新宿、渋谷、池袋、品川などの巨大ターミナル駅。そのひとつ隣の駅周辺には、懐かしい風景や歴史の面影をとどめる、エアポケットのような街が数多く残されています。
この連載では、そんなターミナル隣の駅周辺を探訪。ひとり暮らしや転居を考えているサラリーマンに、アクセス抜群でありながら、ほっと落ち着く、エアポケットタウンの魅力を紹介します。
都内の京急線で乗降者数最少の駅
東京を代表する巨大ターミナル品川駅から京急線の各駅停車に揺られること1駅。開かずの踏切と呼ばれる北品川踏切を過ぎると電車は「北品川駅」に到着します。
同駅の1日平均乗降人員は9,697人(2018年)※。京急線全72駅中59位で都内の京急の駅では最少です。平日の昼前ということもあり、ホームは閑散としていました。 ※「京急グループ会社要覧 2019 - 2020」より
旧東海道の品川宿に作られた北品川駅
北品川駅の開業は1904年(明治37年)。品川駅よりも南に位置していますが、旧東海道の品川宿北端にあるため「北品川駅」と名付けられたそうです。
改札は車の往来が激しい国道15号に面した一箇所のみ。改札を出て、駅横の踏切を渡ると品川宿の面影を残す、旧東海道沿いの商店街に出ます。
品川浦の面影を残す船溜まりの風景
鎌倉時代から江戸湾の港として栄え、江戸時代に東海道宿駅伝馬制度が定められ、第一の宿駅となった品川宿。歌川広重の東海道五十三次(保永堂版)には、街道に沿って波打ち際が続く品川宿の風景が描かれています。
船溜まりは、その雰囲気を今に伝えるスポット。屋形船、釣り船が舳先を並べる船溜まりからは、現代と過去が混じる品川宿らしい風景を楽しめます。
歴史ある町並みと住み心地のよさが同居
旧東海道の沿道には、歴史を感じる商店や由緒ある神社仏閣が点在しています。また、ひとり暮らしやファミリー向けの集合住宅が多いのも北品川の魅力。品川駅まで徒歩約10分のアクセスと昭和を感じるロケーションを両得できます。
築年数次第で穴場の賃貸物件もあり
北品川周辺の単身者向け1K/1DKマンションの家賃相場は、品川駅10.1万円に対して、北品川駅で約9.8万円、隣の新馬場駅で約9.2万円、その隣の青物横丁駅で約8.9万円。
品川駅に比べて安価ですが、都内の相場からするとやや高め。しかし、築年数により約6~7万円台の物件もあるそうなので、ロケーションを考えると穴場といえるのではないでしょうか。
江戸の粋と昭和を感じる飲み食い処も豊富
丼からはみ出る天ぷらで有名な「天婦羅うえじま」、あさりと海苔をふんだんに使った「品川宿そば」が人気の「そば処 いってつ」、行列ができる新馬場のデカ盛り街中華「中国料理 登龍」など、うまいと評判の飲み食い処が多いのも北品川周辺の魅力。
その中で蕎麦の名店「手打ちそば しながわ翁」を訪ねました。
山梨の名店「翁」で修行を積んだ店主が2000年に開業した「手打ちそば しながわ翁」。平日はビジネスマンが多く、休日には遠方から足を運ぶ来店客も多いそうです。
手打ちの二八そばは、店の2階に据えられた石臼で挽いたそば粉を使用。「鴨南蛮そば」(税込1,620円)を始め、温かい蕎麦も人気とのこと。夜はお酒とともに「焼きみそ」や「板わさ」などのおつまみも楽しめます。
ゆったりのんびり、休日には最寄りの銭湯へ
京急沿線は銭湯が多く、その中には「黒湯」と呼ばれる天然温泉の源泉を持つ銭湯もあります。北品川駅から徒歩約3分の「吹上湯」もそのひとつ。
「吹上湯」の特徴は、広い浴槽と透き通った熱めの白湯。温泉法第二条によって定義される「温泉」ではありませんが、浴槽には水の浄化に効果があるといわれる備長炭が入っています。明治時代から続く老舗の銭湯です。
日々、膨大な数の人々が集まり散っていく巨大ターミナル。そのひとつ隣の駅周辺には、意外なほど閑静で、どこか懐かしい街並みが広がっています。そんなエアポケットのような街で暮らしてみるのも、東京の新しい楽しみ方のひとつではないでしょうか。
※本取材は4月7日に発令された「緊急事態宣言前」に行われました