AI等のマシンの能力が日進月歩で増大する中で、人間として何をするのか、何のためにするのか、どのようにするのか。特にどのような能力を身につければ生き残り、繁栄できるのか。この問いについて考え、答えを出すにはまず、新しい時代の特徴を抑えることが必要です。

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    これからの時代を働きぬく学び方を知る

新時代をつくっていくのは"3つの波"

新時代をつくっているのは3つの大きな波です。第一の波がグローバル化(Global)です。グローバル化の意味するところを端的にいえば、日本国内で日本語で日本人同士だけで仕事ができた時代が終わり、仕事で求められる能力や作法が大きく変わったことに、まだ適応できていない企業や人材が数多く存在する、ということです。

個人やチームの力がストレートに問われるスポーツの世界では、人や組織のグローバル化が先行しています。ラグビーの日本チームのメンバーはもはや日本人の両親から生まれた人たちだけではありません。サッカーや野球で活躍する日本人選手も海外で活躍する日本人が沢山混ざっています。国技といわれる相撲ですら横綱は外国人や帰化した日本人です。

第二の波がスマート化とソーシャル化を伴うデジタル化(Digital)です。デジタル化の始まりはアイフォーンが登場した2007年あたりとされますが、その影響が欧米企業の組織運営や人材マネジメントに明確に及びだしたのは2015年あたりからです。日本企業の組織や人材への影響は少し遅れて、ここ1、2年のことです。

今日のデジタル化の中で特に注目されるのは、人間とマシンが一緒に働くことです。グローバル化が外国人と働くことや外国で働くことを意味したように、デジタル化はAIやロボットなどマシンと分担して働くことです。場合によっては、マシンが作るシステムの中で、ちょうど外国で働くように、人が働くことも含みます。人間らしい価値は何かが根本的なレベルで問われています。

第三の波が企業組織における主役人材の世代変化です(People)。海外企業で勢いのある企業では、経営リーダーもミレニアル世代(20代から30代)に移りつつあります。読者の中にもこの世代がかなりいると思いますが、この世代は、お金よりも価値を大事にしたり、上下のかた苦しい関係よりフラットな関係を好んだり、一つの会社にずっといるより自分のキャリアを充実させるために転職したり、社会への貢献を強く意識するといった特徴があります。この世代の特徴と先行世代の特徴はかなり異なっていて、どちらの特徴が企業組織の主旋律になるのかのせめぎあいが始まっています。

日本企業の情勢はどのように変わっていくのか

3つの波が合わさって、日本企業が置かれた情勢は全体としてどうなっているのでしょうか。それを表す言葉がVUCA(ヴーカ)です。流動的(Volatile)、不確か(Uncertain)、複雑(Complex)、曖昧(Ambiguous)の頭文字です。これは、G/D/Pの波で激変が進む中で、その中身を要約する言葉としてVUCAが使われるようになりました。

▼AからBへの「変化」ともいえないくらい「変化」が激しくなったことを「流動的(Volatile)」といっています。

▼時代が流動的になれば、明日はきっとこうなるだろう、来年はきっとこうなるだろう、という予測がつきにくくなっています。未来は不確か(Uncertain)です。

▼加えてグローバル化も効いていて、日本の東京で仕事をしていても、そこには、世界のさまざまな地域の出来事の影響が及びます。米国と中国で貿易戦争が始まれば、日本の景気にも影響します。多数の当事者が織りなす複雑(Complex)な時代になっています。

▼以上が合わさると、自分の周りで今起きていることについても、明確にこうだとはいいにくくなります。すべて曖昧(Ambiguous)です。ひと昔前なら、気の利いた課長にでも聞けばその課の状況は大体わかりました。ところが今は、「私は状況を明確に把握している」という課長がいたら、それは分かっていないことも分かっていないだけのことかもしれません。気の利いた課長をも無知の無知におとしめるのがAmbiguousな時代です。

