離婚すると、元妻は「(実家の)旧姓」に戻ることができます。そのとき、子どもの姓がどうなるのかご存知でしょうか?
実は、母親が親権者になった場合でも、子どもの姓は元夫の名字のままです。子どもの姓を母親のものと揃えるには、裁判所における手続きが必要になります。
ただ、子どもを旧姓にすると学校で目立ってしまい、いじめなどが心配になる方もおられますよね。今回は、離婚後の子どもの名字について、知っておくと役に立つ知識を紹介します。
離婚後、母親が旧姓に戻った場合の子どもの名字について
前述の通り、離婚すると元妻は基本的に旧姓に戻ります。婚姻時の夫の姓を名乗り続けるためには、婚氏続称などの特別な手続きが必要です。
離婚時に妻が親権者となり旧姓に戻ったとしても、子どもの姓は変わりません。基本的に子どもの姓は、離婚後も婚姻時と同じになるからです。婚姻中に家族が夫の名字を名乗っていた場合、離婚後に母親が旧姓に戻すと「母親は実家の旧姓、子どもは元夫の姓」というように母子が別々の名字になってしまいます。
子どもの名字を母親と揃える方法
「自分が親権者になったのに子どもの名字は元夫と同じまま」といった状態には納得できないという方も多くいらっしゃるかもしれません。
この場合、子どもの姓も母親と同じ旧姓に揃えることが可能です。具体的には、家庭裁判所で「子の氏の変更許可申立」という手続きを利用する方法が挙げられます。子の氏の変更許可申立とは、裁判所の審判によって子どもの名字の変更を認めてもらうための手続きです。
申立ての際に「両親が離婚したので、親権者となった母親と同じ姓を名乗りたい」と説明すれば、通常は特に問題なく名字の変更を認めてもらえます。
子の氏の変更許可申立は、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所で行います。必要書類は以下の通りです。
・子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)
・父、母の戸籍謄本(全部事項証明書)
・申立書
これらを揃えて、収入印紙800円、連絡用の郵便切手と一緒に提出すれば、裁判所で審判があり、子どもの名字を変えてもらえます。
裁判所から「審判書」を受けとったら「審判の確定証明書」を申請取得して、一緒に役場に持参すれば、戸籍上の子どもの名字を書き換えてもらえますし、子どもを父親の戸籍から抜いて母親と同じ戸籍に入れてもらえるのです。
子どもの名字を変えることで起こりうる問題
ある日突然、子どもの名字が変わってしまうことで、学校などで問題が発生する可能性も考えられます。年度の途中でいきなり子どもの呼び名が変更されるといったことが起これば、子ども自身が他の子どもからどう見られるか気になってしまうこともあるかもしれません。
子どもの名字を変えるにあたっては、お子さんにもそのことを説明したり、お子さんと変更のタイミングを相談したりするなどして、お子さんの不安を少なくするための方法を考えた方がよいでしょう。
子どもの名字を母親と同じにしながら婚姻時の名字を名乗らせる方法
「子どもの名字が突然母親の旧姓に変わるのは周囲への影響が心配だけど、子どもと母親の名字や戸籍が異なるのは受け入れがたい」という方も多いでしょう。
このようなとき、子どもの名字や戸籍を母親と同じにしながらも、子どもに婚姻時の名字を引き続き名乗らせる方法が2つあります。
・母親が婚氏続称する
ひとつは、母親が「婚氏続称」する方法です。婚氏続称とは、婚姻によって戸籍上の名前が変わった当事者が、離婚後も婚姻時の姓を名乗り続けることです。
婚姻した際に名字を変更した側は、離婚した場合には旧姓へ戻すか婚姻時の姓を名乗り続ける(婚氏続称)かを選ばなければなりません。女性側が婚氏続称を選択するというケースで考えると、元妻と元夫の名字は同じですが戸籍は別々になるので、元妻の独立した戸籍を作ることになります。そして、子どもの戸籍は夫のところに入ったままです。
婚氏続称をしたいときには、離婚届から3カ月以内に「婚氏続称届」を役所に提出しましょう。3カ月を経過してしまったら役所では手続きができなくなるので、家庭裁判所で「氏の変更許可申立」を行う必要があります。
婚氏続称によって母親の姓を父親と同じに揃えたら、子どもと母親の名字も同じになりますし、子どもは学校でも婚姻時の姓を名乗り続けることができます。また、健康保険証や運転免許証などの公的証明書にも婚姻時の姓が記載されます。
ただし、この場合にも離婚後の子どもの戸籍は元夫のところにとどまるので、子どもを母親と同じ戸籍に揃えるには、家庭裁判所で別途「子の氏の変更許可の申立」が必要です。
・子どもに通称名を使わせる
もうひとつは、子どもに学校で「通称名」を使わせる方法です。
母親は婚氏続称をせずに旧姓に戻り、子どもについても子の氏の変更許可の申立をして母親の旧姓に揃えます。その上で、出欠時などの学校での「呼び名」だけを婚姻時の名字にしてもらうというものです 。
このようにして婚姻時の名字を「通称」として利用し続ければ、前述のような学校で起こりうる問題は防げるかもしれません。
ただしこの方法をとった場合、子どもの「本名」は母親の旧姓ですから、健康保険証やパスポートなどの公的書類には母親の実家の名字が印字されます。普段の生活では無関係かもしれませんが、例えば修学旅行で海外旅行に行く際などに、パスポートに記載されている名字と普段呼ばれている名字が違うといったことが起こります。
まとめ
離婚後の子どもの名字に関しては、まずどのような選択肢があるかの知識を持つことが重要です。その上で、子どもの名字を変えるのだとしたら、子どもにもそのことを説明し、タイミングを話し合ったり、子どもの不安を解消するためにどのような対策ができるかを考えたり、慎重に事を進めることが不可欠です。ご自身もお子様もご不安なく新しいスタートを切れるよう、学校とも連携するなど、周囲にも相談してみましょう。
執筆者プロフィール : 弁護士 高橋 麻理(たかはし まり)
第二東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて勤務。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援や離婚問題に真摯に取り組んでいる。