Aさんは、昨年春に入社した4人の新人たちの「仕事の向き合い方」にイライラし、ストレスを抱えていました。ストレスの要因を一言でいえば、新人たちが「受け身の姿勢」で仕事に取り組んでいること。

「僕らの時代は、自分から積極的に、仕事を覚えにいったものですよ。それに対して、イマドキの子らは……」

更にAさんは続けます。

「だから、新人たちを集めて頻繁に気合いを入れているんです。それが先輩としての勤めだと思うんですよね。ただ、全然変わらないんですよ。それどころか、距離感ができているような気がして……」

  • 新人と距離を感じることはありますか?(写真:マイナビニュース)

    新人と距離を感じることはありますか?

新人教育でやりがちな過ち

「気合いを入れるとは、どんなことをしているのですか?」

返ってきた答えを要約すると、

(1)定期的に会議室に全員を呼び出しMTGをする
(2)時間はだいたい30分から1時間程度
(3)伝えている内容は、「もっと気持ちを込めろ」「自分で考えるクセを付けろ」といった仕事への取組み姿勢へのアドバイス

とのことでした。

ちなみにAさんは、自分に厳しく他人にも厳しいですが、後輩思いの先輩であることは間違いありません。(決して自己顕示欲の強いイヤなタイプの方ではありません)

フィードバックをし、彼ら・彼女らを成長させてあげたい! という思いは素晴らしいことです。とはいえ、いくら愛情があろうとも、この伝え方では相手は変わりませんし、距離ができて当然です。

なぜなら、「全員で」「30分~1時間程度」「話が抽象的」というところにズレがあるからです。

どうすれば解消できるのでしょうか?

新人に適切な接し方

全員ではなく個別に話す

心理学で「リンゲルマン効果」というのですが、人は複数の中のひとりとして話をきかされて「他人事」としてしか捉えません。「Aさんは、〇〇しよう」「Bさんは、△△しよう」といった形で、一人ひとりにメッセージを分けて伝えてこそ「自分ごと」として認識するのです。

話す時間は極力短く

心理学者Karen WilsonとJames H. Korn氏の調査によると、人間の調査は長くとも15分程度だそうです。これは私の個人的な体感値でも、共感できる部分があります。

30分、ましてや1時間近い時間を、立場の上の人から気合いをいれられ続けたところで、(大人なので表面的には相手に合わせると思いますが)「早く終われ」とずーっと思い続けて時間が過ぎるのを待つだけではないでしょうか。

改善点を指摘する場合は、サッと短い時間で行うことがポイントです。

具体的な指摘とやり方を伝える

例えば、あなたが料理をまったくやったことがなく、料理教室で初めて何か料理を作ったとしましょう。

あなたの作り方を見ていて、かつ、できた料理を食べた先生からもらったアドバイスが「もっと気持ちを込めましょう」「自分で考えるクセを付けましょう」だけだとしたら、あなた料理の腕前が上がるでしょうか?

もちろん精神面(あり方)とスキル(やり方)は両輪です。ただし、相手が初心者の場合は、「具体的に、ここの部分は、こういう風にした方がいい」という「やり方」に焦点を当てるフィードバックをした方が「どうしたらよいのか?」が分かり、スキルは伸びるのではないでしょうか。

スキルが伸び、できることが増えてきた段階で、徐々に「あり方」も混ぜる方が効果的だといえませんか。

つまり、「『全員を集め』『30分~1時間程度』『抽象的で気合いを入れる』」ではなく「『一人ひとりに』『短時間』で『具体的なアドバイスをする』」方が効果的ではないでしょうか。

相手でなく自分のやり方に注意を向ける

著名な心理学者アドラーは、「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と言いました。

他者の関わり方は、やはり難しい。ましてや人材の育成は本当に大変です。だからこそ、うまくいかないときは、他者よりも自分自身に目を向け、「自分のコミュニケーションの取り方で改善できるところはないか?」という考え方を持つことも大切です。

それが、自分の中にストレスも溜めず、相手にとっても有益な時間になるのですからー。