相続人を交えて遺産分割協議を進めていくことになります。
たとえば、3人の子どもが相続人となっており、次男が行方不明なので失踪宣告をした場合や、被相続人の後に次男が死亡したとみなされた場合には、次男の配偶者とその子ども(被相続人の孫)が遺産分割協議に参加して、長男や三男とともに遺産の分け方を決定します。
不在者財産管理人と失踪宣告の違い
不在者財産管理人を選任した場合には、本人は死亡したことになりません。財産管理人が代わりに財産を管理するだけです。専門家を選任すると費用が発生します。
一方失踪宣告の場合、本人が死亡したことになってしまいます。後に現れたら戸籍の訂正を行って再度生きている状態に戻すことができますが、いったん遺産相続などが発生してしまうので、トラブルや混乱が発生する可能性もあります。
相続人が行方不明の場合の手続きは、慣れない方には複雑でわかりにくいこともあります。迷われたら、一度法律の専門家である弁護士に相談してみてください。