35歳以上の結婚・出産が増えています。人生の持ち時間は長くなったけれど、生涯収入の手取りは減少傾向、社会の変化も激しい時代です。常識にとらわれ過ぎないお金との向き合い方を考えます。

年金生活の前に魔の5年間

前回、「公的年金はどれくらい頼りになるか」について書きました。正社員の共働きならそこそこ頼りになる、片方がパート、無職、自営業だと正社員夫婦よりは厳しい、どちらも自営業なら、公的年金に上乗せする自己資金の準備に相当の自助努力が必要だと説明しました。そして実は、公的年金を受け取ってのセカンドライフの前に、かなり厳しい5年間が存在するのです。

会社員だった人が受け取る公的年金の支給開始年齢=受け取り始める年齢は、60歳から65歳への引き上げが進められています。昭和16年(女性は昭和21年)4月1日以前に生まれた人は60歳から年金を受け取っていますが、それ以降に生まれた人は生年月日に応じて支給開始年齢が段階的に引き上げられ、昭和36年4月2日以降生まれの男性と、昭和41年4月2日以降生まれの女性は、65歳からの支給です。つまり、今年4月以降に54歳になる男性および49歳になる女性よりも年下の人は、65歳からの支給です。自営業や専業主婦は、もうだいぶ前から年金の支給は65歳からとなっています。現在のアラフォー世代は、老後の公的年金の受け取りは65歳からなのです。

一方、会社員の定年は何歳かというと、これまで60歳というのが一般的でした。しかしこれでは65歳の公的年金の支給開始までに空白期間が生じます。そこで、会社員の定年年齢を引き上げる、定年制を廃止する、60歳以降も継続雇用する、この3つのいずれかを導入するよう企業に義務付けられました。今後は65歳まで働くことが一般的になりそうです。アラフォー結婚にとって、これはメリットですね。40歳前後で子どもを持っても、65歳まで収入を確保できれば、(並行して老後資金まで貯められるかどうかは別として)、子どもの教育費についてはなんとか負担できそうです。ところが現実はそう甘くはないのです。

3つの選択肢の中でもっとも多く導入されているのが継続雇用で、60歳以降の継続雇用には「本人が希望すれば」という条件があります。アラフォー結婚なら収入の確保を目的にもちろん「希望する」と思いますが、継続雇用はされても、仕事の内容や給料は60歳までとは違うケースがほとんど。管理職だった人が現場の仕事に戻ったり、元後輩である年下の上司の下で働いたり、全く別の部署やグループ会社に配属されたりで、精神的な強さを求められる上に、収入も60歳時点よりもかなり下がるケースが一般的です。けれど「これじゃあ、やっていられない」と辞めてしまっては収入がなくなってしまいます。

40歳前後で結婚し、その後、子どもを持ったとすると、50代後半から60代前半は、もっとも教育費がかかる時期。それを負担しつつ、自分たち夫婦の老後資金を準備しなければなりませんが、60代前半に収入が低迷する可能性が高いわけです。

50代も要注意

また60歳の定年以前に、50代に入ると働き方に変更を求めてくる会社も多いのです。若手社員の育成、事業の効率化や再編などを目的に企業は人事異動を行います。40代までと50代以降は、その際の扱いが異なる企業がほとんど。収入も平均的には50歳前後で頭打ちになることを第3回で紹介しました。自分にどのような能力があり、勤務先でどのような役割を果たしているか、他の会社でも通用するかなど、働き手としての自分を客観的に見つめて、今後も働き続けるにはどうすればいいかを、考えておいた方がいいでしょう。

夫婦の年齢差と60歳以降の働き方を確認

また、前回の公的年金の試算は、ざっくりとした目安を出すことが目的でしたから、夫婦ともに同年齢を想定しました。

例えば、元会社員の夫婦なら、現在の平均受給額14万8000円×2人分=29万6000円。実際には、夫婦2人分の公的年金をもらえるのは夫婦ともに65歳になってからです。

給与や年金の受け取りがどうなるかをシミュレーションしてみましょう。

結婚時に夫43歳、妻40歳の正社員夫婦だとすると…

  • 夫60歳・妻57歳まで 夫婦ともに正社員としての給与

  • 夫60歳・妻57歳~ 夫は定年延長や継続雇用による給与、妻は正社員としての給与

  • 夫63歳・妻60歳~ 夫婦ともに定年延長や継続雇用による給与

  • 夫65歳・妻62歳~ 夫1人分の公的年金を受け取り、妻は定年延長や継続雇用による給与

  • 夫68歳・妻65歳~ 夫婦2人分の公的年金を受け取り

冒頭にかなり厳しい5年間が存在すると書きましたが、妻が3歳年下の場合、夫が60歳になってから、夫婦2人分の公的年金をもらうまでの期間は8年です。妻も夫と同等に稼げるなら妻の収入が支えになりますが、妻がパートや自営業だと、夫が60歳で定年した後は家計収入はかなり減ることになります。夫が継続雇用されず無職になってしまうと収入が激減して、かなり厳しい生活が予測されます。夫婦の年齢差と60歳以降の働き方で、60歳前後からの収入がどうなるかを考えておきたいもの。勤務先の定年制度、継続雇用制度についても確認しておきましょう。

夫婦ともに意識したいセカンドキャリア

最近は定年後に起業する人も増えて話題になっています。成功する人もいれば、うまくいかない人もいるようです。会社員として働き続けるにしても、別のことに挑戦するにしても、準備や戦略が必要です。40歳前後というのは、働き手としての前半戦が終わり、後半戦に向けた重要な折り返し地点といえます。

アラフォー結婚により、これまでとは違う生活が始まったことをよい機会として、これまでの人生を棚卸するとともに、これからの暮らし方、働き方、お金の使い方、貯め方をじっくり考えることを強くおススメします。40歳はまだ若く体力もあるので、60歳が遠く思えるものです。あと20年もあると。しかも、結婚、出産など嬉しいことが続けば、目の前の現実で頭がいっぱいになりがちです。もちろん今を楽しんでこその人生! その一方で、将来についても堅実にシミュレーションし、計画的に進んでいくことが、今の幸せな2人の生活を今後も守ることにつながるはずです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。