直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかったものを「深読み」しようという企画。今回は、JALとベトジェットエアと包括業務提携、神戸空港の優先交渉権者にオリックス連合が選ばれたことについて取り上げたい。
JAL、ベトジェットエアと包括業務提携に向けた覚書を締結
JALとベトナムのLCCであるベトジェットエアは7月25日、利便性とサービス向上、相互送客による企業価値向上を目的とした包括的業務提携を行うことについて覚書を締結。相互のコードシェアのほか、マイレージなど他の分野も含めた包括的な業務提携について検討することに合意した。
見えにくいJALのメリット、具体的な提携内容に注目
JALがLCCとコードシェアを含む提携を実施するのはジェットスター・ジャパン(GK)に次ぐもので、海外においては初の試みとなる。なお、以前から米国ジェットブルーとはコードシェアを行なっているが、ジェットブルーはLCCとは定義すべきでないと考える。該社は低運賃に加え、スターフライヤーがモデルとした広い座席間隔とシートTVを有するハイクオリティを売り物にしており、29インチピッチの典型的LCCであるベトジェットとは大きく異なる。
ではJALにとって、今回の提携の目的は何だろうか。そのベネフィットはあるのだろうか。筆者にはいまだ良く理解できていない。国内線でのジェットスター・ジャパンとのコードシェアは、出資先であることに加え、ジェットスター・ジャパンの成田発の時間帯がJALの空白時間帯をカバーしており、JAL国際線利用客の成田=地方主要都市間の利便性向上につながるため、その必要性は十分に理解できる。
もっとも、実際にGK便にJALコードがつくケースは極めて限られており、国際線のコードが貼られている成田=札幌のGK便であっても、国内線でのコードシェアは行われていない。なぜなら運賃が違いすぎるからだ。
国際線からの乗り継ぎの場合、成田=札幌間のアドオン運賃は往復1万円で、ジェットスターの割引運賃(往復1万2,000~1万5,000円程度)より安いが、国内線では最安の28日前割引でも往復3万円前後となり、まして通常の特定便割引だとジェットスターの3倍以上の価格となってしまう。これでは現実にコードを貼ったとしても、JAL便で買う人はいないはずだ。
ベトジェットとの提携でもこれと同じことが起こるだろう。JALはコードを貼るとしても、対象はベトジェットの上級クラスのSKY BOSS(運賃は通常エコノミーの3~5倍)としているが、その座席仕様は通常のエコノミーと同じであり、最前列(1A~1F)を利用できるケースしかJALコードとしての理解は得られまい。現時点でベトジェット運航便にJALがどのようにコードを貼ろうとしているのかはまだ見えない。
2016年10月、ANAによるベトナム航空への出資によってJALとのコードシェア・マイル提携は打ち切られたが、現在でもJALとベトナム航空との間には運賃プロレーション(通し運賃を設定し、距離等に応じて収入を按分する)協定があるため、日本からJALが就航していないベトナム国内地点であっても、往復70米ドル程度付加すればベトナム航空便で旅行できる。JAL顧客にとって、ベトジェット運航便をラインナップに載せるメリットがどこにあるのか、ピンとこないのが現実ではなかろうか。
ANAによるベトナム航空への出資によって、それまでのJALとの提携関係を奪い取った形になっていることへの一種の対抗措置として考えた結果なのかもしれないが、全く生業の異なるLCCとのコードシェアに踏み込むJALとしてのリスクはないのか、今後出資を含む提携関係の発展はあるのか。いまや国内旅客数シェアで国営航空を凌ぐまでに成長してきたベトジェットではあるが、コードを貼るということは同社の運航品質と安全にJALとしての責任を負うことになる。具体的な提携の進展を見守りたい。
神戸市、神戸空港の優先交渉権者にオリックス連合を選定
神戸市は7月25日、神戸空港の運営権売却でオリックスなどで構成する企業連合に優先交渉権を与えると発表した。オリックス連合の提案によれば、42年間の運営権取得の対価として191億4,000万円を支払う。同市は、関西国際空港/大阪国際(伊丹)空港との一体運営を通じて、神戸空港の運営の品質向上と効率化を図る(7月25日: 神戸市より)。
優先交渉権者にORIX・VINCI Airports・関西エアポートコンソーシアム(代表企業: オリックス、コンソーシアム構成企業: オリックス、VINCI Airports S.A.S、関西エアポート)を選定 |
3空港経営で関西圏として最適な便数と国際線運航に期待
神戸空港の運営権者がオリックス連合に決定した。当初、商社や投資グループが参加表明したものの、現実に関西3空港を効率的に一体運営できるのはすでに関空/伊丹空港を経営しているオリックス連合しかなく、他者が断念したことは順当な成り行きであった。年間4.45億円を42年間という運営権対価は、年間7億円程度とみられる現在の神戸市の負担がどうなるかで見方が分かれるが、単独入札という環境の中で今後の共存関係を考えて、神戸市に配慮した風情が感じられる。
他方、神戸市が公表したオリックス連合の提案概要にはさして目新しいものはなく、ターミナル改修による商業施設の大幅拡充、オペレーションの一元化などに加え、「機材の大型化誘導」「カニバリゼーションを抑えた路線誘致」という項目が並んでいる。「総便数の増加を前提とした国際線を含む新規路線の誘致」という表現がないのは、やはり国交省に配慮したためであろう。
既知の通り、これまで関空路線への影響を抑えるため、神戸空港の発着枠は1日30往復に制限され、国際線の運航も認められていない。しかし、3空港の経営者がひとつとなればこのような制約は撤廃し、関西圏として最適な便数と国際線の配置が行われることを期待するのが当然の流れだろう。むしろ、それなくして今回の民営化~一体運営の効果が目に見える形で示させることはないと言える。
航空管制は関西圏での一体管理なので関空のピーク時間帯は難しいとしても、ショルダー帯の空き枠を神戸に振り分けることはすぐにでも可能なはずだ。2018年4月の経営移行に向け、早急に国交省との折衝が始まることを期待したい。
筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。