多くの人に触ってもらうことを重視した売り場作り
大阪・千日前の「ビックカメラなんば店」は、いまや、なんばの街にすっかりと定着している。心斎橋から千日前を抜けて、なんばに至るまでの人通りが多い場所で、ビックカメラの看板は自然と目に入る。
2001年5月のオープン時には、関東地区のカメラ量販店の進出が、大阪の顧客にどう受けられるのかにも注目が集まったが、終日、店内に人が途切れることがない様子は、大阪におけるビックカメラの存在感を証明するものといえよう。
アップル製品に関しても、開店当初から重点商品として品揃えを強化。2005年に、近隣にアップル直営のアップルストア心斎橋がオープンしても、むしろ売り場面積を拡張し、ビックカメラならではの品揃えを進めてきた。
現在、4階のMac売り場に、iMacやMacBook Proなどの製品群のほか、iPodシリーズ、Mac用周辺機器を展示。さらに、1階にはiPod専用コーナーを設置して、なんば店を訪れるユーザーが気軽にiPodおよびそのアクセサリーを手に入れられる環境を作っている。さらに、3階のオーディオ売り場でもiPodの展示販売を行っており、iPodを例に取れば、6フロア中、1階、3階、4階の3フロアで手にすることができるという力の入れ方だ。
売れ行きに合わせ、売り場を1.2倍規模に拡張
ビックカメラなんば店の4階のMac売り場に足を運んでみた。
4階のパソコンフロアは、床が全体的に白で統一されているのだが、Mac売り場だけ木目調となっているのが特徴だ。つまり、違う色の床を探して歩けば、Mac売り場にたどり着く。場所は、エスカレータをあがって左側の壁際だ。Windowsパソコン売り場と隣接し、さらにVAIOの専用カウンターと横並びの場所にある。展示用の島を3つ用意しており、さらに、今年4月には、Windowsパソコン売り場を「浸食」する形で、Mac売り場を拡張。売り場スペースを1.2倍に拡張したという。
ビックカメラなんば店 4階Mac売り場担当の堀場彬宏氏は、「昨年からMacの売れ行きが上向いている。対前年比で1.2倍~1.3倍の売れ行きとなっている。それにあわせて、売り場も1.2倍規模に拡張した」と話す。
好調な要因はいくつかある。
ひとつ目が既存のWindowsユーザーの購入だ。「具体的なデータがあるわけではないが、感覚的には、Mac購入者の約3割が、Windowsからのスイッチではないだろうか」と、堀場氏は語る。
同店では、売り場の前面のスペースを使って、BootCampによって、Mac OS X上でWindowsを動作させられることを大々的にアピール。POPでは、Mac上でWindowsを動作させるための手順を大きく表示。さらに、実際に画面上にWindowsを表示して、その使い勝手を体験してもらうといったことも行っている。「Windowsからの移行は、そのままMacの販売増につながっているのは明らか」と断言する。
2つ目は、デジカメの活用提案の訴求効果だ。「売り場を訪れるユーザーの中で、ネット利用とともに多いのが、デジカメで撮影した画像の保存、編集などに対する要望。これらの操作が、Macでは簡便に行えることを紹介している」
売り場では、iMac上でiPhotoを動作させ、大画面に数多くの写真を見やすく表示し、しかも編集作業などを実演できるようにしている。使用している写真データは、堀場氏をはじめとするスタッフの社員旅行の写真をそのまま使用。より臨場感が伝わりやすい形でデモストレーションを行うようにしている。土日にMac売り場で開かれる簡易セミナーなども、メーカーなどが用意した素材ではなく、こうした生のデータを活用することで、顧客と同じ目線で操作できる内容としているのが特徴だ。
「これまでMacを使ったことがない人にとって、Macは難しいのではないかという先入観がある。だが、実際にiPhotoで写真を管理すると、Macは難しいものではないことがわかる。iPhotoというわかりやすいソフトを体験してもらうことで、Macの良さを理解していただいている」というわけだ。
実は、触ってもらうというのはビックカメラなんば店においては、最大のキーワードである。そのために展示台にも約20台のiMacやMacBook/MacBook Proシリーズを展示し、それらでは各種アプリケーションのデモや、インターネット接続などを体験できる。
約20台というハード本体の展示台数は、なんば店に比べて約2倍のMac売り場面積を持つビックカメラ新宿西口店と、ほぼ同じ規模だ。展示台にはMac本体以外は設置しないようにしているのも、お洒落にみせる工夫とともに、狭いスペースでも多くの人にMacを体験してもらうように配慮したものだ。
周辺機器の取り扱いにも力を注ぐ
一方、周辺機器の取り扱いにも力を注いでいる。壁面を利用して、Mac純正アクセサリーやサードパーティーの周辺機器を展示。少ないスペースを利用して、効率的な展示を心がけている。
特に、最近のiMacでは、標準搭載されているキーボードにテンキーがないことから、テンキーがほしいというユーザーに対応するためにテンキー付き純正キーボードの在庫を増やし、さらに、多くのMacユーザーが関心を寄せるAirMacの在庫も切らさないようにしている。また、バックは種類を限定しながらも、カラーバリエーションの展示を優先。ユーザーの嗜好にあわせて選択できるようにした。これも、狭い展示スペースで、多くの顧客に応えるための工夫だ。それ以外のバックを検討したい人には、Windowsパソコンと共通のアクセサリーコーナーに誘導して、選んでもらえるようにしている。
さらに、隣接する場所にはタブレットの展示コーナーを配置。Macと連動した使い方が多いタブレットとのセット販売をしやすい環境を作っている。
そして、スタッフは、アップルが認定するセールスプロフェッショナルが3人、プロダクトプロフェッショナルが1人という陣容となっており、アップルの専門知識を有する販売員が対応する体制としているのも特徴といえよう。
今年4月の売り場拡張では、Windowsパソコン売り場に浸食する格好となっているが、これは、WindowsとMacを比較するという観点からも、効果を発揮しやすい。「WindowsユーザーがMacを検討するケースが増えているだけに、横並びで展示している効果は大きい」。
さらに、拡張したスペースには、取材時点(6月下旬)には、MacBookシリーズの製品入れ替え時期だったこともあり、旧MacBookシリーズを展示していた。価格にシビアな顧客が多いのは関西の傾向。そうした顧客に対して、訴求する売り場づくりのひとつだともいえよう。
現在、同店では、iPodを様々な売り場で展開しているが、「Mac本体も同様に複数の売り場に展開したい」と堀場氏は語る。たとえば、Macが得意とする画像編集機能を生かして、ビデオカメラ売り場などにMacを展示するといった仕掛けだ。現時点では具体的なプランがあるわけではないが、Macを説明できるスタッフを確保できれば、早い段階でこうした取り組みも可能になるかもしれない。
ここでも、実際に触ってもらうことでメリットを訴求するという姿勢は変わらないといえそうだ。