G/D/PとVUCAの影響は増大中で、数年前からディスラプション(断層的な破壊)という言葉も使われています。例えて言えば、せっかく長い時間をかけて組み立てたジグソーパズルの完成形が、一夜にしてぐちゃぐちゃにされるようなものです。VUCA風にいえば、台紙(プラットフォーム)に激震がおよび、台紙上のジグソーパズルの諸ピースが流動的(V)にぐらぐらして、その形が今にも崩れそうで不確かな(U)状態で、ふと気が付くとすでに一部崩れ始めていて、その形はまとまりを失いかけて複雑化(C)しつつあります。もはや、それが何かは見分けもつかない曖昧な(A)状態になっています。

せっかく完成させたパズルがすぐ壊れるという例えを、現実世界にひき戻すと、それは出来上がったパズルの形に相当する重要なことがら、たとえば「知識」や「学歴」や「就職先」や「キャリア」などの価値が、流動的で不確かでぐちゃぐちゃであてにならなくなることを意味します。VUCA時代においては、従来的にはいい形だと思われた「一流校や一流企業や一流のキャリア」を手に入れても安心できません。グローバル化の中で、日本で一流でも国際競争に勝てる保証はありません。加えて、日進月歩で進化するAI等のマシンとの競争も始まっていて、これまで人間が独占していた仕事の聖域も浸食されつつあります。

新しい時代をどのように生き抜くべきか

こういう新しい時代の中では、どうしようか、と思うのは自然です。あなたならどうしますか?

おすすめのアプローチは、できあがったパズルのピースにちんまり収まることをめざす人生やキャリアをねらうのではなくて、自分でパズルを組み立てて、パズルを解く側に回ることです。例えば、競争力のある経営コンサルタントは、クライエントが出したパズルを解き続けます。そもそもだれかのパズルが壊れて初めてコンサルタントの商売は成り立ちます。ある意味で人のパズルが壊れるのを待っています。といっても、コンサルタントの側にもレディメイドの答などありません。クライエントからは事例とかメソッドとかを紹介してくれと頼まれますが、そんなものに仮に価値があってもその賞味期限や適用対象は限られています。VUCAの時代ですから。

他方で、さまざまなクライエントを相手に、異なるパズルを組立て続けている経験が貴重でそれが唯一の武器です。新しいパズルをどう組み立てるかは、パズルをみた段階ではわかりません。でも、都度考えて組み立てればいい、必ず組み立てることができると信じて取り組みます。せっかく完成したパズルもその賞味期限も限られていて、その効力が消えたり壊れたりしますが、「お、また壊れたぞ。さあ、仕事だ」と腕まくりするマインドセットが次第にできてきます。自分の職業であるコンサルタントを例に出しましたが、パズルを組み立てて解く側にまわるという作戦は、VUCA時代のどの職業にも共通して通用する作戦です。

パズルの比喩から現実の世界への補助線をひくと、それは「情報をつなぎあわせること」です。現代におけるいい製品やサービスは、すべて「情報」という「パズルのピース」をうまく組み合わせることでできています。それもすぐ賞味期限が切れたり、もっといい競合品がすぐ現れますから、都度、新しく情報をつないで新製品・サービスを作るしかありません。

一つの朗報は、情報をつなぎ合わせる力を磨けば、VUCAへの恐怖心は小さくなって平気になります。むしろ、VUCA時代向きの気分になって、既存の情報の塊・製品がこわれるのを待ち構えるようになるでしょう。安定した何かにすがるよりも、作り直すその過程こそが面白い、そういう境地に次第に入っていきます。

もう一つは、「パズルを組み立てる=情報をつなぐ」方法は極めてオーソドックスで常識的です。ただ、その常識にかなったつなぎ方を明確に理解して、それをメソッドとして、型として身に着けるような訓練している人がまだごく少数であるだけです。このコラムでは、情報パズルのつなぎ方・組み立て方を具体的に解説していきます。