全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「義母からもらったフォトブック」の話をお届けしよう。
成長を記録したフォトブック
年を重ねるごとに時間の経過が早くなる。子どもが産まれてからは特に顕著で、この前産まれたと思った長男も今年小学生になった。我が家では長男が生まれてから節目ごとにフォトブックを作ってきた。特に新生児期から1歳までの1年間は、ずぼらな私が毎月フォトブックを作成するほど変化が大きい。
フォトブックは義実家にも渡している。発端は家に来た義母が棚にあったフォトブックを見つけ「私も孫ちゃんたちの成長を手元に残しておきたいわー」という大きな独り言を聞いてしまったからで、そこからなんとなく毎月、子どもが1歳になるまで渡す流れになった。
あれは次男が1歳を迎えた頃のことだった。誕生日には義実家も呼んで一緒にお祝いをした。そして最後となるフォトブックを作成した。
義実家に渡す分には、義父母や夫が子どもと写っている写真を多めに選定している。ささやかな嫁の気遣いである。長男の頃から通算すると23冊目だったが、お義母さんの口からお礼が出ることは今回もなかった。もちろん嫁の気遣いに気づくわけもなく、頬杖をつきながらペラペラとページをめくり、少し物憂げに遠くを見つめ、私の方に向きなおると
「秋山ちゃん実はね」
と切り出してきた。まさか23冊分のお礼が今ここで出るのかと思ったが、もちろんそんなことではない。
「フォトブックってこんな豪華にできるのよ」
引き出しから冊子を取り出してくる。それは写真店が提供するフォトブック作成サービスのパンフレットで、そこに載っていたのは豪華な装丁で高画質な代物であり、私が無料のアプリで作った物とはもちろん比べ物にならない出来だった。「すごいですね」と言うと、お義母さんは大層勿体ぶった顔で「これね……〇千円出せば作れるのよ」と私に言った。
『普段自転車で移動しているあなた! 車に乗るとその何倍も楽に移動ができるんですよ!』
言われているのはたぶんこういうことだ。知っている。そうしたいのは山々なのだが、世の中には色々な事情があり自転車を選ばざるを得ない人間がいることも知ってほしい。
「へえ」
私は色々な感情を殺すと無機質な声が出る。
「毎月秋山ちゃんが作っているのとは比べ物にならないくらい上質でしょう」
「へえ」
「あなたも次から〇〇に行って作ってみたらどうかしら。私なんてお店で店員さんに30分も話を聞いちゃった(笑)」
「へえ」
毎月乳児を連れてお店に行くのが難しいのでアプリで作っているんですよ、なんて話がお義母さんに通じるとは思っていない。となれば私の返答は「へえ」の一択である。3へえである。
テーブルには一度だけめくられ、表紙の半分が反り返ったB6サイズのフォトブックが力なく横たわっていた。
お義母さんからのプレゼント
そこからさらに数週間後、再び義実家に行くと最高の笑顔の義母に出迎えられた。
「この前のフォトブックの作成サービスね、なんと私、秋山ちゃんにあげるためにお店に行って作ってきたのよ」
あのお義母さんがわざわざ時間とお金をかけて作りに行くなんて、よほど魅力的な商品だったのだろう。
「やっぱり長男って思い入れがあるみたい。赤ちゃんの頃の写真が多くなっちゃったわ」
と続けるので、お義母さんも初孫に思い入れがあるんだなあと少し微笑ましく思い、「いえ、嬉しいですありがとうございます」と言って受け取った。
その私が見たのは、夫だった。表紙に夫がいたのだ。
笑顔の義母に抱かれた、0歳のときの夫(長男)がいた。
義実家はとにかく写真を撮るのが好きで、リビングにもたくさんの家族写真が飾られている。訪問のたびに目に付くので私もすっかり覚えてしまった。そんな見覚えのある写真たちがフォトブックに再掲され一冊の本にまとまっているのである。出生、退院、命名式、お宮参り、お食い初め、入園、入学……ページをめくるごとに夫が大きくなっていく。
1ページごとに今まで散々聞かされてきた思い出話を改めて聞かされ、
「なつかしい、子どもの成長は本当にあっという間だわ……」
というセンチメンタルな感情を受け止める。最後の1ページは大学の卒業式で学位記を持ち晴れやかな顔でカメラに納まる夫で締められていた。子育ての集大成、ここに極まれり、という感じだ。
「秋山ちゃんが知らないアキちゃん(夫)がたくさんいて嬉しいでしょう。家に帰ってもう一度じっくり見なさいね」と言われ紙袋にアルバムを詰めて持たされる。
嬉しいでしょう―――私はそんな発想ができるお義母さんを心の底から尊敬する。
帰宅後改めて夫の写真集を見るとどうもボヤけた写りの写真が多いことに気づく。違和感の原因を探るためにさらによく目を凝らしてみると、どうやらリビングに飾ってある写真を額から取り出しデジカメで撮影したようだった。お店の掲げていた良さが全て死んでいる気がするが、写真を写真にするなんて発想、お義母さんにしかできないだろう。
三男が産まれ、今回も空いた時間にアプリでフォトブックを作っている。そんな中、我が家で今も特別な存在感を放ち本棚に鎮座しているのは夫のフォトブックである。たまに本棚を整理していると表紙のお義母さんと目が合う。そして『嬉しいでしょう』と言ってきたあのときの顔がセットで思い出され、私をなんとも言えない気持ちにさせるのである。