世界を代表する航空機メーカーであるボーイングとエアバス。2013年の売上高はボーイングが530億ドル(6兆2,833億円)、エアバスが420億1,200万ユーロ(5兆7,618億円)。ほぼ互角の勝負を長年にわたって続けている両社である。
ただ、1970年代から2014年までジャンボジェット(747型機)が国内線に就航し、2011年にはANAが最新型機の787を世界で初めて就航させるなど、日本では長い間、ボーイング機の存在感が大きかった。実際、ANAもJALも主力機はボーイング機が占めていた。ところがここ数年、日本におけるエアバスの存在感が増している。
JALがエアバス最新機・A350XWBを大量発注
日本におけるエアバスの戦略で強いインパクトを与えたのが、2013年10月のJALによるエアバスA350XWB(エクストラ・ワイド・ボディ)の大量発注だ。2014年11月には同機のテストフライトが日本(羽田)でも実施されたが、これはJALが発注したからだった。
また、世界の先端を行くサービスで知られるシンガポール航空やエミレーツが運航する総2階建てのエアバスA380も旅行者の話題の的。さらには国内で便数を増やす低コスト航空会社(LCC)の多くがA320を使っていることも、日本でエアバスが知名度を上げている理由のひとつだろう。
ヨーロッパの威信をかけた航空機メーカー
しかし、エアバスの歴史はボーイングに比べると約60年も浅い。エアバスの旅客機が初めて就航したのは1974年のこと。それまではボーイング、それにロッキードやマクドネル・ダグラス(後に両社はボーイングに吸収・合併)といったアメリカ勢が、民間機の世界を席巻していた。
エアバスの歴史は1970年に設立されたエアバス・インダストリーに始まる。同社はフランス、西ドイツ(当時)、イギリス(後に撤退しスペインが参加)によってヨーロッパの威信をかけて設立されたが、最初はさっぱりと言えるほど売れず、1976年頃までは生産が受注を先行していた。航空機はオーダーメイド生産だから、つまるところ、工場が"開店休業状態"というありさまだったのだ。
ボーイングは1916年設立。本社機能はシカゴにある(写真はシアトル・エアヴァレット工場敷地内のストア) |
フランス・トゥルーズにあるエアバス社。その歴史は1970年に設立されたエアバス・インダストリーに始まる |
命運をかけた前代未聞の戦略
しかし、エアバスは思い切った戦略に出て、これが見事に成功する。敵地アメリカの航空会社であるイースタン航空にセールスをかけたのだ。内容は、当時エアバスが1機種だけ展開していたA300というワイドボディ(2通路機)を半年の間、無償で使ってもらうというもの。しかも、30機もという前代未聞の好条件を提示した。
加えて、エアバスは試用期間の整備費や運航証明取得手続きの費用を負担し、さらには自社のリスクでイースタン航空への金融機関からの融資の手配までしたという(※)。実は当時、イースタン航空は経営状態が芳しくなかった。そこにエアバスは目をつけて攻勢をかけたのだ。
結果、エアバスは31機(オプション9機含む)の受注に成功する。数百円や数千円の製品ならばそうした商法も見かけるが、1機あたり数百億円というケタ違いな旅客機の世界ではまさに前代未聞の手段である。
優れた旅客機で高い評価を得る
しかし、この成功は大胆な販売戦略だけがもたらしたものではなかった。性能が悪ければ売れない。その点で、エアバスが売り込んだA300はほとんどトラブルなく運航されたのだ。それが、エアバスという航空機メーカーの高い信頼性をヨーロッパ外に広めるという相乗効果をもたらしたのだった。
その後、ナロウボディ(単通路機)のA320を開発した際に、同社の努力が花開く。A320は1987年の初飛行の時点で約400機もの受注を集め、これを機にエアバスはボーイングのライバルとして認められる存在となった。
A320で一気にボーイングのライバルに
A320はLCCだけでなく、レガシーキャリア(大手)の大型機を飛ばすには需要が足りない路線にもマッチした。A318、A319、A321(数字が大きいほど機体が長く座席数が多い)といったファミリー機が次々に造られ、最大離陸重量(乗客+貨物+燃料の重さ)を増加し航続距離をファミリー機最長の7,408kmまで延長させたA321neoもつい最近ローンチされるなど、いまだに売れ続けている。その受注数は1万1,514機(2014年12月末時点)と、"300~500機が採算ライン"と言われる旅客機事業で驚異的な数字に達している。
なお、A320シリーズの標準座席数は107~185席で、ボーイングの737シリーズの競合機だが、737の初飛行は1967年とA320より20年も早い。しかし、すでにA320シリーズの総受注機数は737に肉薄している状態だ。また、エアバス機全体の「2014年末の受注機残数は航空史上最大の6,386機に上る」(同社)という。
かつてアメリカ勢の独壇場だった本国に攻勢をかけ、最近ではボーイングの牙城だった日本の旅客機市場にくい込み始めたエアバス。トータルの受注機数は歴史の長いボーイングがまだまだ上だが、近年のエアバスの勢いには目を見張るものがある。もちろん一方のボーイングも負けてはいないわけで、両社の競争により良質な旅客機が開発され続けるなら旅行者としては楽しみが増すばかりだ。
※参考文献『新・航空事業論』(井上泰日子著・日本評論社刊)