上司や先輩も人間です。こまめに報連相をしてくる人間や、「状況が把握できている人」はかわいく思えるものです。だから、あなたがビジネスで成長したいなら、世界No.1レベルの" 報連相の達人"を目指してください。

部下や後輩を持つとわかりますが、上司や先輩の立場からは、驚くほど部下や後輩の仕事ぶりは見えません。リモートワークならばなおさらです。上司や先輩は「大丈夫かな?」「つまずいていないかな?」などと頭の中は不安で一杯です。だからこそ、こまめな報連相が必要なのです。

今や大半の企業でチャットツールが導入されているでしょう。プロジェクトのスレッドやDM で「今日の進捗報告(返信不要です)」として、カジュアルでも良いので頻繁に報連相をしましょう。

  • 報連相の達人になるには?

人を動かすには、相手の頭と胸と腹を狙い撃て

友だちとの雑談と違って、ビジネス上のコミュニケーションには必ず「目的」があります。

ビジネス上のコミュニケーションのゴールは、自分の思い描いていることや考えていることを、いかに正確に、そして高い解像度で相手に伝え、そのうえで相手が自律的に行動を起こしてくれることです。

ちなみに、当たり前ですが、「伝えた」のに「伝わっていない」のは、ほとんどの場合、伝え手側に責任があります。

たまに「相手に聞く気がない」「相手の頭が悪い」と相手をバカにする人もいますが、いずれにせよ「伝わっていない」「動いてくれない」のだから、どんなに自己正当化をしても結果は何も変わりません。伝え手側の負けです。

わかるの5段階

僕が「わかるの5段階」と呼んでいるものがあります。例えば、事業が絶好調で、100人の会社に毎月10人の新入社員が入ってくるとしましょう。

次から次へと新しい社員が入って来るため、昔からいた社員たちはただでさえ忙しい自分の仕事をこなしながら、新人の受け入れや教育でてんてこ舞いの状況です。そんなときに社長が、こう言ったとします。

社長: 「さらなる事業拡大のため、来月から新入社員を毎月10人ずつ増やす。受け入れを頼むぞ!」
社員:「はい」(と返すものの……)
・社長の言葉はわかる
・話の意味もわかる
・忙しいから人を増やすということも理解はできる
・でも現場はそんな簡単には回らねえんだよ!(納得できない)
・勝手にやってろ!(自律的に動かない)

当然、社員は「はい」と返事するものの、納得はできません。「理解」と「納得」は違います。いくら話を「頭で理解」してもらえたとしても、「腹の底から納得」していなければ相手は動きません。

たとえ動いたとしても、それは義務や責任感によってのものであり、情熱を持って取り組む仕事にはなり得ないでしょう。

では、理解から納得に移すためにはどうしたらいいのでしょうか。それは、伝えたい話の前後、つまり、「(前)その話の背景」と、「(後)それが達成されたときの状態」でしっかりサンドイッチしてあげることです。

例えば「さらなる事業拡大のため、来月から新入社員を毎月10人ずつ増やすぞ!」の前後にこういった話をつけます。

(前)「昨年行われた政府の規制緩和によって市場が前年対比3倍にふくれ上がっている。これは創業時に予想していたことで、今がまさにチャンスのときだ!」
(中)「さらなる事業拡大のため、来月から新入社員を毎月10人ずつ増やすぞ!」
(後)「わが社の顧客満足度は90%を超えている。われわれのビジネスが拡大することが顧客や社会の幸福につながるんだ。みんな力を貸してくれ!」

どうでしょうか? だいぶ印象が違うのではないでしょうか。しかし、これだけではまだ不十分です。なぜなら、僕たち人間は、感情を持つ社会的動物だからです。

胸(心)の感情フィルターを越えろ

人は、「良いか悪いか」の認知的態度と、「好きか嫌いか」の感情的態度で物事を決めます。

ビジネスのコミュニケーションだからといって、すべてが合理的に判断されるかと言ったら……そんなことありませんよね。ビジネスは「合理的に行う」というイメージがありますが、結局仕事をしているのは生身の人間ですから、「好きか嫌いか」(感情的態度)で多くのことが動いている気がします。

なのに、先ほど紹介した「わかるの5段階」には肝心の感情的態度が要素として入っていません。ですから、きっとこうなります。

社員:「ケッ! きれいごとばかり並べやがって。都合がいいときだけ力を貸してくれだと? 俺、あいつ(社長)大ッ嫌い!」

うん、成立していませんね(笑)。では、どうしたら良いのでしょうか。

頭で理解してもらった話を、腹に落として納得してもらうためには、頭と腹の間にある胸(心)の感情フィルターを通過する必要があります。その胸(心)のフィルターこそ、感情的態度、つまり好きか嫌いか(好意を持つか敵意を持つか、好感を持たれるか反感を買うか)なのです。

ビジネス上のコミュニケーションとは、相手の頭からアプローチして、胸(心)のフィルター(好きか嫌いか)を通過してキッチリ腹に落として納得してもらうことがゴールとなります。上から下へ。論理とハートです。

丁寧に頭から攻めて、胸の感情フィルターに引っかかることなく、腹に落とすコミュニケーションを心がけましょう。論理だけではダメ、好かれるだけでもダメなのです。

リモートワークだからこそ可能な限り明確な指示を

対面であれば多少雑な指示でも伝え方でごまかすことができます。でも、リモートワークになると、対面でのコミュニケーションよりも伝達効率が落ちるので、よりいっそう気をつけて指示を出してあげる必要があります。

もし、あなたが普段、指示を出される側であれば、遠慮している場合ではありません。「このまま作業を進めるのは危険だな」と感じたら、躊躇なく「すみません、ちょっとよくわかりませんでした」「もうちょっと細かい指示出しが欲しいです」と伝えましょう。

ただし「もっと細かく」「詳細な指示を!」と「ちょうだい」ばかりしていると、上司や先輩から「こいつ、面倒くさいな」という烙印を押されてしまうリスクがありますので、「私は○○という理解をしましたが、間違いないですか?」と自らアウトプットイメージをすり合わせにいく積極性を持ちましょう。

伝達効率を最大化させるためのコツは、伝達の過程で情報が劣化していることを前提として、双方がすり合わせる努力をいとわないことです。

著者プロフィール:池田紀行(いけだ・のりゆき)

株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長。300社を超える大手企業の広告宣伝・PR・マーケティング部に対するデジタルマーケティングやソーシャルメディアマーケティングの支援実績を持つ。『自分を育てる「働き方」ノート』(WAVE出版)など著書多数。