機内の気圧は地上より相当低い。国際線の巡航高度は1万m前後だが、気圧はだいたい地上2400m付近。富士山でいえば5合目あたりと同じだ。そのため機内食の味付けも地上とは違う。特に甘味と塩味が弱く感じるため、甘く塩辛い、濃い味付けになる。筆者は何度となく地上で機内食を食べたが、昼頃に食べると夜まで満腹感と喉の渇きに見舞われる。
機内食は航空会社のケータリング工場で作っているから味の調整ができるが、難しいのが飲み物だ。ワインやビールは基本的に市販品。ビールは機内が乾燥しているため、おいしく飲めるという人は多いだろう。
問題はワインだ。繊細な香りや味わいを楽しむ飲み物だけに、低い気圧や極度の乾燥は味を分からなくしてしまうと言われる。「特に柑橘系の風味が強くなる」(機内食開発担当者)など、味そのものも変わるらしい。
しかし、そうした「悪条件」の中、空会社はどうすればよりワインを楽しんでもらえるか。工夫を繰り返してきた。良質なデザートワインを積むなど、通の間で知られた存在のデルタ航空は、ビジネスクラスのメニューの考案者とソムリエがタッグを組んでそのときの料理に合うワインを出している。どういう風に合うのかもメニューカードに書かれていて、舌だけでなく、頭でもミールサービスを楽しませてくれる。他にも多くの航空会社が「悪条件」の機内でおいしく味わえるワインを選ぶ工夫をしている。
エコノミークラスのワインの種類が多いのはニュージーランド航空だ。赤と白が2種類前後、それに地元のキーウィワインも積んでいる。ただし、ニュージーランド航空は特別で、ほとんどの航空会社は白と赤が1種類ずつなので選択の幅は狭い。それでも、工夫すればおいしく食べられる。
筆者がタイ航空に乗ったとき、当然のごとくタイ料理が出た。ビールが合うのは分かっているのだが、どうしてもワインが飲みたくて、赤と白のどっちが合うのかをキャビンアテンダントに聞いてみた。彼女もよく分からないというので、しばらく2人で考えた末、赤ワインを選んだらおいしかった。そんな経験もある。
ちなみに、機内でトマトジュースを飲んでいる人が多いのを常々、不思議に思っていが、あるとき、機内食の開発担当者がその理由を話してくれた。機内では気圧の違いでトマトジュースがもつ、あの独特の臭みが消えてちょうどいい具合になるそうである。トマトジュースが苦手な人も、次に飛行機に乗ったら試してはどうだろう。