「職場で特別、何かあったわけではないのですが……。仕事に行くのが、何か苦しい感じがしていてしんどいです」。
先日このような(少しディープな)相談をAさんから受けました。
話を掘り下げていくと、「上司や先輩から怒られないか不安」、「周りの人に嫌われていないかが怖い」、「同期と比べ、自分は仕事ができない人間だったらどうしようという恐怖」、「学生時代の仲間がSNS上でプライベートを充実させていているのを見て劣等感を持つ」、こういったことを常に感じながら、日々、ストレスフルな毎日を過ごしているとのことでした。
確かにしんどいですね。
相手の顔色ばかりうかがう
Aさんのお話の共通項は「相手からどう見られるか」という「他人の顔色うかがい」が基準であること。
この無意識の思考パターンを「いい子症候群」といいます。特徴は、以下のように自分の気持ちをないがしろにし、他者に気にいられよう(もしくは、怒られないようにしよう)としてしまう点です。
いい子症候群の特徴
●親や教師から「真面目だね。いい子だね」と言われるように演じてきた
●嫌な感情があっても、その気持ちにフタをし、ごまかそうとしている
●衝突を避けたいから聞き分けがいい人になるようにしている
●「自分の気持ちがどう……」は脇に置いて「他人の意思」に従おうとする
●「自分がどうしたいか」ではなく「失敗しないように」行動する
●「こうしたら良くなる」ではなく「怒られないようにする」を常に中心軸に置く
いい子症候群候群は、起因の理由が幼少期の育てられ方にある場合が非常に多いことが分かっています。「価値観の押し付けをされ、それに従わざるをえなかった」環境にいた人ほど、この傾向が強いのです。
親は子供を育てる時、自分の価値観を子供に押し付けがちです。もちろん親としては、子供のために良かれと思ってしている場合がほとんどでしょう。しかし、人それぞれ価値観は異なります。たとえ親であれ「他者からの価値観の押し付けられ」は、子供にとっては苦痛に感じることの方が多いのです。
とはいえ、子供は愛されて守られなければ、生命を維持することができません。だから「親に愛されたい」という本能を持っています。その本能から、自分の気持ちを押し殺してでも「親に気に入られよう」と努力します。
その結果、本来のあるがままの自分を押し殺してでも、相手の顔色をうかがいながら生きるようになってしまうのです。
自分を優先した生き方へ
Aさんにこの話をすると、「親の引いたレールの上を歩くこと」を強制され少しでも意にそぐわないことがあると、とても強い口調で咎められるような家庭環境で幼少期から過ごしてきたことを伝えてくれました。
いかがでしょう? ここまで読んで、もし、ご自身に、この傾向が強いと感じる共感ポイントがあるのであらば、以下を実践してみることをお勧めします。
スタンスを意識的に変える
はじめにすべきことは、「自分の気持ちよりも相手の要望を優先する(Lose‐Win)ことが正しい」という思い込みの払拭です。
人間は誰しも「あるがままの自分」で生きる権利を持った素晴らしく尊い存在です。「自分の気持ちを最重要優先順位に置いて良い」という前提に立ち、「自分も相手も両方が気持ち良く過ごせるような生き方(win-win)」をするように、認識を意識的に変えましょう。
コミュニケーションスキルを磨く
この傾向が強い人は、自分の気持ちを相手に上手に伝えることが苦手な方が多いように私は感じています。これに当てはまる方は「自分も相手も同等に尊重しながら、自分の意見や気持ちを適切に表現する」ためのスキルである「アサーティブコミュニケーション」に関する書籍やWEB記事などを読んでみることをお勧めします。
……と書いてきましたが、実は、いい子症候群はとても根深いもので、ちょっとしたセルフケアではどうにもならない場合があるのも事実です。
また、この傾向が強い方はメンタル不調を起こしやすいこともわかっています。あまりにしんどいときには心の専門家に相談するようにしましょう。
執筆者プロフィール : 阿部淳一郎氏
ラーニングエンタテイメント
代表取締役
若手の採用・育成・定着に強い人材開発コンサルタント。早稲田大学教育学部卒。筑波大学大学院(ストレスマネジメント領域)修了。保健学修士。社会人教育を行う東証一部上場企業等を経て2004年に起業。「メンタル不調者を減らし、若者の能力を引き出す」をコンセプトに人材開発業務に従事。大企業から中小・ベンチャー企業、学校、行政まで研修登壇実績は約1500本、コンサルティング実績30社。サンフランシスコ・シリコンバレーへも事業展開中。大学での就職活動領域における講師歴も長い。『これからの教え方の教科書(明日香出版社)』など著書3冊。『NHK』『日経新聞』『読売新聞』『日経アソシエ』『週刊SPA!』など取材実績も多数。