今回から5回にわたって、20~30代の方に読んでいただきたい資産形成のアイデアを紹介していきます。ただ技術的なことではなく、考え方とか心構えみたいなものを重視したいと思っています。肩肘張らず、軽い気持ちで読んで、あとでなんとなくちょっとでも前向きになっていただければ幸いです。
金融資産1000万円以上の20代は意外に真面目
さて、資産形成というと「難しそうで何から始めていいのかわからない」という方は多いでしょう。まずは何も始めるつもりがなくてよくて、気楽に事実を理解してくだされば結構です。それも「えっ、そうなの」って程度の軽いものでいいんです。
2014年にフィデリティ退職・投資教育研究所が行った働く人3万人のアンケート調査で、6188人の20代の方が回答を寄せてくださいました。いくつか質問をしているのですが、そのなかに保有金融資産を聞く欄もあって、これに回答してくださった方の平均値は593万円でした。意外に多いのですが、実際には「わからない」と答えた人が39.3%もいますから、その方を0円としてみると、平均額は362万円に下がります。それでも多いでしょうか。
実はそれ以上に驚いたのが金融資産1000万円以上と回答した20代が454人もいたことです! 私の20代を振り返ってみると、給料日の1週間前くらいになると同期入社の友人に1万円借りて何とか生活をつなぐ自転車操業だったように思います。それと比べれば、いやはや驚きです。
そうした思いもあってか、1000万円以上の金融資産を持っている20代をちょっと見下げて「きっと親から遺産でももらったからじゃないのか」とか「何か一発当てて資産を創ったレアなケースではないか」と思ったのですが、少なくとも回答者20代の7.3%に上る人数ですから、この結果を偶然の産物のようにみることはできません。しかもこの454人のデータを分析してみると、さらに意外なことがわかりました。
例えば、公的年金を理解していると回答した人の比率は50%を超えています。もし、遺産や一発儲けで1000万円以上のお金ができたとすれば、「1000万円以上の資産を持ったことで急に公的年金への理解が進んだ」ということになります。しかし、それは考えられません。同じように退職後の生活に対する厳しい見方をするデータからも、「将来に対するしっかりした見方を持っている人ほど金融資産を創り上げているのではないか」と思われます。
親の力を借りよう
そうした若い世代のもうひとつの特徴はお金に関する情報を家族との会話によって得ているという事実です。ちょっと驚きましたが、「家族との会話」は20代全体では5.9%だったものが、1000万円以上の金融資産を持つ20代では9.7%とほぼ1割になります。
「えっ、お金のことを親に聞くのか? 」と躊躇されるかもしれませんが、アメリカでも同じような傾向があるのです。
「ミレニアルズ」という言葉を聞いたことはありますか。21世紀に18歳になった人たちで、18歳から35歳の人たちが該当します。米国では総人口の25%、労働者の35%を占める規模になっています。日本の18~35歳人口は総人口の19%に過ぎませんが、それでも注目される人たちです。事実、金融業界では、こうした若年層向けのメッセージが増えていますし、2017年にスタートした個人型確定拠出年金(iDeCo)や2018年にスタートする積立NISAもそうした層の資産形成をサポートする制度です。
米国では、この世代の41%が学生ローンを抱えています(米財務省2013年の調査)が、その一方で47%が老後の準備を始めている(米国フィデリティの調査)こともわかっています。また、この世代は不況の時代を生きたことからリスクを避ける傾向が強く、インターネットやオフラインのメディアの情報も多過ぎて信用しきれないようです。自分のライフステージにあった身の丈の提案を求め、いわゆる一般的なものは受け入れず、専門家の意見を欲している点も特徴のようです。さて、これはみなさんには当てはまりますか?
こうしたミレニアルズは「信頼できる」情報を求めていることから、米国フィデリティでは、信頼を寄せる情報元と想定する「親世代」を、資産形成のためのコミュニケーションの仲介役とする「ファミリー・シェアリング」というプログラムを始めました。米国フィデリティが用意した資産形成のためのコンテンツのなかから、家族や友人が自分の子どもや友人のために選び、それをメールで送ります。ミレニアルズにとっては自分の実情に沿ったコンテンツだけが選ばれ、送られてくるので、その情報への信頼度も高まるというわけです。
まあ金融機関側からの視点ではありますが、皆さんにも参考になるのではありませんか。もしあなた自身もミレニアルズの特徴が色濃いと思えるのであれば、人生経験のある親をうまく使って損はありません。特に親が資産形成をしている、確定拠出年金に加入しているといった方であれば、成功談と失敗談をともに聞いてみるのがいいと思います。
恵まれている時代
ところで親の世代に比べてみなさんの世代は経済環境の違いもあって、投資に対するイメージが相対的に明るいようです。しかも、iDeCoやNISAなど資産形成に関する税制面でのサポートがたくさん用意されていますので、みなさんの親の世代よりも恵まれていると思います。ちょっとだけ資産形成を考えてみてください。
執筆者プロフィール : 野尻 哲史(のじり さとし)
フィデリティ退職・投資教育研究所 所長
国内外の証券会社調査部を経て、2006年フィデリティ投信株式会社に入社、2007年より現職。アンケート調査をもとに個人投資家の資産運用に関するアドバイスや、投資教育に関する行動経済学の観点からの意見を多く発表している。日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。著書には、『老後難民』、『日本人の4割が老後準備資金0円』(講談社+α新書)や『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)などがある。調査分析などは専用のHP、資産運用NAVIを参照