Androidには、モバイルネットワーク接続を使って、他のデバイスにインターネット接続を提供する「ポータブルアクセスポイント」、俗に言うテザリング機能があります。パソコンやタブレットなど、他の機器を使うとき、このポータブルアクセスポイント機能を使えば、他のデバイスにインターネット接続を提供できます。
また、世の中には、「モバイルルータ」と呼ばれる機器もあり、これを使えば、同じように無線LANを持つ他の機能にインターネット接続を利用できます。
いったい、どちらが便利なんでしょうか? そして、このポータブルアクセスポイントを使うときには、どう使えば便利なんでしょうか?
とりあえず速度を測ってみた
まずは、気になるのは外部の機器で使ったときの通信速度です。モバイルルーターもAndroidのポータブルアクセスポイントも機能は同じですが、片や専用のデバイス、もう一方は、他のアプリも動作するスマートフォンやタブレットです。同じ通信を行うときに、通信速度で差があるのでしょうか? 簡単なベンチマークを取ってみました。テストに使ってみたのは、以下の3つのLTE対応機器です。
- Nexus 5
- Nexus 7(2013) LTEモデル
- Net Index NI-760S(製造はSierra Wireless社)
テストは筆者宅で行いましたが、筆者宅は、ドコモのLTEのサービスエリアの端にあり、電波の入りはあまりよくありません。室内では場所によってLTEにつながらない場合もあります。その意味では、比較的条件が悪い場合のテストであり、条件が良い場合には、結果が違ってくることも考えられます。
テスト条件を同じにするため、1つのSIMを入れ替えてテストを行いました。速度の測定は、無線LANで接続したPCで行い、ネットワークスピードのベンチマークサイトを使って測定を行いました。このとき、テスト先のサーバーが同一になるようにしています。
テストした感じでは、上記のどれも大きな差があるとはいえず、通信速度という点では、違いはなさそうです(表01)。もちろん、それぞれLTEや3Gのモデムデバイスやアンテナなどが違うため、同じ場所でも受信感度の違いなどはあるでしょう。しかし、電波の通信状態は刻々と変化するものなので、あるとき速かったからといって、いつでも速いわけではありません。こうしたばらつきがあることを考えると、どれも、ばらつきの範囲内といえ、特にどれが高速だともいえないようです。
表1 |
では、同じデバイスでテザリングした相手と、ポータブルアクセスポイントを動かしているAndroidデバイスでは、通信速度に差があるのでしょうか? Nexus 5で無線LANを使ったポータブルアクセスポイントを動かし、テザリング先のPCと、Nexus 5の両方で通信速度を測ってみました(表02)。これも大きな差はありません。つまり、Androidスマートフォンである程度の通信速度が出るようなら、接続したPCなどでも同程度の速度でインターネットにつながるようです。
表2 |
ここからわかることは、少なくとも、スマートフォン、タブレット、モバイルルーターのどれを使っても、通信速度的に不利になるものはないということです。つまり、どれを選ぶかは、通信速度以外の部分で決めてしまってよいといえます。
どれがいいのか?
