今日もお客がいない空港近くのスナック。しげさんはひたすらグラスを磨き、サエコは、厨房でレシピを見ながら何かを作っている。そこにあのペンギンブローチの男が現れた。

綾瀬はるかもバードストライク体験者!?

サエコ: 「いらっしゃい」


男:

「こんばんは。今日もお邪魔するよ」


「いつもの、ウオッカベースのドライマティーニでいいですか」


「それで結構」


「早速、飛行機の話なんですけど。と言っても、今日は空港です。この前、空港に行ったんですよ。なんかパンパン音がしていたんですけど、あれは何なんでしょうか」


「ああ、おそらくバードパトロールが鳥を追い払うために空砲を撃っているんだ。バードストライクを防止するためにね」


「バードストライクって、鳥と旅客機などと衝突することですよね。ニュースで見たことありますよ」


「サエコさんは2008年に公開された映画『ハッピーフライト』を見たことがあるかな」


「あっ、綾瀬はるかがキャビンアテンダントの役をやっている映画でしょう。でも、見損なってしまいました……」


「あれはハードストライクがモチーフになっている映画だ。空中で速度を検知するピトー管に鳥が当たって壊れてしまい、さあ大変という話だった。もちろんフィクションだけど、そうした旅客機の重要部分が破壊されることは実際に起こっている。映画にはバードパトロールも登場している」


バードストライクは年間1,600件も

「バードストライクは国内の空港だけでも、2016年は年間1,625件あった。1日あたり4件以上という計算になる。ダメージが少なく運航に影響がないので、あまりニュースにならないだけだ」


「意外に多いですね」


「国内の空港別に多いのはやはり羽田空港で182件でダントツ。続いて伊丹空港が73件、成田空港が57件、関西空港が50件と続いているね。空港は都市から少し離れた場所にあり、広くて自然も豊か。野生の鳥が生活しやすい場所だから、いっぱい集まってくるんだ」


「鳥が飛行機に当たることって、そんなに問題なんですか? 飛行機はジュラルミンとかいう、丈夫な素材でできているんですよね」


「ほとんどがスズメなど小さな鳥で、飛行機の方が強いけど、問題は当たり所だ。航空機の運航にとって重要な部分、例えば、速度の検知するセンサーやエンジンなどが破壊されたら大変な事態になる。もうひとつ映画の話をすると、2016年に公開された『ハドソン川の奇跡』っていう映画を覚えているかな」


「それは知ってます。クリント・イーストウッド監督の作品でしょう? ポスターのトム・ハンクス、やっぱりシブかったですねぇ」


「あの映画は2009年、ニューヨークで実際に起こったUSエアウェイズ1549便事故を下敷きにしたものだ。その事故は離陸上昇中のエアバスA320機のエンジンに4kgの重さのあるカナダガンという鳥が複数飛び込み、2つあるエンジンが両方とも停止したんだ」


「それじゃあグライダーと同じじゃないですか!!」


「そうだ。推力を失った機体をトム・ハンクスが演じたサレンバーガー機長が操縦して、うまくハドソン川に着水させ乗員乗客155人全員が助かった。その事故をメディアが『ハドソン川の奇跡』と呼び、映画の邦題にもなった」


「旅客機のエンジンなんか、すごく強そうな感じですけど……」


「ジェットエンジンは、確かにチタンなど堅牢で腐食にも強い金属が多用され、異物が飛び込んでも壊れないように安全性は確保されている。対策試験としては、最低でも1.8kgの食用ニワトリを大砲に似た装置で、動いているエンジンの正面から発射して破壊したり故障しないかを見る。それでも、『ハドソン川の奇跡』のように大型の鳥が複数エンジンに飛び込むと、停止することも起こりえる」


「なんか、すさまじいですね」


鳥だけではない脅威

「でも、空港での動物の脅威は鳥だけではないんだよ」


「鳥だけじゃない?」


「そう。2016年のことだけど、羽田空港の滑走路に野良犬4匹が入り込んで21便の離着陸に影響が出たことがあった。また、翌年の2017年には、ゲージ(カゴ)に入れて空港貨物として運ばれる途中のプードルが滑走路に飛び出して、滑走路が一時閉鎖されて14便が遅れた。もっと遡ると、2008年頃には成田空港で旅客機が誘導路で猫とひいてしまった事故も起こっている」


「犬や猫かぁ……」


「それだけでじゃない。秋田県の大館能代空港、青森空港では熊が空港に入った例があるし、新千歳空港ではシカが目撃されたこともある」


「くまモンは熊本空港だけにいるわけじゃないんですね」


「そうだね。でも、真面目な話、滑走中の飛行機がそうした動物と衝突すれば、滑走路を外れたりして大きな事故が起こりかねないんだよ」


「対策はあるんですか?」


「陸上動物対策は空港に入れないようにフェンスを高くしたり、隙間のないようにしたりするなどしている。ただ、問題は野生動物だけではない」


「野生だけではない?」


「犬や猫などは基本的は飼っている人間がいたわけで、中には空港に動物を捨てていく不届き者もいる。そうした小動物が、空港のレストランなどから出る食べ物を狙って住み着いている例もある。それが滑走路に出てしまうこともあるわけだ」


「人間の側にも問題があるということですね」


「ところで、さっきから何を作っているの?」


「焼き鳥です。おつまみにいかがですか?」


「そうか。うん。今日は、しっかり味をかみしめよう」


しげさん:

「お客さん」


「うん?」


「知っているね」


イラスト: シラサキカズマ