全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「三男の名付けで起こったこと」の話をお届けしよう。

  • 三男の名付けでしゃしゃり出る義実家

    三男の名付けでしゃしゃり出る義実家

選ばれし本家

私は本家の長男のもとに嫁いだ。結婚前に家系図を見せてもらったことがあるのだが、この家は夫で6代目、そしてこのままいくと長男が7代目となるらしい。

義父母はこの家系図を大事にしており、時にはそのカビ臭い家系図を大事そうに指でなぞり、

「ここに名前を連ねるのがどれほど名誉なことか……」
「私たちは時代を作る選ばれた人間なのよ」

と孫たちに語りかけていた。そういう選民意識の高い人間にとって、この家系図はまさに印籠のような存在なのだろう。そしてこの輝かしい一族にとっての不運があるとするならば、愛してやまない6代目のもとに「本家? どうでもいい。5千兆円欲しい」というスタンスの女が嫁にきたことである。今回、その嫁(私)が一族の大事な掟を破ってしまう。

三男の誕生、名前は……

時代を作る選ばれし一族のもとに三男が生まれたのは今年の2月のことである。予定日より早く生まれてきたため、名前がまだ決まっていなかった。上2人は夫が主となり名付けたこともあり、今回は私が名前を考えることになったのだが、病室のベッドでいくら頭を捻っても悲しいことに全く何も浮かんでこなかった。そもそもRPGで主人公の名前を決めるのでさえ1日考え込んでしまう人間が、我が子が一生を共にする名を簡単に決められるはずがなかった。

結局夫と話をしながら、小さく生まれてきた三男がこれから健康で大きく育つよう願いを込めた名前に決めたのは、産後9日目のことだった。出生届は子の出生後14日以内に提出しなければならないため、意外とギリギリのタイミングだった。

そしてここまで書いたところで時代の創設者、時代に愛されし者、義父母が出てくる。三男の名前を伝えると「画数が悪い」と言い出したのである。言われてすぐにいくつかのサイトで調べてみたのだが、良くもなければ悪くもない、実に平均的な評価であった。そもそも令和のこの時代、息子たちは婿にいくかもしれない。そこまで画数にこだわる必要もないのでは……と夫にも話をした。

義実家の本音

そこで改めて夫が義母と話をすると、どうやら本音は別のところにあるようだった。公立育ちの私にはよく分からないのだが、私立のエリートコースの彼らには代々受け継いでいかなければならない漢字があるらしい。要はその漢字を今回三男に入れろと言うのだ。初耳だった。あの義父母のこと、そんな大事なことなら長男の時に言ってくるはずである。なぜ三男の生まれたこのタイミングなのか。

理由はすぐに判明した。上2人は夫が名付けたからである。可愛い息子が可愛い孫につけた名前なのだから、文句など出ようはずがない。対して今回私が名付けるという話を聞いた瞬間に、どうだここは一つ本家の流儀をあの凡人に叩き込んでやろうじゃないかと2人の間で話がまとまったのだろう。

義父母は「■を名前に入れてほしい」と言ってきた。「あと三男だから漢数字の三もつけてみたらどうだ、そうすれば(画数が)大吉だ」と言うのだ。彼らにほんの少しでも人の話を聞く能力が備わっていれば、私たちが今回の命名にかけた想いについて時間をかけて話すことができたのだが、コメントは全て一方通行で「これが一族のやり方だ」「若者は年寄りの言うことを聞いておけばいいのだ」と言われてしまうと、こちらとしても「なんだ貴様らは」という顔になってしまうのである。

こういう問題は過去に何度かあった。やれ伝統やら決まりという理由だけで自分たちの考えを私たちに押し付けるのである。聞ける頼みならなるべく沿いたいところだが、今回は無理だ。なんなら論外だ。なんとか穏便に話をして分かってもらえないかと考えていた次の日、夫のスマホにお義母さんから留守電が入った。

「名付けは一生を左右するものです。秋山ちゃんはまだよく本家の役割を分かっていないようなので、一度家系図を持って話をしに行きます。空いている日時を教えてください。アキちゃん(夫)からも説得をお願いします」

ハリウッド映画であれば、肩をすくませ両手のひらを天井に向けたあとに「言いたいことはそれだけか」とショットガンで全てを終わらせて大円団となる場面である。そうだ私はすっかり忘れていた。ここから義父母が改心して私たちのつけた名前に「いい名前ね」と言ってくれる可能性など万に一つもないのだ。私は何を期待して今家にいるのだ、このうっかり者め。やるべきことはただ一つだろう。

私たちの答え

靴下を履きながら夫に「ちょっと出生届を出してくる」と伝えた。すると夫もそれが当たり前のように「一緒に行くよ」と答えた。あの日は雲ひとつない青空が広がっていて、キンと冷えた空気がとても心地よかった。出生届は受理され、この日三男は正式にこの国の人間として認められた。

夜、義母に「実はもう出生届を出してしまいまして」と報告すると、これまで自分たちが守り通してきた伝統がお前たちの考えなしの行動で全て台無しになったと大変にお怒りで、後日三男が病気で入院した際には「3番目は大丈夫か」と番号で呼ぶ始末である。しかしそっちがその気ならこちらも会わせないまでだ、という強い意志が私にはある。いつまでその意地が続くのか生暖かく見守っていきたい。

今回の件ではっきり分かったことがあるのだが、私は本家を背負う誇りも自覚もなければ、その立場自体が不相応な人間なのである。果たしてこれでいいのだろうかと自問する。本家の嫁として私にできることは何か、何をするべきなのか。そして改めて気づかされた。そう、私はとにかく5千兆円が欲しいのだ。