離婚する際に考えなければならない問題は、そもそも離婚するかどうかという「離婚自体の問題」と、「離婚条件の問題」とに大きく分けられます。離婚することに合意しても、離婚条件が整わないという場合も少なくありません。例えば、「相手方が5年後に退職することがわかっている」というケース。将来の退職金が財産分与の対象となるのか気になるところですよね。
そこで今回は、「将来の退職金も財産分与の対象になるのか」という点について、財産分与の基礎知識から、その計算方法までご説明します。
財産分与とは?
民法には、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と定められています(民法768条)。これを「財産分与請求権」と言います。
結婚している間に夫婦が協力して形成・維持した財産であれば、離婚の際に2人で分けて清算するのが公平であるという趣旨から、このような財産分与が認められています。
財産分与の対象となる財産の範囲は?
それでは、財産分与の対象となる夫婦の財産とは、具体的にどのような財産を含むのでしょうか。
■財産の判断基準は「実質的」に
まず、実質的に「結婚生活において夫婦で協力して形成・維持した財産」であれば、それは夫婦の財産であると言えます。ですから、形式的な名義などは関係がなく、夫婦の一方の名義の財産であっても分与の対象となります。例えば、預貯金や自宅などの不動産、有価証券や保険、年金などの財産もそれに該当します。
一方、結婚前から自分で貯めていた預貯金や、親からの相続によって得た財産である「特有財産」は、結婚時に夫婦で協力して形成・維持したものとは言えず、財産分与の対象とはなりません。もとは自身が持っていた財産ですから、結婚生活とは何ら関係がなく、相手方に分与する必要はありません。
■退職金は夫婦の財産と言える?
では、退職金は財産分与の対象となるのでしょうか。
退職金は、給与の後払い的な性格があり、結婚生活において夫婦が協力して得た財産に該当します。
なお、「退職金の計算方法」の項目で後述しますが、厳密には「結婚している期間に対応する部分の退職金」だけが夫婦の財産となるため、場合によっては全額となりません。
■将来の退職金は?
今回、冒頭で挙げたケースでは、5年後に退職が予定されています。しかし、離婚時には退職金が支給されていません。このようなケースにおいて、将来の退職金は財産分与の対象に含まれるのでしょうか。
まず、分与の対象となる財産の範囲を決定するタイミングは、一般的に「別居時」と解されています。別居していれば夫婦の協力関係がないと考えられるからです。とすれば、将来の退職金が支給される時には、既に離婚し別居していると想定されるため、協力関係がないとも言えそうです。
しかし、これまでの勤務年数や実績などを考慮して支給される退職金の性質からすれば、退職金は積み上げられた長年の勤務の結果だと言えますし、夫婦で形成したと判断できます。
つまり、結婚していた期間は退職金の形成に貢献しており、将来支払われるであろう退職金も対象になりうるのです。
財産分与における将来の退職金の計算方法は?
将来の退職金が財産分与の対象となる場合、どのような計算方法で財産分与の金額を算出するのでしょうか。
■前提として、財産分与の割合は1/2って本当?
まず、財産分与の基礎知識として、分割の割合は財産を形成・維持した貢献度で判断されます。当事者間の話し合いで決める場合は、両者が合意に至るのであれば、どのように分けるかを自由に決定できます。
合意に至らず、調停や裁判所の審判で決する場合には、財産分与の割合は一般的に1/2が多いとされています。実質的に両者の貢献度合いを測ることは困難であるため、一方が専業主婦(夫)であっても、1/2になると解されています。
■退職金の計算方法
いくつかの算定方法があり得ますが、今回は採用されることの多い算定方法をひとつご紹介します。その方法とは、「別居の時点で自己都合退職していたとしたらいくらの退職金を受給できるか」ということをベースに算定するものです。以下に具体例を挙げて紹介していきます。
例) 定年が60歳の会社で、5年後に退職予定。55歳の現時点での自己都合退職金は2,400万円と仮定。25歳から入社して働き、35歳で結婚、55歳で別居して離婚。
30年間働いたうち、結婚していた期間は35~55歳までの20年間となります。この結婚していた20年間は、会社勤務について「夫婦として貢献した」と考えられるのです。
「退職金÷働いた年数×結婚していた年数=財産分与の対象財産」という算定方法にそれぞれ数字を当てはめると、以下の金額が導かれます。
2,400万円÷30年×20年=1,600万円
つまり、現時点での退職金を仮定して計算した場合の「財産分与の対象となる将来の退職金」の金額は1,600万円となります。これを双方が1/2の取り分で分割するため、1人800万円となるわけです。
執筆者プロフィール : 弁護士 高橋 麻理(たかはし まり)
第二東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて勤務。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援や離婚問題に真摯に取り組んでいる。