いくら遺言書があるとはいえ、相続人なのにあまりに相続分を減らされると納得しがたいものです。そんなときには「遺留分」というものを請求できる可能性があります。
今回は、遺言書があっても主張できる「遺留分」とその請求方法について弁護士が解説します。
「遺留分」とは
「遺留分」はあまり聞き慣れない言葉かもしれません。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、最低限の遺産に対する権利です。
被相続人に近い法定相続人には遺留分が認められるので、遺留分を侵害する遺言書が残されていたら、相続人は受遺者(遺言によって多くの遺産を受け取る人)に対して遺留分に相当する金銭を請求できます。
例えば「兄にすべての財産を残す」という親の遺言があっても、弟や妹は遺留分の限度まで兄にお金を払ってくれるよう要求できます。
なお遺留分請求によって金銭請求できるようになるのは、相続発生日が2019年7月1日以降の相続からであり、それまでの遺留分は「遺産そのもの」の返還を求める権利です。この「民法改正」については後の項目で説明します。
遺留分請求の対象
遺留分請求の対象は「遺言」によって財産を取得した場合だけではありません。以下のような場合にも遺留分を請求できます。
■遺言
被相続人が遺言によって特定の相続人や第三者に多くの財産を残した場合です。
■死因贈与
被相続人と特定の相続人や第三者が「死因贈与契約」という契約を締結していたため、死亡と同時に贈与が行われた場合です。
■相続開始前1年以内に行われた生前贈与
被相続人の死亡前1年以内に行われた生前贈与は遺留分請求の対象です。
■遺留分権利者を害すると知って行われた生前贈与
相続開始前1年より古くても、遺留分権利者を害すると知りながら行われた生前贈与は遺留分請求の対象となります。
■特別受益に該当する、相続開始前10年以内の生前贈与
法定相続人に対して行われた「相続開始前10年以内」の生前贈与も遺留分請求の対象です。ただし「10年以内」に限定されるのは2019年7月1日以降の相続のケースであり、2019年6月30日までは10年の期間制限が適用されません。
遺留分が認められる相続人の範囲
遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められます。具体的には以下のような人です。
・夫、妻
・子ども、孫、ひ孫などの直系卑属
・親、祖父母、曾祖父母などの直系尊属
上記に対して、兄弟姉妹やその「代襲相続人(兄弟姉妹が被相続人より先に死亡していた場合の相続人)である「甥姪」には遺留分が認められません。
兄弟姉妹は被相続人から「遠い」相続人であり、最低限の遺産補償分である遺留分を認める必要がないと考えられているからです。
遺留分の割合
親が不公平な遺言を残していたとき、どのくらいの遺留分を請求できるのでしょうか? ここからは、遺留分の「割合」を見てみましょう。
遺留分の割合は「全体的な遺留分」と「その相続人の個別の遺留分」の2段階で計算します。
■全体的な遺留分(総体的遺留分)
全体的な遺留分(総体的遺留分)とは、「そのケースですべての法定相続人に認められる遺留分」です。その割合は以下の通りです。
親などの直系尊属のみが法定相続人のケース:3分の1
母親のみや、母親と父親のみが相続人となるケースなどです。
それ以外のケース:2分の1
母親と配偶者、配偶者と子ども、配偶者のみ、子どものみが法定相続人となるケースなどです。
■個別的な遺留分
個別的な遺留分は、上記で求めた「全体的な遺留分」にそれぞれの法定相続人の「法定相続分」をかけ算して求めます。
計算の具体例
「4人の子どもが相続人で、長男にすべての財産を相続させる遺言が残されていた。遺産の評価額は4,000万円。」
この場合、全体的な遺留分(総体的遺留分)割合は2分の1です。
子どもたちそれぞれの法定相続分は4分の1なので、弟や妹のそれぞれの遺留分割合は、2分の1×4分の1=8分の1となります。
そこで、弟や妹の遺留分侵害額は4,000万円×8分の1=500万円です。弟や妹は、長男に対してそれぞれ500万円ずつの遺留分請求ができるということになります。
遺留分の期間制限
遺留分を請求するときには「期間制限」があるので注意が必要です。
「相続開始と遺留分を侵害する遺言等の存在を知ってから1年」または「相続開始から10年」のいずれか早い方までに遺留分を請求しなければなりません。
遺留分請求の期間制限には「時効」と「除斥期間」があります。
遺留分請求の方法
遺留分請求の方法については、さまざまなケースが考えられます。
■遺留分請求の相手
遺留分請求の相手は、遺言や贈与によって財産を受け取った他の相続人や受遺者、受贈者です。
■口頭で話をすべき場合
相手との関係が良好で話ができそうなら、まずは口頭で遺留分侵害額を払ってもらえないか、話を持ちかけてみましょう。
■内容証明郵便で請求書を送るべき場合
一方、1年の時効が迫っている場合には内容証明郵便で請求書を送ります。そうでないと、相手から「時効が成立した」と主張されて遺留分を請求できなくなる可能性があります。
また、相手と話し合いができない場合にも内容証明郵便で遺留分侵害額請求書を送りましょう。
請求書の送付後、話し合いを行って合意したら「遺留分侵害についての合意書」を作成し、遺留分侵害額を払ってもらいます。
■遺留分調停を申し立てる
話し合っても合意できない場合には、家庭裁判所で「遺留分侵害額を求める調停」を申し立てます。調停では調停委員の関与により、話し合いによって遺留分侵害額の支払いについて解決を目指します。
■遺留分侵害請求訴訟を提起する
調停でも合意できなければ、地方裁判所で「遺留分侵害額請求訴訟」を申し立てて、裁判官に判決を出してもらう必要があります。
裁判では裁判官が遺留分侵害の有無や侵害額を判断し、侵害者に対して遺留分侵害額の支払命令を下します。
遺留分についての法改正
冒頭でも触れましたが、遺留分制度については2019年7月1日から改正法が施行されます。
これまでの遺留分は「遺産そのもの」を取り戻す権利でした。つまり、不動産や株式などの「もの」を返してもらう権利だったのです。それゆえに、遺留分を取り戻すと相手との「共有状態」になってしまうなど不都合がありました。
そこで法改正が行われ、遺留分は「金銭賠償を求める権利」に変わりました。今後は遺留分請求をしても「不動産」などの「遺産」を取り戻すことはできず、お金で清算してもらうことになります。
また、遺留分請求の対象となる「生前贈与」の範囲も変わります。これまでは「法定相続人に対する特別受益に該当する贈与」については無制限に遺留分請求の対象となっていました。
しかしそれでは何十年も昔の贈与が問題になるなど不都合があるので、遺留分請求の対象になるのは「相続開始前10年間に行われた生前贈与」に限定されました。
このように、2019年7月1日以降はそれまでと遺留分についての取扱いが変わっているので注意が必要です。もしもわからないことがあれば、弁護士に相談しながら対応を進めるのが良いでしょう。
執筆者プロフィール : 弁護士 松村 茉里(まつむら まり)
第二東京弁護士会所属。京都大学法学部卒業。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に相続分野を取り扱う。交渉・調停・遺言作成等幅広い相続案件に従事しており、セミナー活動・執筆活動も行っている。NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員、「家族で話すHAPPY相続」を執筆。事業承継スペシャリストの資格も有する。