前回、完成したARCADE1UPを数回プレイしただけで「ジョイスティックのレバーとボタンの感触がどうもしっくりこない」と言って分解し始めた夫。今回から前後編で、プレイ感とサウンドの改善をお送りします。ちなみに、記事を書いている筆者は超が付く電子素人。そんな私でも理解できるよう、夫には詳しく説明しながら改造してもらいました。
いきなり独自規格に改造を阻まれる
最初に手をつけるのはジョイスティックとボタンまわり。まずコントローラーのユニットを取り外します。ジョイスティック部分のパーツを外して裏をみると、濃いグレーの箱が出てきます。このプラスチックカバーを外すと、ユニット内にはジョイスティックとボタン類、スピーカーが配置されていました。
夫いわく「コントローラー部分のカスタイマイズは、ジョイスティックとボタンを自分好みのものに交換するのが基本」らしい。本来なら、パーツ交換するだけの簡単な改造……になるはずが、問題は改造したいのがARCADE1UPということ。
ARCADE1UPは、米国で企画商品化された製品のため、使われているパーツは基本的に米国で使われている規格に準じています。また、オリジナル筐体の4分の3サイズを実現するために、ジョイスティックもボタンも市販品ではなく独自のもの。日本で売られているアーケードゲーム機用のパーツより一回り小さく、4分の3サイズ筐体用の特殊なパーツが使われているということなのです。
具体的には、ジョイスティックは取り付け穴の位置が独自です。4カ所留めをする日本製ジョイスティックの場合、85mm×40mmもしくは80mm×40mmサイズがほとんど。一方、ARCADE1UPは77mm×40mmと微妙にネジ穴の位置が合いません。
ボタンも、日本では取り付け穴が30mmサイズのものが標準なのに対して、ARCADE1UPは取り付け穴が28mmサイズのハメ込み式ボタン。このサイズのボタンは日本ではあまり売っておらず、交換パーツの選択肢が多くありません。
そんなわけで、夫のいう「ジョイスティックとボタンをそのまま交換」については、とりあえず保留。次の改造を試すことに。
マイクロスイッチを交換して操作感をアップ
さて、いきなり規格の壁にぶちあたった夫ですが、そんな夫がプランBとして出したのは「マイクロスイッチの交換」です。私はそもそも「マイクロスイッチ」というもの自体を知らなかったのですが、ここでいうマイクロスイッチは、ジョイスティックのレバーやボタンの入力検知に使われている部品。正直、言葉で説明されてもわからなかったので、実際に本物が動く様子をARCADE1UPで見せてもらいました。
動画を見るとわかるように、ジョイススティックが動くと、左右にある銀のスイッチが押されます。これで「ジョイスティックを右、あるいは左に動かした」ことを判定しているんですね、意外と単純な仕組みでびっくり。ちなみに、ギャラガは自機が左右の2方向にしか動かないので、ジョイスティックに装着されているマイクロスイッチは左右の2つしかありません。4方向や8方向に動かすゲームなら、加えて上下にもマイクロスイッチが付くことになります。
夫いわく、パソコンなどでは「キーボードの打鍵感」などが取り上げられますが、ジョイスティックとボタンもマイクロスイッチしだいで操作感が大きく変わる(はず)とのこと。ただし、ARCADE1UPではジョイスティックやボタンの大きさが標準サイズではないように、マイクロスイッチも標準サイズではありませんでした。
一般的な28mmボタンやジョイスティックには、奥行き約10.3mmのマイクロスイッチが使われています。しかし、ARCADE1UPのジョイスティックやボタンは、奥行き約6.4mmの「S型(超小型)」とよばれるマイクロスイッチです。
ここまで判明したので、まずはS型で同等の定格を持つマイクロスイッチを(夫が)探します。ネットを調べてみると、オムロンの超小型基本(サブミニチュアベーシック)スイッチ「SS」シリーズが該当することがわかりました。
さて、マイクロスイッチには、操作に必要な力(この力で押せばスイッチが入る)がN(ニュートン)値で定められており、用途によってさまざまなN値の製品があります。N値が小さければ入力感(レバーやボタンに内蔵されているバネを押すのに必要な力)は軽く、大きければ重くなります。
スイッチを押すアクチュエータの構造も、押しボタン型、ヒンジレバー型、ヒンジレバーR型、ヒンジレバーロール型など、使う用途によっていろいろな種類があります。つまり、マイクロスイッチを交換することで、ボタンやレバーの押し感を変えることができるのです。夫がいうには、N値が1以上ある大きな数値のスイッチはジョイスティックレバーの動作検知などに使われ、ボタンにはN値が1未満のスイッチが使われることが多いらしいです。
