直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかったものを「深読み」しようという企画。今回は、スクートの関空=ホノルル線参入、ジェットスタージャパンの有料会員プログラムを刷新などについて取り上げたい。

スクート、2018年6月までに関空=ホノルル線参入を表明
スクートは7月25日のタイガーエアとの合併時に、今後の新規就航路線計画を発表した。2018年6月までに関空=ホノルル線参入の他に、中国のハルビン、マレーシアのクチンとクアンタン、インドネシアのパレンバンへの就航も計画している(7月25日: スクートより)。

2018年6月末までの新規就航予定都市として、スクートとして初となる米国路線のハワイのホノルル、中国北東部のハルビン、短距離路線ではマレーシアのクチンとクアンタン、インドネシアのパレンバンの5都市への就航を予定している

激化するハワイ市場でANAがどう舵を切るか

関空=ホノルル線では2017年6月からエアアジアXが直行便を開始しており、スクートが今回続くことで、いよいよ日本でも長距離LCCの本格競合が始まったと感じる。LCCにとって新規就航を判断する上で、「誰も運航していない新地点」「既存キャリアが独占していた地点」がまず候補に上がり、次に「圧倒的ローコストのエアラインに目が向く需要層が存在するか」を考える。

その意味では、LCCの視線はこれまでの狭胴機マーケットから中長距離路線に移りつつあり、フルサービスキャリア(FSC)が独占する長距離路線のほとんどが「Opportunity」だと考えているだろう。そして、まずは需要の太い路線に狙いを定めるのだが、その意味で日本=ハワイはもっとも不安なくLCCが挑戦できる安心路線であり、東京・大阪からのハワイ路線はまだまだLCCにとって未開拓・魅力的な路線と考えるであろう。

現在、関空から直行便を運航しているエアラインはJAL、デルタ航空、ハワイアン航空だが、2017年冬ダイヤの運賃を検索すると、個札では最低運賃が概ね10~11万円台となっている。これに対し、エアアジアXは5万円台の運賃を提供しており、2018年度のスクートも同レベルの運賃となるだろうが、特に価格志向が強い関西マーケットではサービスレベル云々を求めるよりも半額の運賃でLCCを選ぶ利用者は多いと思われ、両社の勝機は十分にあると言える。

また、ホノルル路線は依然代理店を通じたパッケージツアーの比率も高く、若年層がまずチェックするメタサーチやオンラインAGTのサイトではLCCが上位に表示され、そのまま購買につながるケースが多い。米系エアラインは、本土でもLCCに対抗する低価格運賃をFSCが提供するようになってきており(その分、LCC運賃も過去のような劇的な安値は影を潜め、それぞれが棲み分けるレベルになってきているとの分析もあるが)、今後、デルタ航空やハワイアン航空が低価格で対抗することが十分考えられ、市場はある意味荒れるだろう。利用者にとっては誠に望ましい展開が待っているとも言える。

次の展開としては、ANAが関西=ハワイ市場をどう考えるか。2019年にA380をハワイ路線に投入することを考えると、東京市場だけで勝負できるかには不安もあるだろうし、関西=東京乗り継ぎハワイ便の競争力が弱まるため、何らかの対抗措置を考えざるを得ないだろう。かといって、ピーチ・アビエーションに2機種目の広胴機を導入するにはリスクが大きいので、何らかの形で余剰機材の運航受託で、ピーチやバニラ・エアのハワイ線参入を考えるかもしれない。

ただ、LCCがハワイ市場を席巻するようになっては自社大型機での運航が立ちいかなくなる。そのため、上級客に特化する戦略をとるのか、ハワイ路線ではいずれにしても難しい舵取りが強いられることになるだろう。

国内航空各社、お盆の予約状況を発表(8月10~21日)

写真はイメージ

「結果・実績が全て」を考えると本当に必要な数字か

いつも思うのだが、この発表値を利用者の方々は見ているのだろうか。そして、報道発表から何を得るのだろうか。筆者がエアラインにいる時からかねがね疑問に思っていたことを改めて提起してみたい。

