同じApple製品だから、iPhoneの常識はMacにも通用するのでは……それは「半分正解で半分誤解」です。春のMacデビューを狙うiPhoneユーザのあなたに向けて、3回にわたり「Macに通用する/しないiPhoneの常識」を解説してみます。
MacとiPhone、似ているけれど……
iPhoneのシステム「iOS」は、Macのシステム「OS X」をモバイル機器向けに機能を絞り込む形で造り出されました。当然、タッチパネルや携帯電話としての機能などOS Xにない部分は新たに開発されたものですが、映像/音声のマルチメディア関連機能、ファイルサーバなどネットワーク関連機能、各種記憶装置/周辺機器を制御する機能など、iPhoneでは必要性が低い機能は外されています。
OS Xはシステムの基礎部分の大半が「オープンソースソフトウェア」によって構成されており、iOSもその構成を引き継いでいます。つまり、iPhoneはApple以外の企業・人物により開発されたソフトウェアに下支えされているのです。その証拠は、こちらのWEBサイトで確認できます。オープンソースソフトウェアという公共財で構成される土台部分は共有しつつ、Appleが開発した「建物部分」はそれぞれのハードウェアや用途にあわせて取捨選択したシステムがOS XでありiOSなのです。
その「建物部分」が、OS XとiOSの違いです。OS XにはあるけれどiOSにはない機能、反対にiOSにはあるけれどOS Xにはない機能もありますが、土台部分が共通のため相互に技術を融通しやすくなっています。それが開発を速める効果を生み出し、MacとiOSの競争力につながっています。
MacのココがiPhoneと違う!
1. いつ・どこでも通信できるとはかぎらない
Macにはモバイル回線用の通信モジュールが搭載されていません。そのため、インターネットへの接続はもちろん、iPhoneなど周囲にあるネットワーク対応機機と(LANで)やり取りする場合には、Wi-Fiまたは有線LAN(Ethernet)の設備が必須となります。いつ/どこでもインターネットに接続できるようにするためには、iPhoneなどテザリングが可能なスマートフォン、またはWi-Fiルータを用意しなければなりません。
2. 作業の対象は「ファイル」で保存
Macでは、アプリで作業した内容を「ファイル」として内蔵ディスクに保存することが基本です。ファイルはアプリから独立した存在ですから、Aアプリで作成したファイルでもBやCのアプリで開くことは可能です(アプリの対応次第)。
たとえば、Excelで作成したスプレッドシートは、Numbers(Appleが販売する表計算アプリ)で編集できるほか、Excelのファイル方式をサポートしてさえいれば、他のアプリでも開いたり変更をくわえたりすることができます。iOSでは、作成した文書や画像などのデータは原則として同じアプリでなければ開けませんが、OS Xでは仕様非公開のファイル形式を使うアプリでもないかぎり、作成元アプリに縛られることはありません。
3. 複数ユーザで1台のMacを共有できる
Macでは複数のユーザを登録しておき、必要に応じて切り替えることであたかも独立したコンピュータのように利用できる「マルチユーザ環境」が前提です。ユーザIDとパスワードを入力して利用開始処理(ログイン)を、アプリを使うなどの作業を終えたあとは利用終了処理(ログアウト)を行うことで、ユーザ環境を切り替えます。
ユーザ環境はパスワードで保護されているため、プライベートな情報も安全に扱えます。たとえば、自分と家族をユーザ登録しておき、使い始めと使い終わりにログイン/ログアウト処理を習慣づけると、メールやSNSなど家族に見られたくない情報も1台のMacで共有することができます。
4. 「デスクトップ」が操作の出発点
Macにおける「デスクトップ」は、ウインドウを並べて表示する画面全体であるとともに、"とりあえずのファイル置き場"としての性格をあわせ持ちます。iPhoneにもアプリアイコンやDockが並んだ「ホーム画面」がありますが、データの保管場所としての機能はありません。Macの場合デスクトップとは、作業台であり保存場所なのです。
なお、デスクトップは画面全体に表示される特殊なフォルダです。登録ユーザごとに割り当てられるため、ログイン/ログアウトしてユーザを切り替えれば、家族など他のユーザにデスクトップを見られることはありません。
5. 「完全なマルチタスク」の世界
複数のアプリを並行して起動しておき、必要に応じて切り替える動作を「マルチタスク」と呼びます。オペレーションシステムのレベルで実現される機能で、iOSでもサポートされていますが、消費電力節約のため大半のアプリは非表示状態になると動作を停止してしまいます。
一方、Macにそのような制約はありません。基本的にすべてのアプリは同時に起動でき、表示されていない状態/他のアプリに隠された状態であっても、命令は背後で継続処理されています。動画の変換処理をiMovieで進めつつNumbersで作表する、といった作業はわけもないことです。
6. 「ゴミ箱」がある
Macには「ゴミ箱」という概念があります。Dockの右端にアイコンとして存在し、不要なファイルをドラッグ&ドロップして移動すると"捨てた"ことになり、散らかったフォルダやデスクトップを整理整頓できます。ゴミ箱を空にする処理を行わないかぎり実際にディスク上から消滅することはないため、いつでもゴミ箱から取り出して復元できます。その意味では「削除」とはいえず「移動」で、特殊なフォルダであるといえます。
iOSのアプリにも「ゴミ箱」が用意されていることがありますが、そのアプリ限定のゴミ箱です。OS Xにおいてファイルはアプリから独立した存在であり、「ゴミ箱」にはどのアプリで作成されたかとは無関係に、ありとあらゆるファイルを入れておくことができます。