VUCA/感染症の時代、つまり何かができてもすぐ壊れ、病気を治してもすぐぶり返すような時代を生き抜き繁栄するコツとして、復元力(resilience)が注目されています。復元力の一つが、このコラムでお話してきた、パズルを組み立てて解くように情報をつないで型をつくる力です。せっかくつないでもすぐ切断されるかもしれませんが、つなぐ力さえあれば、そこでめげずに、もっといいつなぎを実現しようという意欲がわいてきます。何度でもつなぎ直す力は復元力の典型でしょう。
第三回目でお話した、WHY/WHAT/HOW(YWH)も、情報をつなぐ基本的な方法で、第四回ではYWHも使いながら人をつなぐ方法を、桃太郎の一人旅になぞらえて話しました(人は情報の塊で、人をつなぐのも情報をつなぐことです)。今回は、情報をつなぐ力について3つの力に因数分解してお話します。3つの力とは、「専門性」と「統合力」と「連携力」で順番に説明します。
情報をつなぐ基本「専門性」
情報を最前線でつなぐのが「専門性」です。専門性が情報をつなぐ基本です。 ところで一つの専門性とはどの範囲を指すのでしょうか。常識的には、財務という専門性やマーケティングという専門性や特定分野の研究などがそれぞれ一つの専門性です。企業でいえば、~課の~が専門性の基本単位といっていいでしょう。大学であれば一つの科目になっている範囲が一つの専門性でしょう。
実践的にいうと、毎日7、8時間勉強して丸二年(合計で5,000時間)かかるくらいで習得できる範囲が一つの専門性です。朝から晩まで教科書を読んでいるだけではなくて、先生の講義を受けたり、宿題を解いたり、一緒に学ぶ人と議論やグループワークをしたり等、その専門性を使って、何か役に立つ結果を出す経験も含めての5,000時間です。少なくともそれくらいの時間を投資しなければ価値ある専門性は形成できません。逆にいえば、それだけの時間をひねり出せればほとんどの人はその専門性を習得できて、その分野でプロの卵として食べていけるベースをつくれます。そういう専門的なベースがあって初めて職につけるということになります。日本の雇用市場は、専門性を身に着けたとは言い難い素人新卒を大量に採用するモードにありますが、早晩、専門性の保持を就職の条件とする時代に移行していくでしょう。付言すると、一つ専門性をもてば、一つの会社で働く必要はなく、複数の会社で働くことが可能になるし、リモートワークの可能性も高まるでしょう。
専門性をつなぐ力「連携力」
さて、一つの専門性を習得するにはそれなりの努力が必要でそれなりの価値はありますが、このコラムでお話している価値創造者となるには、専門性の習得に加えて、異なる専門性をつなぐ力を身に着けることが必要です。諸専門性を組み合わせることではじめて価値を生み出すことができるからです。
専門性をつなぐ力の代表が「連携力」です。「連携力」は、専門性や専門家を「水平に」つなぐ力(方法)です。たとえば、ある専門家が、別の専門家と対等の立場で協力するのが連携です。さらに、あるチームが別のチームと対等に協力することや、ある企業が別の企業と対等に協力することも連携です。連携は、専門性やチームや会社をつなぐことを通じてそれらの諸主体がもつ情報をつないでいます。
いずれの場合も、連携力の正体は、連携する当事者同士がギブ・アンド・テイクを通じて、ウイン・ウインの関係をつくることです。その際、お互いの事情を要領よくつかむことが重要です。そのコツは、お互いの状態についてWHY/WHAT/HOWを使って推測したり、質問したり、説明しあうことです。
実は、この連携力は第四回のコラムで、桃太郎のように一人旅モードで仕事をするあなたが、自分の仕事に他の人たちをまきこんでいくときに使っています。あなたが協力を求めた相手は、相手の本業を続けながらその力を部分的にあなたにギブしてくれ、あなたも自分の力の一部をギブするという連携です。
その際、専門性を身に着けつつあるあなたであれば、専門性ベースのギブが可能になります。それに対応して相手からテークできる内容も高まってくるはずです。つまり、ギブアンドテークのギブの玉としてもあなたの専門性が活かせるわけです。それは、専門性の活用範囲を広げることで専門性を磨けるという点でもよいことです。
目的を実現するための協力関係「統合力」
連携的な巻き込みからもう一歩すすめて、協力相手が、あなたの仕事の目的まで理解し、その実現のために動く、即ち、あなたのチームの一員として協力してくれるところまでいけば、「統合」になります。相手があなたのチームの為に使ってくれる時間が20%でも、あなたの目的達成に意図的に協力してくれる限り、部分的な統合が成立します。この統合を実現する力が「統合力」です。
「統合力」は、元来、専門性や専門家を「縦につなぐ」力です。たとえば、企業には様々な部や課があるでしょう。人事部は人事関連の専門性を統合しています。人事部の中には、採用担当の課や育成担当の課や報酬担当の課などがあるはずです。これらの課はそれぞれの専門性を統合しています。それぞれの課の最小単位は担当者(専門家)です。担当者からみると、担当者は課に統合され、課は部に統合されます。担当者を課長が統合し、課を部長が統合します。専門性を「縦に(階層的に)つなぐ」のが統合です。どうやって統合するかといえば、共通の目的を定めて、その目的達成に必要なさまざまな専門性(専門家)を集めて動かすことによります。
ここで強調したいのは、課長や部長にならなくても一人旅モードの延長で統合力を使えるということです。そのコツは、先に触れたように、まずは、ギブアンドテークの水平的な連携力で相手を自分の仕事に巻き込んでいくことです。また、そういう連携力は、あなたが専門性を習得する途中から使えます。5000時間かけて専門性を習得するのを待つ必要はありません。むしろ、連携のためのギブアンドテークの玉として、習得途上の専門性を使うことが専門性習得を加速します。
新時代を生き抜くためには3つの力を同時に磨くべき
以上お話した、専門性・連携力・統合力の3力をまとめて表すのが図Xです。専門性は、WHY(ニーズ・目的)/WHAT(パフォーマンス・能力)/HOW(ツール・材料)のうちの、WHAT(能力)を構成する基本単位です(いわば小文字のwhatです)。いくつかの専門性を一つのWHY(ニーズ・目的)実現のために、HOW(ツール・材料)を用いてまとめるのが統合です。専門性同士や、統合された専門性(例えば課や部)を対等の立場でつまりギブアンドテークでつなぐのが連携です。このように3力は、第三回でとりあげたWHY/WHAT/HOW(YWH)と密接につながっているので、YWHの練習が3力を伸ばす練習にもなります。
図Xは、あなた個人の情報のつなぎ方の可能性の全貌を示していますが、そこに、他の人の専門性も含まれている点が重要です。自分の(一つの)専門性を起点にして、他の人の専門性を連携力で水平的に、統合力で垂直的につないで、情報や専門性を縦横無尽につなぐことができれば、第二回でお話した価値創造者への道が開けます。自分の専門性を開発するときにも、他の人の能力(専門性等)の活用も視野にいれて、統合力・連携力の開発を平行して進めることによって、新時代向きの3力を同時に開発することがお勧めです。
最後に、この連載を続ける中で、にわかに、急死率の高い「感染症時代」に適応する行動スタイルの確立がビジネス上も重要テーマとなりつつあります。新時代向きの行動スタイル、特に、大勢で物理的に一か所に集まることを原則避けるような組織行動スタイルの確立において、人間関係の「新しい距離感(複数)」の模索がかなりの期間続くと予想します。その際、本コラムでお話した「仲間づくりの一人旅」スキルがこれまで以上に必要とされることになるでしょう。