アメリカン・エキスプレスのカードは、世界各地でその顧客サービスのよさが高い評価を得ている。アメリカでは、クレジットカードの満足度調査で高い信頼度のある「JD Powerクレジットカード満足調査」で2007年~2009年まで3年連続1位。アメックスのカードに対する高い顧客満足はどうやって生まれているのか。その裏側には「カスタマー・エクスペリエンス」というコンセプトが息づいていた。

アメリカン・エキスプレスでは、カスタマー・エクスペリエンスを「感動体験」と定義している。「顧客第一主義」というのは、企業理念としてよく聞かれる言葉ではあるが、アメリカン・エキスプレスが提供する「カスタマー・エクスペリエンス」は、単なる言葉だけではない。顧客のことをひたむきに考えた結果が行動となって現れる、企業としての真摯さだ。2004年、スマトラ沖で大地震が起きた際、社員が「自発的に」アメックスのカード会員の安否を確認し、避難のサポートをしたというエピソードは、カスタマー・エクスペリエンスが如実に現れた一例と言える。

年会費の安さ、ポイントやマイルが貯まることがカードを選ぶ上で重要なポイントだと思っている人がいるなか、アメリカン・エキスプレスはなぜそこまで「サービス」にこだわるのか。疑問を抱く人もいるかもしれない。

他のカードとは一線を画する、アメリカン・エキスプレスのカスタマー・エクスペリエンスとはなにか。今回から2回にわたって、インタビューをお届けし、カスタマー・エクスペリエンスについて紹介していく。まずは、新規カード営業部門トップの山中秀樹副社長にお話を伺った。

――アメックスのカードの顧客満足度は海外でも高い評価を得ていますが、営業部門では、どんなポリシーでお客様に接しているのですか?

個人事業部門 新規カード営業 / 企画担当副社長 山中秀樹氏

山中 : 「サービスとは発信側と受け手側があると思いますが、アメリカン・エキスプレスでは受け手側がどう感じるかを重要視しています。よって、私たちは常に『カスタマー・エクスペリエンス = お客様の立場に立って考えること』を徹底しています。営業で言えば『この営業から買って良かった』とお客様に思っていただくことを、何よりも大事にして日ごろの活動をしています。アメックスの営業と接していると『敬意を持って大切に扱われていると顧客に感じてもらう』ということがアメックスのブランドプロミスでもあるのです。」

――山中さんのご担当部署は新規カード営業部門ということですが、お客様が最初にアメックスと出会う部署ということになりますね

山中 : 「そうですね。カードセールスカウンターなどで、アメックスのカードへの入会を検討しようというお客様と接する部門です。ブランドとの最初の出会いの場でもありますから、私たちの態度いかんでブランドのイメージがよくも悪くもなるのです。そういう意味で会社の顔、といいますか態度や姿勢が問われる部署ということになります。そこで私たちが徹底しているのが(1)スマイルと(2)お見送りするときのおじぎです。

当たり前のことと思われるかもしれませんが、どんな時も始終笑顔でお客様と接すること。説明が終わってお帰りになられる最後のときに、感謝の気持ちをおじぎに込めること。おじぎはお客さまが見えなくなるまで行い、手の空いているスタッフ全員で感謝の気持ちを込めてお見送りをします。基本的なことですが、そのような当たり前のことを徹底して、それが常にきちんとやれているか。当たり前のことを徹底していくことがお客様への感謝の気持ちを表すことになるし、お客様に『自分は大切に扱われている』と思っていただき、アメックスを好きになっていただくことにもつながっていくと思うのです。」

――そういった努力によって、昨年はお客様からの苦情の声は33%減り感謝の言葉は63%増えたそうですね。具体的に現場では、どんな対応をされたことでこういう結果を生んでいるのでしょうか

山中 : 「本当にありがたい結果だと思っています。われわれは日ごろから、お客様に喜んでいただくにはどうしたらよいかを考えて様々な研修やミーティングでお互いに研賛しあっています。お客様から称賛の声があった営業マンを表彰する、またそういった営業マン同士が競いあう『ロール・プレイング・コンテスト』なども実施しています。

そうした中から、よいノウハウを吸収しあう社風が生まれています。サービスは最終的にはヒトが行うものですので、お客様のためになることを積極的に考え、行動するスタッフの育成に力を入れてます。」

――営業の現場で大切にしていることはなんでしょうか

山中 : 「言いづらいことをまずお客様に説明すること、また、お客さまのサイドに立ったサービスの説明をすることを徹底しています。たとえば、われわれのカードは年会費が高いと言ったご指摘をよく受けます。これについてはまず、『ありがとうございます』とお答えしています。これはその年会費に見合ったサービスをお客様に行う自信があるからこそ言えることです。そういった年会費の説明も最初にお伝えするようにしています。

お客様にお伝えするのに、言いづらいことを先に言う。これもお客様への誠意の表れだと思うのです。」

――カードに入会した後のフォローアップも営業の方がなさっていることだと聞いていますが

山中 : 「そうですね。入会してくださったら、われわれの仕事はそれでおしまい。といったことは決してしません。入会してくださった時がスタートラインですから。実際に申し込んでカードが届いて使い始めたときが、一番お客様が不安になる場面が多いのです。

そこで、お申込みいただいた後に営業担当がお電話し、お困りの点がないか確認したり、『First 100 Days』といって、入会100日前後にはサービス・センターの担当からお客様に『何かご不便はございませんか。ご質問などありませんか』とフォローの電話を入れるようにしています。そのとき、ご質問や苦情などもお受けするとともにキャンペーンのご案内などもさせていただいています。そういった時のお客様の声をわれわれ営業だけではなく、企画、開発など他の部署にも伝えて、あらゆる部署でサービスの改善につなげていくようにしています。」

――まさに全社をあげてのブランドプロミスの推進なのですね。サービスをよくしていく社内バックアップ体制もあるのですか?

山中 : 「常にお客様の声を営業員にフィードバックし、改善していくための専門トレーナーがいます。定性的なモニタリングだけでなく、入会したお客様の利用額や解約率などの分析をするデータ部門も営業チームの実績を見るうえで大事な体制です。また、外部にお願いしてミステリーショッピングと呼ばれるお客様を装っての採点評価を実施し、ここでも優秀な評価を得た営業担当を表彰する制度があります。」

――お客様に満足していただくための飽くなき努力が手にとるようにお話をうかがえました。本当にありがとうございます。

(聞き手 : 酒井富士子)