全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは2人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「3人目の性別を伝えたとき」の話をお届けしよう。
女の子を望む義母
妊婦検診で胎児の性別が分かるのは一般的に妊娠20週前後だろうか。子どもの性別がどちらなのかは、妊娠中の楽しみの一つである。
私には上に2人の子どもがおり、どちらも男児である。お義母さんは長男のときこそ「本家の長男の嫁としての務めを果たした」と言っていたが、2人目以降は女児を希望していたようで、2人目が男児だと分かるとあからさまにがっかりして「次は女の子を産まないとね」と産後間もない私に言った。
そんな経緯があって今回3度目の妊娠。妊娠を伝えてから願掛けなのか義母はピンクの靴下を編み「女の子でありますように」と私に言うのである。そして日に日に大きくなる私のお腹を見て「このお腹の出方は女の子よ」と嬉しそうに言っていた。
個人的には初産のときより年と経験が重なった分、3度目の今回が一番心配事の多い妊娠生活で、正直性別はどちらでもよかった。毎回健診のたびにお腹の子が生きているかが不安だった。
性別は……
性別が分かったのは10月の4回目の健診である。私のお腹にエコーを当てた先生が「男の子だね」と言った。「確実ですか?」と聞くと「間違いない。ここに付いている」と証拠のエコー写真も撮って渡してくれた。
そうか、男の子か。末っ子男児、かわいいだろうな。長男、なんて言うだろう。次男もお兄ちゃんか、かわいがってくれるかな。洋服はお下がりばかりになるとかわいそうだから買い足してあげよう……と病院帰りに色々考えていた私の心が1人の人間を思い出した。そういえばあの人、女の子がいいって言っていたな。
帰宅してから夫に連絡をした。男児だった、と言うと「やっぱり」と言って笑っていた。2人の間ではなんとなくそんな気はしていたので、その反応も想定内だった。これからがんばって2人で働いて立派に子どもたちを成人させようと言って電話を切った。
そのあと実家に連絡をした。ちょうど出かける前の母が電話に出た。性別を告げると「にぎやかになるね」のあとに「孫たちは元気に保育園に行けている?」「仕事はいつまでなの?」「体に気をつけなさいね」「また荷物を送るからね」と言われた。母は孫である息子たちにはもちろんのこと、その倍くらい私のことも気にかけてくれる。母は私の目標であり、私は今も母のような母になりたいと思っている。
鳴り響く携帯電話
ちょうどお昼時だったので適当にカップ麺にお湯を注ぎながらお義母さんにメールをした。「3人目の性別が分かりました。どうやら男の子みたいです」。大体このあとの流れは想像ができた。そして想像通りすぐに私の携帯は鳴った。確か今日からお義父さんと2泊3日の旅行に出ているはずだ。
通話画面をスライドさせてスマホを耳に当てると、外からかけているのか雑音が混じる中、お義母さんの声が聞こえた。第一声は「残念だったわね」だった。残念な報告は何もしていないが、お義母さんはこういう人なのである。「まあ無事に生まれてきてくれれば私はどちらでもよかったです」と答えた。確か次男の妊娠中も同じやり取りをした気がする。歴史は繰り返される。
「男の子はね、大きくなると家に寄り付かなくなるから老後さみしいのよ。覚悟なさいね」と外の音がうるさくてあまり聞き取れなかったがそんなことを言われた気がする。「でもアキさん(夫)はお義母さんのところにもよく顔を出していますし、うちもそうなってくれたら嬉しいです」と返答すると「そりゃあアキちゃんは心の優しい子に育てたもの。並の育て方じゃ無理なんだから」と私の聞き間違いかもしれないがそんなことを言った気がする。
お義母さんは褒めると褒めただけ伸びる。しかも厄介なことに少ない栄養(お世辞)でも枯れずに生き続ける雑草タイプの人間であり、伸び続けた結果「謙遜」の二文字をどこかに落として今も生長を続けている。
どうやったらこんな性格になるんだろう、と思わずスマホ越しに笑うとそれをまた肯定の意味と受け取ったのか「アキちゃんの血が半分入っているんだから、孫ちゃんたちも少しは期待できるわね」と続けるので(あまり調子に乗るなよ)と喉まで出かけた言葉をなんとか飲み込んだ。
「でもまあ」とお義母さんが急に落ち着いたトーンで「もう決まったことをあれこれ言ってもしょうがないわね」と言って穏やかな口調になった。なんだ随分と聞き分けがよくなったな、そのままよろしく頼むぞ、と思っていたら「まだ若いんだから4人目、待っているからね」と続いたのである。この場面に一番しっくりくるセリフが「ひいっ!」以外にあったら教えてほしい。
あとから電話を替わった義父が「ママ(義母)に女の子も抱っこさせてやってくれよ~」と笑っていたが、義父は人からの恨みを食らって強くなっていくタイプの妖怪なので、こんなことで腹を立てていてもしょうがない。お義母さんとお義父さんは出会うべくして出会った最強の2人なのである。
ようやく切れた電話をそのままソファーへ投げて横になる。しばらく放心状態でいたが、あることに気づいてキッチンへ向かうと、(もう限界です)と言わんばかりに20分前にセットしたカップ麺がお湯を吸って膨れていた。今の私の気持ちとリンクして思わず「そらそうなるわ」と声が漏れた。