このN値は、海外製のマイクロスイッチだと「Operating Force」という項目と「gf」単位で表記されます(1N≒102g)。しかし、海外の製品においてこの数値が公開されているものは多くなく、結局は自分の持っているマイクロスイッチと押し比べて、これと同じぐらいかなぁと推測することが多いそうです。ゲーム改造というのは初心者に優しくない世界ですね……(なんでもそうだとは思いますが)。
ちなみに、夫が購入したマイクロスイッチ(オムロン製)は4種類。以下が、用意したマイクロスイッチと、夫が使用したときの感想です。
■SS-5GL(N値:1.47N)
ジョイスティック用。ARCADE1UPにもともと付いているパーツとの違いは、音以外ほぼわからず。レバーの入りがよりわかりやすくなった気はする? という程度。
■SS-5GL(N値:04.9N)
ボタン用。デフォルトパーツよりも軽く、確実にスイッチが入る感覚。ボタンはこれがベストだと感じる。
■SS-5GL13(N値:0.49N)
ボタン用。抵抗値は同じながらヒンジレバーがR型。理屈的には、ボタンがより浅いところで反応するようになるはず。実際の使用感では反応の深さは変わらず、より軽い操作感になった。
■SS-5GLF(N値:0.16N)
ボタン用。一番軽いスイッチ。明らかに押す力が少なくてすむ。けれど、ファイア(ミサイル発射)してる感も小さくなった感じ。
オムロン製のマイクロスイッチへ交換するメリットは、操作感に加えて耐久性にもあります。マイクロスイッチで寿命の目安を示す電気的耐久性は、オムロンのSS-5シリーズは20万回以上。一般的なマイクロスイッチの電気的耐久性は10万回以上が多いので、約2倍の寿命を期待できるはずです。
と、長くなったので今回はここまで。次回は実際にマイクロスイッチを交換して、さらに迫力あるサウンド環境を整える作業に入りたいと思います。余談ですが、以下はアーケードゲームの改造用パーツについて質問したところ、夫から説明されたアーケードゲーム用パーツの変遷。ちょっと長いですが、興味がある人はトリビアとしてどうぞ(ARCADE1UPの改造とはまったく関係ありません)。
誰かのためのゲームトリビア:その1
俺の時代(いつだよ!と聞いたら1980年代後半だって)はゲームセンターのジョイスティックといえばセイミツ工業製が標準だったんだよ。1990年代に入ってゲームセンターの主役がシューティングから格闘ゲームへと移っていった時代、セガのバーチャファイター(1993)に三和電子製のレバーが採用されたんだ。これがバーチャファイター2(1994)にも継承され、その大ヒットとともにシェアを伸ばしていったんだね。
そしてだんだんと、シューティングはセイミツ工業、格闘は三和電子というような形で認識されることが多くなっていったんだ。いまのゲームセンターでは三和電子製のジョイスティックが主流。でもバーチャファイターの前に大ヒットしたカプコンのストリートファイター2(1991)や、バーチャファイター2の向こうを張る人気だったSNKのキング・オブ・ファイターズ’94(1994)などでもセイミツ工業製のジョイスティックが使われていたので、一概にシューティングがセイミツ工業で格闘が三和電子と言えるわけでもないんだよ。
まぁ人の好き好きこだわりといったところだね。ちなみに、レバーに使われるマイクロスイッチも、セイミツ工業はパナソニックがメイン、三和電子はオムロンがメインと分かれていて、特徴のひとつになっているんだ。でも、セイミツ工業のジョイスティックに使用されていたパナソニック製のマイクロスイッチは2015年に生産を終了していて、現行品のLS-32シリーズはまだパナソニック製のマイクロスイッチを搭載しているけど、在庫限りと言われている。将来はセイミツ工業も三和電子もオムロン製マイクロスイッチを搭載することになるね。
ギャラクシアン(1979)やギャラガ(1981)はシューティングだけど、セイミツ工業は1981年、三和電子は1982年の創業なので今回はこだわらず入手しやすいオムロンにしたんだよ……
ARCADE1UPは改造によって保証がなくなります。改造は自己責任において行ってください。
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