国内エアラインは毎年、四半期ごとの営業実績以外にお盆や年末年始、春休みの予約状況を発表しているが、これは一体何のためなのか。エアライン側からすると、「意義はなく、できればやめたい」と思っていることは間違いないと思う。このような数字はあくまで予約状況の途中経過であり、これによって利用者の予約行動が変わるわけでもない。いわば、マスコミの余剰紙面を埋める「閑話休題」でしかないと言うのがエアライン側の感覚ではないか。

「予約段階の数字なので操作も可能(結果との矛盾が出るような大胆な操作はできないが)」「これによってその後の予約が大きく変動するとか、株価に影響が出るようなファクターではない」「多客期の動向調査という側面は分かるが、具体的な旅客動向は休日の並び、実質的な休暇日数により年度ごとに事情が異なるため、同じ期間の実績を比較しても、各社の年度比較が正確にできるわけでもない」というのがその理由だ。

利用者からしても、今年のお盆や年末年始の予約入り込み具合を聞いたところで、それを記事として、また、事実として記憶することもないだろうし、自分の消費行動に影響を与えるわけでもないから何の興味も持たないだろう。他方、航空会社の事業運営を分析する側としては「結果・実績が全て」であり、瞬間的な状況変化に一喜一憂するよりも半期ごとの実績をじっくり分析することの方が。よほど各社の実情を知るには有益なのである。

この種のデータ提供をエアラインに要求し、記事にして掲載するのはここらでやめにしてはどうか。業界及びメディア各社に提案したい。

ジェットスタージャパン、3年ぶりに有料会員プログラムを刷新
ジェットスター・ジャパンは8月8日、2014年5月に国内LCCとして初めて導入した有料会員プログラム「Club Jetstar」を約3年ぶりに刷新し、本格運用を開始した。改定した入会費および年会費(初年度無料)の支払いで、会員特別価格での航空券の提供や、ホテルやWi-Fi機器のレンタルなどさまざまな提携会社の割引特典を利用できる。

2014年5月27日に国内LCCとして初めて導入した有料会員プログラム「Club Jetstar」を約3年ぶりに刷新

世界的にも珍しい有料会員はうまく機能するのか

恥ずかしながら、LCCがあれこれ有料会員プログラムを有していることはよく把握していなかった。調べてみると、ジェットスター・ジャパンの「クラブ・ジェットスター」が老舗で、ピーチ・アビエーションのカードプレミアム(年4回のセール特別案内、各種料金の割引)と、ピーチエクスプレス(年間5,400円でセールを1日早く予約可能)が続く。

他の本邦エアラインでは、いわゆるカード会員やマイル優遇会員などの制度はあるものの、ANAやJALですら、年会費を払えば会員になれるという制度は見当たらない(ライン時利用等が可能になるメンバーシップはあるものの、ここに到達するまでには種々のハードルがあり、かつ、カード会社の結構高額な年会費がかかる)。

クラブ・ジェットスターでは、これまでは年数回の特別格安セールの案内が主で、その販売期間に旅行の予定がなければ「元を取る」のが難しいと言われていたようで、今回は全運賃に対して2割引の特別運賃で乗れる制度を全面に押し出している。巡り合わせがよければ、一回で元が取れる格安運賃の購入機会よりも、年間何回も乗れば確実に回収できる方式に変更し、リピーター化を進めようという狙いが見て取れる。

海外でも、かつてはライアンエアが年間60ポンドの会費でフリーチケットや格安運賃での購入機会を提供していたが、現在は各国ともこのような有料会員優遇制度は見なくなった。仮にこのような形で顧客を囲い込めたとしても、その数が多いと会員の事前購入で魅力的な安いチケットが売り切れてしまうことになり、通常旅客の離反を招くというジレンマもある。

有料でのこの種の優遇が肥大化することは難しい側面を常に内在させながらの制度運営が、今後どのような形で落ち着いていくのか。会員数の推移も含めじっくり見ていきたい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。