では、Androidスマートフォン、タブレット、モバイルルーターの3つのそれぞれのメリットデメリットを考えてみることにしましょう。先ほど速度を測定した各デバイスのサイズなどを表にまとめたのが表03です。
表3 |
スマートフォンのメリットは、小型で持ち歩きに便利で、いわゆる電話機も兼ねれば、ルーターも兼ねるところです。ただし、タブレットと比べるとバッテリが小さく、動作時間が短いという欠点があります。
これに対してタブレットは、バッテリが大きく、朝から夜までの外出をカバーできる点です。しかし、ポケットに入るとはいえ、基本持ち歩きはカバンを使うことになるサイズといえ、他の機器を持ち歩かねばならないときには重量、サイズ的なデメリットがあります。また、一般にタブレットには通話機能がないため、別途、携帯電話やスマートフォンを持ち歩かねばならないため、タブレットは、さらに1つ荷物を追加してしまうことになります。
これに対してモバイルルータは、小型で持ち歩きにも問題はないのですが、機種によっては、利用可能な時間が短いという欠点があります。かつては、スマートフォンの電力消費が大きく、動作時間も短かったためにスマートフォンよりモバイルルーターが有利だったのですが、最近では、大きな差はなくなりつつあります。Android同士であれば、Bluetoothによるテザリング接続も可能なため、通信速度に我慢できれば、動作時間をかなり延長できます。
また、タブレットに比較して動作時間が短く、外付けバッテリを使う必要があるという点では、どちらも同じであるため、Androidスマートフォンでテザリングするほうが荷物が少なくて済むというメリットがあり、モバイルルーターのメリットは小さくなりつつあります。
PCとAndroidをつなぐ
さて、現状、モバイル通信機能を搭載したPCは少数派で、最近ではWiMAX内蔵のマシンも減ってしまい、モバイルPCは、スマートフォンやモバイルルーターに外出時の通信を頼らねばならない状態です。
もし、Androidのスマートフォンやタブレットを接続するなら、USB、無線LAN、Bluetoothの3つの接続方法が利用できます。現在のPCでUSBポートが存在しないものはないはずなので、原則、どのPCでも利用できます。無線LANによる接続もノートPCなど無線LANを持つデバイスなら利用可能ですが、無線LANを持たないデスクトップマシンでは利用できません。また、Bluetoothによる接続は、Bluetoothを内蔵していても利用できるPCとそうでないものがあります。
USB接続は、Vista以降のPCであれば、特にドライバを手動でインストールする必要がなく、USBケーブルでPCとAndroid機を接続すれば自動的にドライバがインストールされます。
USBテザリングの場合、Windowsからは、ネットワークアダプタとしてAndroidマシンが見えます。このため、USBで接続すれば、そのままインターネット接続が可能になるはずです。USBテザリングは、PC側からAndroid側へ電源が供給できるため、長時間の接続に向いています。ただし、ケーブルでの接続なので、移動中にPCもスマートフォンも手に持って操作するわけにもいきません。
これに対してBluetoothによるテザリングは、スマートフォンをポケットやカバンにいれたままにできるため、手軽で、スマートフォン、PC共に無線LANよりも消費電力が小さく、駆動時間が長くなるというメリットがあります。なお、Bluetoothテザリングは、Android同士でも可能です。
こうしたメリットがある反面、Bluetoothテザリングは、最大通信速度がBluetooth通信速度の遅い方のマシンになってしまうために、あまり高速にならないというデメリットがあります。最大でも1.3Mbps(160キロバイト/秒)程度で、メガバイト単位の大きなデータのアップロード、ダウンロードには向きません。とはいえ、Flashなどを使ったオンラインゲームなどができないほど遅いわけでもありません。
また、PCでは、このBluetoothテザリングができるかどうかは、搭載されているBluetoothスタックとデバイスドライバに依存していて、最近のWindows 8.1搭載マシンでも、利用できるものとそうでないものがあります。
具体的にはPAN(Personal Aera Network)プロファイルのNAP(Network Access Point)に接続できる機能が必要です。PANプロファイルには、User、Gateway、Network Access Point(NAP)の3種類の動作があり、Androidは、このうち、NAPのサーバー側として動作しています。これを利用するには、PCがNAPのクライアントとして動作できなければなりません。
使えるかどうかは、PC側で、Androidとペアリングしたあと、コントロールパネルから「デバイスとプリンター」を開き、Androidデバイスのアイコンのプロパティにある「サービス」タブに「パーソナルエリアネットワークアクセスポイント」というサービスがあるかどうかを調べます(写真01)。この項目がないPCは、AndroidのBluetooth接続は利用できません。ここには、自分が利用可能でかつ相手が持っているサービス(プロファイル)が表示されます。Android系のデバイスはNAPを持っているため、ここにNAPが表示されないということは、PCがNAPに対応していないということを意味します。
写真01: NAPに対応していないPCでは、ペアリングしたデバイスのプロパティのサービスタブに「パーソナルエリアネットワークアクセスポイント(NAP)」が表示されない。なお、サポートされている場合でも、行頭のチェックボックスをオンにしないと利用できないので注意 |
筆者の手元のPCで調べた感じでは、Windows 8.x標準のBluetoothスタックでは、どうもサポートされていない感じです。唯一利用可能だったのは、Bluetoothに手が入っている「VAIO Duo 13」だけでした。
本稿は、2014年1月10日にAndorid情報のWeb専門誌「AndroWire」に掲載した記事を再構成したものです。